「習近平・洪秀柱」国共党首会談――親中・国民党に逆効果
11月1日、習近平総書記と台湾、国民党の洪秀柱主席が対談した。北京側の洪主席に対する扱いはそっけなく、「和平協議」は国民党には逆効果だった。「平和とは恐怖政治下の平和」と台湾民意の反発も招いている。
◆見くびられている台湾の親中・国民党
11月1日午後、習近平総書記と洪秀柱主席は、人民大会堂の「福建の間」の前で対面した。 台湾、香港を中心として活動する「中國評論通訊社」によれば、二人の面談は次のような言葉から始まったという。
洪秀柱:総書記、こんにちは。
習近平:主席、こんにちは。ようこそ、いらっしゃいました。
洪秀柱:ありがとうございます。
つまり、二人は「二つの国家」ではなく、「一つの国家」の中の「二つの党」の代表として会ったことになる。
2015年11月7日に習近平国家主席と当時の馬英九総統がシンガポールで中台トップ会談を行ったときは、馬英九氏が総統であったことから、「一つの中国」を表すために、互いに「習先生」「馬先生」などと、「先生」という敬称で呼び合った。
今回は、洪秀柱氏が野党・国民党の党首でしかないことから、各党のトップの呼称で互いを呼ぶことにしたようだ。
2人は20秒間ほど握手して、左右に広がっている記者に平等にサービスしたあと、福建の間に入っていった。
その時の様子は、中央テレビ局CCTVで報道されたが、何よりも注目すべきは、「習近平・洪秀柱」の二人だけの対談は行なわれず、飾り付けのない(中間に花さえ飾ってない)テーブルに、大陸側対台湾側が「7人対7人」で向き合って話し合っただけだったということだ。
2005年4月29日に台湾の国民党の連戦主席(当時)が胡錦濤総書記(当時)と会った時には、1945年以来60年ぶりの国共両党首の会談として、全中国をあげての熱狂的な歓迎をしたものである。もちろん、両者は、それぞれソファーに座って(随行者は脇に座った形で)「二人の会談」を人民大会堂でおこなった。「胡連会談」は何種類かの分厚い写真集にもなったほどだ。
このとき、連戦主席が、なぜ訪中の道を選んだかというと、二度にわたって台湾の総統選に敗れたからで、「連戦連敗」と揶揄されたものだ。民進党に負けた国民党は、「大陸への接近」を重視することによって、民進党との差別化を行い、国民党の勢力を挽回しようとしたのである。
その国民党、いま再び「親中度」を激化させることによって、台湾の民意を惹きつけ、次の選挙を有利に運ぼうとしているが、それは台湾国民にとって逆効果であるだけでなく、北京側からも「見くびられている」現状を招いている。
習近平総書記は党首会談で、洪秀柱主席に対して、つぎのように述べた。
「一つの中国の原則のもとで、正式に両岸の敵対関係を終わらせ和平協議を達成すべく協議することは、われわれの一貫した主張でもある。国共両党は、これからこの問題に関して討議を進めてもいい」
それはあたかも、「和平協議を法律的に有効化させたいのなら、政権与党になれ」と言っているように筆者の目には映った。なぜなら「ぜひとも討議を進めたい」とは言わずに「可以進行探討(討議を進めてもいい)」という言葉を使ったからだ。そして何よりも、習近平の顔には、「熱意」がなかったからでもある。
◆台湾の民意に逆行する洪秀柱主席の動き
一方、台湾では、洪秀柱主席の動き方に大きな反発が起きている。
10月30日の「台湾中央社」の報道によれば、洪秀柱氏が大陸に向かうべく飛行場に着くと、そこには大勢の反対派がいて「洪秀柱は共産党に媚びへつらい、台湾を売り渡している」とか「今日は香港、明日は台湾」などといったプラカードを掲げて、洪秀柱氏の過度の中共へのすり寄りを批難したとのこと。もちろん賛成派もいて衝突が起きたようだ。
また多くの中文メディアが「(国民党を建党した)孫文や最後まで中国共産党と戦った蒋介石が、こんにちの国民党のこの “ていたらく” を見たら、どんなに嘆くことだろう」「国民党は良心と気概と尊厳を捨てたのだ」と書いている。
筆者が直接、台湾の大学生たちに電話取材をして得た意見によれば、若者の間ではほとんど(「90%ほどかな」と学生たちは言った)が洪秀柱氏の「和平協議」を「台湾への侮辱」とみなしているという。
「国民党はすでに自尊心を捨ててしまっているのです。これは台湾人の尊厳に関わる問題で、どんなことがあっても、国民党に政権を取らせてはならないと、若者たちは思っています。僕らは、尊厳のために闘ってきたというのに……」という回答もあった。
筆者は2014年に台湾の大学生に対する意識調査を単独に行なったことがあるが、それによれば「最も嫌いな国あるいは地域」のトップは「大陸(=中国)」で、理由は「恐怖政治による言論統一」だった。
このたびの「和平協議」に関しても、意識調査をした時のインタビュー・アンケートに応じてくれたネットワークを使って聞いたところ「この和平とは、恐怖政治の下での和平なのです」と回答する者が多かった。
◆民意調査のデータ
一般の民意調査は、どの団体が行なったか、あるいはどういう質問を設定したかなどによって結果が違ってくる。それを認識した上でいくつかの例を見てみよう。
まず1989年の天安門事件の指導者の一人であったウアルカイシ氏などが主宰する「台湾民意基金会」が9月27日に発表した民意調査の結果によれば、「67.4%が中国共産党に反感」を抱いており、「19.3%が中国共産党を礼賛」している。また「56%が台湾は将来的には独立した方がいい」と考えているという。
両岸問題に関しては、「70.8%が中国共産党のやり方は横暴だ」と答え、「10.8%が道理に合っている」と回答。「中国共産党は信頼できるか?」という質問に対しては「68.4%が信頼できない」と回答し、「16%が信頼できる」と答えている。
この結果に対して、ウアルカイシは逆に、「20%にも及ぶ者が、中国共産党を礼賛しているというのは信じられない」と嘆き、「中国共産党がどういうことをやる政党なのか、知らない台湾人がいる」として、実態を知らせなければと感想を述べている。
一方、国民党政策会の民意調査によれば、「和平協議を書き入れた国民党の党綱領」に関して、「賛成が51.5%」「反対が20.2%」という結果が出ており、国民党員および支持者だけを調査対象とすると、「82.5%が賛成」しているとのこと。
これを以て、「和平協議に関して、こんなに賛成者が多い」と国民党側は解説しているが、むしろ、国民党の中にも反対者がいることに驚くというべきではないだろうか。
この調査は国民党自身が行っているので、当然、「国民党に有利な結果」を誘導する要素が十分に入っているはずだ。だというのに、党内でも意思統一ができていないデータが出てしまっているのだから、政権奪還の可能性は薄いと考えていいだろう。
◆日本にできること
中共政権に最も反対していいはずの国民党がこのようでは、民進党に頑張ってもらうしかない。民進党が政権与党である限り、今般の「習近平・洪秀柱」党首会談に見られるように、中国にできることには限界がある。台湾の若者の意識が高いので、逆効果さえ招いている。
どうも日本では「このたびの国共党首会談は、習近平政権による蔡英文政権への牽制」という分析が多いようだが、積極的だったのは洪秀柱主席側で、習近平総書記は、蔡英文政権を牽制するほどには洪秀柱主席を歓待はしなかったと、筆者の目には映った。むしろ、「和平協議をしたいなら、政権を取ってから出直してこい」というものを感じたほどだ。
となれば、国民党に政権を取らせないことが肝要となる。
最後の砦として、日本企業などが、台湾の民進党政権を応援してくれることに期待したい。それが日本を守ることにもつながると信じる。