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熱中症から選手を守れ!もう通用しない根性論

安藤隆人サッカージャーナリスト、作家
灼熱の人工芝ピッチでの戦いだった流通経済大柏VS鹿島ユース(安藤隆人撮影)

連日猛暑で、私の故郷である岐阜は日本の高温ランキングを独占するなど、日本列島は異常とも言える気温上昇に見舞われている。

40度超えも生じ、新聞やTVでは毎日のように熱中症で運ばれるニュースが報道され、中には全校集会や部活中に倒れて救急搬送されるニュースも後を断たない。

ここ数年、異常気象とみられる現象が毎年のように続き、『観測史上初』という言葉が踊ることも珍しくない。中でも猛暑は年々ひどくなっており、その対策は急を要している。

今、議論の的になっているのがスポーツだ。特に若い年代のスポーツは猛暑の中でも変わらず行われる。

私はサッカージャーナリストであり、育成年代を中心に取材活動を続けているが、ここ数年の10時〜16時までのピッチ上の気温は異常と言えるほど灼熱と化している。

それはただ異常気象だけが原因ではない。サッカーは近年、人工芝ピッチが猛烈な勢いで普及している。サッカーに力を入れている学校が自前の人工芝ピッチを持ったり、競技場のグラウンド、サブグラウンドが人工芝化したり、空き地に人工芝ピッチのサッカーグラウンドを新設するなど、全国各地で人工芝化が進んでいる。

この人工芝ピッチが酷暑に拍車をかけている。人工芝ピッチを作るには、まず下地を土ではなく、開粒アスファルトなどで覆わないといけない。

グラウンド全体をアスファルトで覆ってから、その上に人工芝を植え付ける。そのままではクッション性に弱いため、ピッチ全体に珪砂とゴムチップを敷き、吸収性を高めている。特に最近は技術革新が進み、より天然芝の感覚に近い、高性能な人工芝ピッチになっている。

だが、このアスファルトの土台が土のグラウンドのように熱を吸収せず、反射熱が起こる。

もちろん吸水性を考えた開粒アスファルトを使用し、保水から気化熱冷却をするなど、工夫がこらされているが、それでも天然芝や土と比べるとどうしても限度がある。

さらにピッチ全体に散りばめられたゴムチップがより熱を吸収してしまい、高温化をして行く。灼熱の人工芝ピッチでプレーをしていると、ひどいときには足の裏がやけどで水ぶくれになることもある。特に最近のスパイクは軽量化され、革の薄い素材があり、より素足にダメージが行くこともある。

私もよく人工芝ピッチの上で直射日光の中で写真を撮っているが、あまりの暑さに意識が朦朧としたこともある。水分を常に手元に持っておかないと、身の危険を感じることもある。

こうした人工芝ピッチの灼熱化も加わり、ピッチ上は想像を絶する灼熱地獄となっている。

人工芝ピッチの表面温度を下げるためにプレー前に散水することが効果的だが、毎回散水をしていると多大なコストがかかるし、普通の高校のグラウンドでそれが毎回出来るかというと、非常に難しい。加えて散水のタイミングを間違えると、よりピッチ上の湿度が増し、散水によって劣悪な状況になりかねない危険性もある。

こうした背景もあり、サッカーの現場では私たちの時代まで横行していた『練習中、試合中は一切水を飲むな』と言った、クレイジーな戒律は無くなった。むしろピッチの周辺には給水ボトルが配備され、プレーが切れれば誰もが飲むことが出来る。

そして、日本サッカー協会は一定条件の猛暑下の試合では、前半、後半それぞれの中間の時間に『給水タイム』を設け、試合を止めて水分補給をする時間を作った。その間はピッチ外に出てはならず、ピッチ内(ライン上)での給水となる。給水タイムで消費された時間はそのままアディショナルタイムに加算されている。

さらに2016年には「熱中症対策ガイドライン」を日本サッカー協会として策定。

内容としては、夏場に行われるサッカーの大会や試合開始時間、試合をするかどうかの明確な判断基準が盛り込まれている。熱中症対策の重要な数値となるWBGT(Wet-Bulb Globe Temperatureの略=湿球黒球温度)という『暑さ指数』を計測器で測定し、大会を開催するときは試合会場の過去五年間の時間ごとの平均値を算出して、スケジュールを組む。もちろん試合当日の数値も常に計測し、数値によって必要な手立てを打たなければならない。

日本サッカー協会は『12時〜16時30分の間にキックオフを避ける』と訴えているが、それぞれの運営、グラウンドを使える時間の制約などにより、この時間のキックオフを避けることが出来ていないのが現状だ。当然、そういった場合の条件が細かく明記してある。

その要件は試合会場にWBGT計測器を備える。ベンチを含め、選手達が控える場所には必ずテントなどを設営し、直射日光が当たらない環境にする。ベンチ内で水、スポーツドリンクなどがすぐに摂れる状況にする。審判員・運営スタッフも随時給水出来るように水分を用意する。試合観戦者が水分を購入出来る環境を整える。熱中症対応が可能な救急病院を準備。給水タイム・クーリングブレイクの実施などが挙げられる。

最後に挙げた『クーリングブレイク』とは、灼熱のブラジルで行われた2014年のW杯でも設けられた3分間の給水休憩のことだが、さらにピッチ上のみだった給水が、日本で導入しているクーリングブレイクでは日陰の場所に移動し、水だけでなくスポーツドリンクを飲むことが出来、さらに冷却水やアイスパックなどを使用して身体を冷やすことが出来る。時間も3分間と長く、この時間もアディショナルタイムに加算されている。

日陰のあるテント内で椅子に座って水分補給をする選手達。強烈な日差しが照りつけるピッチ上ではなく、こうして日差しからの避難所を設けることはもう欠かせないものとなっている(安藤隆人撮影)
日陰のあるテント内で椅子に座って水分補給をする選手達。強烈な日差しが照りつけるピッチ上ではなく、こうして日差しからの避難所を設けることはもう欠かせないものとなっている(安藤隆人撮影)

このように悲惨な犠牲者を出さない努力はしているのは間違いない。むしろかなり柔軟に対応をしていると言って良いだろう。しかし、これらを持ってしてもなかなか追いつけないほど、年々加速する猛暑による選手への負担は大きくなっているのも現実だ。

実際に11時キックオフの試合を取材に行き、この試合でもクーリングブレイクは導入されたが、後半になると選手達の動きも鈍り、激しい消耗戦となっていた。

11時キックオフは『12時〜16時30分』の中ではないが、一番負荷がかかる後半になるに連れてどんどん暑くなって行き、より消耗度が激しくなってしまっている。それは10時キックオフでも当てはまる。だからこそ、キックオフ時間を17時以降にするだけでも、前半は暑さが残るが、後半に掛けて徐々に暑さは減って行く。

もう理不尽や根性で通用する状況ではない。サッカーをするなとは一切言わない。だが、もうそろそろ試合時間を考え直さないと、犠牲者が出てからでは遅い。

これから高校年代は7月に灼熱の群馬で開催される日本クラブユース選手権、8月に三重で開催されるインターハイと、メインイベントが控えている。

日本クラブユース選手権は22、23、25日にグループリーグ3試合を行い、26日にラウンド16、28日に準々決勝が開催される(※準決勝、決勝は東京の西が丘サッカー場で16時、19時キックオフ、決勝は17時キックオフ)。グループリーグは午前9時、午後11時20分キックオフで、第二試合はかなり過酷な条件下となる。その中での連戦、中1日は相当な負荷が掛かる。それだけに試合当日が記録的な猛暑であれば、試合中止を含めて、運営本部の判断がかなり重要となる。

インターハイも8月7、8、9日と連戦し、1日休んで、準々決勝から11、12、13日と連戦を行う。1回戦のキックオフ時間は10時、12時、14時。それ以降は10時と12時になる(決勝は11時)。いくら35分ハーフと言えど、ベンチ入りメンバーも少なく、選手達の負担は相当大きく、これも運営本部の判断が重要となる。

もう過去の経験は通用しない。昔と気温も環境も一切違う。この現実を見据えて懸命な判断を期待したい。すべては犠牲者を出さないために―。

サッカージャーナリスト、作家

岐阜県出身。大学卒業後5年半務めた銀行を辞めて上京しフリーサッカージャーナリストに。ユース年代を中心に日本全国、世界40カ国を取材。2013年5月〜1年間週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!SHOOT JUMP!』連載。Number Webで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。全国で月1回ペースで講演会を行う。著作(共同制作含む)15作。白血病から復活したJリーガー早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯27試合取材と日本代表選手の若き日の思い出をまとめたノンフィクッション『ドーハの歓喜』が代表作。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼務。

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