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安倍首相の対北政策と日米首脳会談を酷評する中国

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
2018年4月21日、 米国帰国後、自身が主催した「桜を見る会」における安倍首相(写真:ロイター/アフロ)

 北の「平和路線」宣言に対する安倍首相の発言と、日米首脳会談を急いだ行動を中国は徹底酷評。北の危険度を「国難」として自分のスキャンダルをかわす根拠を失ったとし、拉致問題はなぜ自分で解決しないのかと糾弾。

◆金正恩委員長の核・ミサイル凍結に対してCCTVが安倍批判

 金正恩委員長が20日、核実験の凍結とミサイル発射の中止などを宣言したことに関して、中国の中央テレビ局CCTVは連日のように特集を組んでいるが、その中で長時間を割いて、安倍首相の一連の言動に膨大な時間を割いて解説した場面がある。

 まず、その時の論説委員の言い分を見てみよう。

 *以下は論説委員の解説の要旨をそのままご紹介する。( )内は筆者*

 安倍は昨年、北朝鮮の核実験やミサイル発射などを「国難」と位置付けて解散選挙を断行。その時は希望の党の失敗に助けられて大勝したが、しかし今こうして北朝鮮が核実験やミサイル発射の中止を謳い危機が無くなると、「国難」の根拠を失い、安倍はうろたえている。

 そのために、「国難」と位置付けた自分が正しかったことを証明しなければならず、必死で「圧力と制裁の強化」を叫び続けている。

 森友ゲート、加計ゲート、公文書改ざんゲート、自衛隊日報ゲートそして今度は財務省セクハラゲートと、満身スキャンダルにまみれて支持率も日々低下している安倍は、「国難」が正しかったことを何としても主張して政権維持を図ろうとしているのだ。(ここでいう「ゲート」は「ウォーターゲート」以来の呼称で、「大事件」を中国では指す。)

 (北)朝鮮は中朝首脳会談を皮切りに南北首脳会談を行なおうとしており、なんとトランプが米朝首脳会談に応じてしまった。中露の対朝(北)戦略は同じであり、朝露首脳会談は時間の問題だ。ここで取り残されているのは安倍だけである。だから安倍の焦りは尋常ではない。

 自国に拉致問題を抱えているというのなら、独自の対朝(北)戦略を遂行すればいいのに、安倍は「常に100%、トランプと共にある」と主張して、虎の威を借る狐のように行動してきた。あんな気まぐれなトランプと100%共にいたりなどするから、突然、梯子を外されてしまう。

 そこで慌てて、拉致問題に関して韓国の文在寅に頼んだり、トランプに頼んだりしているが、実に哀れだ。

 中国は初めから「6者会談(6ヵ国協議)に拉致問題を導入するな。自国の問題は日朝両国間で解決せよ」と日本に何度も忠告してきた。しかし日本は自国民の問題を後回しにしてアメリカ追随を優先してきた。常に他国頼みなのである。そのツケが今まわってきたに過ぎない。

 6者会談の関係国の内、「対話路線」を重視していないのは安倍だけになってしまったことに注目しなくてはならない。

 *以上が、論説委員の激しい安倍批判である。*

 この報道の後に、安倍首相は22日に開催された拉致被害者家族会や支援団体「救う会」による「国民大集会」に出席し、「南北、米朝首脳会談の際に拉致問題が前進するよう、私が司令塔となって全力で取り組む」と語った。

 これに対して拉致被害者の家族である蓮池透さんがツイッターで「司令塔?この期に及んで。どうやって?」と書き込んで、安倍首相の発言と拉致問題への取り組みを批判している。

 その意味では、拉致問題に関するCCTV論説委員の解説と一脈通じるものがあり、複雑な気持ちで拉致被害者家族のツイッターを読んだ。

 なお、CCTVのこの解説に関してリンク先を探したが見つからず、その傍証として、文章化されているCCTVの類似の記事をご紹介したい。

◆CCTVウェブサイトが日米首脳会談を酷評

 CCTVのウェブサイト「央視網」(「央視」は「中央電視台」の略で、「網」はネット、ウェブサイトの意味)は「安倍は“越頂外交”により窮地に  トップ・ギャンブルは危うく“トランプ・金会談”で失敗するところだった」というタイトルで長い報道をしている。

 ここで「越頂外交」とは「同盟国を裏切って、対立国と裏取引をする」という意味だ。「トップ・ギャンブル」というのは、「安倍首相が日米首脳会談を行うに当たり、一種の危ない賭けに出た」ということを指している。

 その内容は、実に多岐にわたり非常に長いので、興味のある方はリンク先をお目通し頂くことにして(写真が多く、簡体字だが漢字なので、それとなく推測できる)、ここではこのページで扱っているテーマだけを個条書きにするに留めたい。以下に概要を個条書きで示す。

1.米朝関係は急激な転換を見せ、日米間には貿易摩擦もあるので、安倍は不安を感じ、日米首脳会談に対して賭けに出た。

2.ところが日米首脳会談中、トランプは突然アメリカの非常に高いレベルの高官が北朝鮮と会談していると述べ、安倍を驚かせた。トランプと金正恩との電話会談などが既に行なわれてしまったのかと、アメリカのメディアも色めきだった。しかし直後に、それが国務長官に就任することになっているポンペオCIA長官であると、トランプ自身がツイッターで暴露し話題をさらった。安倍の日米トップ会談で日本がリードしようとしたギャンブルは、危うく完全な失敗に終わるところだった。

3.しかし、結局のところトランプに「越頂外交」をされてしまった安倍は、「米朝首脳会談で、どうか拉致問題を取り上げてくれ」と頼むのが精一杯だった。

4.北朝鮮が、4月21日から核実験とミサイル発射を中止すると宣言すると、安倍は完全に梯子を外されてしまった。

5.アメリカの《外交政策》ウェブサイトには「安倍はすでにトランプに愛想を尽かされている」という趣旨の評論が載った。

6.トランプは一時、条件が良ければTPPに戻ってもいいという趣旨のことを言って安倍を喜ばせたが、安倍との会談では「その気はない。二国間貿易を重視する」と示唆した。

7.ゴルフ外交を展開したが、何とも不自然なムードだった。特に何かいい成果を得たというものはない。

8.日本国内では安倍は満身創痍。次々とスキャンダルに見舞われ支持率が急激に落ちている。それを外交によって挽回しようとしたが、困難なようだ。2018年9月に行われる自民党総裁選で誰が適切かという、4月15日に行われた民意調査で、石破茂への支持率が安倍を上回るに至っている。安倍の逃避行は成功しそうにない。

9.安倍はアメリカに秋波を送るだけでなく、中国に対しても助けを求めている。4月15日に中国の王毅外相兼国務委員が訪日すると、安倍は訪米直前の慌ただしい時間の中でも、王毅外相に会って、中国に接近しようとあがいている。安倍は今年が日中平和友好条約40周年であることにかこつけて、中国に近づくチャンスを積極的に求めて、中国にシグナルを送り続けているが、日中関係が本当に改善されるか否かは、日本が歴史問題を正しく直視するか否かにかかっていることを肝に銘じなければならない。

10.日本の《外交家》という雑誌が「今度ばかりは安倍は終わりか」というタイトルで評論を書いている。しかし安倍の政治経験は長く荒波も乗り越えてきた経験があるので、リスクをチャンスに転換する可能性もないではない。

 CCTVのウェブサイトに書いてあった内容は、概ね以上だ。

 中国に言われたくないのだが…という部分が少なからずあるが、しかしこれにより、中国が何を考えているかが窺える。その意味では興味深くチェックした。

 特に気になるのは「9.」に書いてある王毅訪日に関する件(くだり)である。5月に入ると李克強の来日が予定されているが、中国の本音は、実はここにあることを忘れてはならないだろう。日本はすでに舐められている。

 なお、「10.」に列挙してある『外交家』という雑誌が、どれを指しているのかは定かでない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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