チーム・スローガンは「熱狂」中堅・若手・ベテランのバランスが抜群!ジャパンパラ水泳 振り返りルポ1
今夏のパリパラリンピックを見据えた「2024ジャパンパラ水泳競技大会」が横浜国際プールで3日間にわたり開催され5月5日に最終日を迎えた。大会を通じてアジア新3、日本新17、大会新30 を樹立。パリ代表に選ばれたアスリートがリードして日本のパラ水泳の実力を披露して幕を閉じた。
パリパラリンピックまで3ヶ月。チーム・スローガンに「熱狂」を掲げた日本代表は、横浜から泳ぎと思いを発信した。
<中堅>
大会1日目の100m背泳ぎS10決勝に続けて南井瑛翔(近畿大学)がアジア新記録を樹立、3日目はメインの男子100mバタフライS10(00:59.30)だった。またクラスがS12に変わった辻内彩野(三菱商事)が女子50m自由形S12でアジア新記録(00:27.99)を樹立した。また石浦智美(伊藤忠丸紅鉄鋼)が3日続けて日本新を樹立した。
パリへ羽ばたく石浦
石浦智美(伊藤忠丸紅鉄鋼)を中堅に入れるべきか悩む。その理由は36歳という年齢だけではなく長い全盲選手のキャリアを積んでいるからだ。遅咲きの石浦が、そのキャリアの全てをかけて2度目のパラリンピックへと挑んでいる。
大会初日、女子100m背泳ぎS13予選01:17.56の日本新を出した石浦は同級生でロンドンパラリンピック(2012年)金メダル後引退した秋山里奈の日本記録を12年ぶりに塗り替えた。2日目の100m自由形S11予選でも01:09.17の日本記録を樹立し、3日目、メインの50m自由形S11決勝では目標タイムをクリアした29.84をマークして、3日連続で日本新記録を樹立した。
2つのアジア新という実力の南井
男子100mバタフライS10で59.30と100m背泳ぎ01:04.76で2つのアジア新記録を樹立、50m自由形S10でも日本新記録(25.72)、100m平泳ぎSB10でも01:15.87の大会記録を更新した南井瑛翔(近畿大学)は、メインの200m自由形SM10をメインとしパリへ代表として選考された。アジアナンバーワンの実力をもつが、障害の軽いS10クラスのパラリンピックでは5大陸からのスイマーがひしめき南井のタイムは世界ランクだと8〜9位だ。
「(バタフライは)58秒台を狙って夏までに頑張りたい(世界との差を埋めるために)今大会で自分にすごくポテンシャルを感じた。コーチも「まだまだ伸びしろしかない」って言ってくれるので、レース動画を振り返って、力を入れ始めたドライトレーニングもしっかり継続して、自分のものにしていきたいと思います」
クラス変えで訪れたチャンスを掴め、辻内
弱視の2クラスのうちS13からより重いS12となった辻内彩野(三菱商事)は、初日から新たにメインとなる女子100m背泳S12の予選と決勝で日本記録を更新した。最終日、これまでのクラスで取り組んできた50m自由形ではS12のアジア新を更新。「アジア記録は見えていたが、意地の27.99だった。嬉しかったです」と素直な気持ちを伝えてくれた。
久保から受け継ぐリーダーの魂をもつ齊藤
代表チームのキャプテンである齊藤元希(スタイル・エッジ)は、トレーニングと位置付けたこの3日間で6種目・12レースを泳いだ。大会2日目・男子100m平泳ぎS13決勝で01:13.09の大会新記録を更新した。メインの200m個人メドレーにつながる泳ぎとなった。
世界記録で連覇を目指す、山口
男子100m平泳ぎで世界記録(1:02.75)を持つ山口尚秀(四国ガス)。知的障害クラスからのチームの副キャプテンとなった。「今年も雇われになりました。大きな盛り上がりの中で、一人一人がパフォーマンスを発揮していくには、普段でのチームワークが大事、お互いを尊重し合いチームをまとめていきたい」と話し、役割への意義を感じていた。
<成長する若手選手>
パリで金メダルを目指す窪田幸太(NTTファイナンス)、パラリンピック初出場の木下あいら(三菱商事)、川渕大耀(宮前ドルフィン)ら、パリ行きが内定したメンバーは大会に向け「選手村での生活」を想定した合宿で先輩選手らと触れ合った。
ジャパンパラでは、彼らを目標にしたスイマーたちがパリ後の大会を目指している。パリの代表には選ばれなかった岡島寛太(日本福祉大学)もその一人だ。引退した銀メダリスト山田拓朗の後を受け継ぎS9クラスで世界を目指している。
彗星の如く現れた新人・木下
2022年9月のジャパンパラでデビューした木下あいら(三菱商事)は、昨年初めての海外遠征に出場した。8月にはマンチェスターでの世界選手権で銀メダル、10月の杭州でのアジアパラ競技大会でもアジア記録を更新した。直前の代表合宿では銀メダルを獲得した200m個人メドレーSM14で課題とする背泳ぎの練習をして今大会5種目に出場した。「タイムが悪くても気持ちを切り替えることができた。パリでは自己ベストを更新して金メダルをとりたい」と話す。パリへはお菓子(特におかきが好き)をいっぱい持っていき、レース前は炭水化物をしっかり食べるという。
金メダルを目指す窪田、食らいつく荻原
窪田幸太(NTTファイナンス) と荻原虎太郎(セントラルスポーツ)の二人はともに男子100m背泳ぎS8で2度目のパラリンピック日本代表に選ばれた。東京後に荻原が思いついたドルフィンキックで泳ぐバタフライを窪田が習得して昨年8月、世界選手権で窪田は銀メダルを獲得した。窪田に負けじと取り組む荻原も100m背泳ぎで世界を目指し食らいついていく。二人はいよいよ有観客でのパリで、世界と戦う。
S5日向 & 田中
東京パラリンピックから2大会目となる日向楓(中央大学)と、それを追ってきた同じS5・両腕欠損の田中映伍(東洋大学)は現在ではライバル同士でパリへ行く。大会2日目、男子100m自由形S5をめぐり日本記録を奪い合う戦いは日向が01:18.11の自己ベストで奪還した。これまで50mバタフライS5を中心に競い合っていたが、田中がメイン種目を50m背泳ぎS5へ変え37.13で大会新を更新、新しいチャレンジを始めた。
S9川渕 & 岡島
男子400mS9でパリへの代表に選考された15歳の川渕大耀(宮前ドルフィン) は、パリで世界の選手たちに次の世代としてアピールしたい思いがある。今大会では同じS9の岡島貫太(日本福祉大学)と男子100mバタフライS9を泳ぎ競り勝った。
日本代表となった川渕は「400m自由形、200m個人メドレーでMETを切っている。来週のシンガポールでは100mバタフライでもMETを切って3種目でパリに出場したい」と語った。
上垣匠監督は、パリへいく若手選手に対し「1本だけで行く選手は一番プレッシャーがかかるんです。やはり、大声援の中で何本も泳いでいくことによって、おそらく我々が想像する以上に彼らは成長していくと思う。私どももそこは貪欲に種目を増やしていってもらいたいと思います」と語っていた。
前回のジャパンパラの50m自由形S9で引退した山田拓朗を制した岡島だが、今大会は「パリ選考タイムの26.29」を目指し決勝で追い上げたが26.86と届かなかった。
南井瑛翔のS10クラス同様、軽度障害となるS9クラス。特に山田拓朗と同じスプリントレースに挑む岡島をはじめとするS9クラスは近年選手が増え、岡島に続く選手たちもまた常に世界の激戦区で戦っている。 (振り返りルポ2「ベテラン編」へ続く)
(校正・地主光太郎)
※この記事は「PARAPHOTO」に掲載されたものをほぼそのまま掲載しています。