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習近平の対日批判重要講話――抗日戦争勝利69周年記念日で

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

習近平の対日批判重要講話――抗日戦争勝利69周年記念日で

中国政府は今年、立法機関である全人代の常務委員会会議で、9月3日を「抗日戦争勝利記念日」に、9月30日を「烈士記念日」に、そして12月13日を「南京大虐殺殉難者国家追悼日」にするなど、一連の日中戦争関係記念日に法的地位を与えた。国家法定記念日として重要性のレベルを上げたわけだ。

9月3日午前には抗日戦争勝利69周年式典が行われ、午後、人民大会堂でチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員7名)が参加して盛大な座談会が開かれた。そこで習近平は対日批判重要講話を行っている。

日本のメディアは一斉に、「式典で習近平は講演をしなかった。それは11月に開催されるAPEC首脳会談における日中首脳会談への配慮だろう」というまちがった報道をしている。

安倍政権の内閣改造が行われ、親中派の谷垣氏が自民党幹事長に就任するなど、中国の対応が重要視される中、このような間違ったシグナルは日本の対中政策をミスリードする。

そこで習近平の対日批判重要講話の内容をご紹介する。

◆中国人民抗日戦争と世界反ファシスト戦争勝利69周年座談会

9月3日、北京の「抗日戦争記念館」前で行われた式典は10分間ほどの短いもので、たしかに習近平は一言も発してない。ここで講演をしないのは声が拡散するからで、午後には人民大会堂で「中国人民抗日戦争と世界反ファシスト戦争勝利69周年座談会」が盛大に開催された。そこで習近平は非常に長い重要講話を行い、日本への激しい非難をしている。

昨年12月26日の毛沢東生誕120周年記念の時もそうだが、一般に式典は午前中に外で短く行い、その日の午後、人民大会堂で盛大な座談会を開催して、そこで習近平の「重要講話」が成されることが多い。中央テレビ局CCTVで同時放映をするので、声が拡散して不鮮明になるのを避けるためだ。

その座談会で習近平はまず、「愛国主義を核心とした民族の偉大な精神があったからこそ、抗日戦争に勝てたのだ」と前置きし、日中戦争はただ単に「日本の侵略戦争に中国人民が抗して戦ったというだけでなく、これは全世界の反ファシスト戦争の重要な要素を形成しているのだ」と断言した。つまり、現在の中国は第二次世界大戦の「同盟国」であり、全世界の被害者と利害を共にしているのだという、中国を一段と上のレベルに押し上げた位置づけをしていることになる。

肝心の習近平重要講話の中の対日批判の部分(大意)を記す。

'''中国と日本は一衣帯水の隣国だ。中日の長期的な友好関係を保つのは両国人民の利益に符合している。中国政府と人民はこれまでひたすら中日関係の発展に努力してきた。

それだというのに、「中国人民抗日戦争と世界反ファシスト戦争勝利69周年」のこんにち、日本の一部の政治組織や政治家は依然として日本侵略の野蛮な罪を否定したり、依然として両手が真っ赤に血塗られている戦争の亡霊を参拝したり、依然として侵略戦争と植民地統治を美化した言動を発表したり、依然として歴史事実と国際正義を蔑視し、依然として人類の良知に挑戦している。

これらのやり方は、ただ単に歴史問題に関して日本政府が認めてきたことに背くだけでなく、中日関係の政治的基礎から乖離するものであり、中国人民と広大なアジア国家人民の感情を激しく傷つけるものである。

中国人民は海よりも天空よりも広い心を持っているが、しかしわれわれは絶対にきちんと目が利き(事実を見逃さず)、絶対に騙されない。

'''

これが主旨だが、習近平はさらにそのあと「事実は事実だ」として、「白を百万回黒だと言っても、あくまでも白で、黒を百万回白だと言っても、それはあくまでも黒なのだ!」と声を荒げた。

会場の聴衆は、この言葉に対して、まるで今戦場で戦っているような勇ましい表情になり、その後会場では、嵐のような拍手が鳴りやまなかった。

これが全貌だ。

◆メディアは日本をミスリードしてはいけない――不正確な中国語訳

8月16日の本欄で筆者は「中国、厳粛な反日ドラマは強化――娯楽化を警告したのみ」を公開したが、どうも日本の一部のメディアは中国の発信を誤読する傾向にある。

9月3日は安倍政権の内閣改造があり、閣僚の刷新が行われた。その中で谷垣氏が自民党幹事長になるなど、どのメディアも「親中派を配置することで対中関係への配慮か」という分析をしている。それくらい政府もメディアも、日本の対中関係に強い関心を持っているということだろう。

このような中、習近平が講演をしなかったのは11月に開催されるAPEC首脳会談における日中首脳皆伝への配慮かと発信したり、習近平が初めて日中関係改善に前向きの発信をしたとか、希望的観測を「事実に反して」報道するのは適切でない。

日中首脳会談を否定する気持ちは毛頭ないが、しかしこういった一連の日本に有利な希望的視点を、事実をやや歪曲しながら発信することが、日本の利益に寄与するとは思えない。注意を喚起したい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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