前回大会「予言的中」の元日本代表・岩本輝雄さんがカタールW杯を予想「日本代表はベスト8に行けます」
4年前の「予言的中」を覚えているだろうか。ワールドカップイヤーに入りながら、強化試合では不調で、さらには監督を解任。ロシア大会に臨む日本代表を、多くの人が冷めた目で見ていた。その“逆風”に抗うように、グループステージ突破を声高に予想したのが、元日本代表の岩本輝雄さんだった。その予想は「予言」となった。初戦に至ってはスコアまで的中。今回も現地で見守るという日本代表の元背番号10に、今大会の日本代表の行方を予想してもらった。
分析した上での「勝算あり」
――前回大会に臨む日本代表は国内での評価が低く、岩本さんの予想に驚く人も多かったのではありませんか。
「初戦の相手のコロンビア代表には、その前の2014年のブラジル大会で4点決められたショックもありましたからね。僕だけが強気な予想と発言をしたので、『何を言っているんだ』という意見が多かったですね」
――当時の予想の根拠は何だったんですか。
「大会前に、ヨーロッパにチャンピオンズリーグ(CL)を見に行ったんです。コロンビア代表の中心と言えばハメス・ロドリゲスでしたが、レアル・マドリーで試合に出られなくなって、バイエルン・ミュンヘンに期限付き移籍していました。そのレアルとのCL準決勝に出場したんですが、ブラジルW杯の頃ほどの力はなかった。主役がこの調子だから、いけるんじゃないか、と思ったんです。それに日本代表には各ポジションに良い選手がいっぱいいました。乾貴士なんて、バルセロナ相手にゴールしたり、スペインで活躍していましたからね。世界と戦える選手たちがそろっているなどと分析をした上で、勝算はあると思ったんです。コロンビア戦では早々に相手が10人になる幸運もありましたが、負けはしたもののベルギー戦も大接戦でしたよね。やはり力はあった、ということですよ」
――今回の日本代表はどうなると予想しますか。
「ぶっちゃけていいですか? ベスト8ですね」
――またも強気ですね。グループステージはどういう結果になると予想しますか。
「2勝1分けです。ドイツと1-1で引き分けて、コスタリカには2-0で勝利。スペインにも1-0で勝ちます」
ドイツが負った痛手
――日本代表にとってかなり重要という声が多い初戦で、ドイツと引き分けると予想する理由を教えてください。
「何試合もドイツ代表を見て、もちろん強いとは思っています。中でも一番強烈だと見ていたのがティモ・ヴェルナーだったんですが、ケガでW杯に出られないことになりました。この選手の不在が一番大きいと思うんですよね。さらに、日本代表にはドイツ人選手に慣れている選手が多い。まったく知らないならばやられる可能性もありますが、相手の癖が分かっているわけです。それにドイツは初戦から100%の力ではこないと思います。4年前に初戦で韓国に負けているから、ドイツは最初から全力で来るという人もいますが、僕はそうは思いません。両チームを分析して、引き分けだと予想しました」
――いずれにせよ、強気な予想ですね。
「ただし、条件があります。ケガをした選手たちが回復することです。例えば、冨安健洋がいないとか、三笘薫が出られないということになったら苦しくなりますよ。選手がちゃんとそろっていれば2勝1分け、あるいは2勝1敗でグループ突破できると思います。開幕戦を落としたらおしまいだという声もありますが、もしもドイツに負けても2連勝できると思います。ラウンド16でぶつかるのは、ベルギーかクロアチアのどちらかになるでしょう。どちらも、一番良い状態だったのは4年前で、今はパフォーマンスが落ちている。スペインに勝って勢いに乗れば、いけると考えます」
「守備は大丈夫」と言える理由
――スペインに勝てると考える理由は何ですか。
「スペインももちろん強いし、ボールを回されるでしょうが、とてつもなく強烈、というわけじゃないんですよ。日本としては、南米やアフリカのチームの方がやりにくいと思うんです。何をしてくるか分からないから、です。でも、ヨーロッパのチームはある程度組織的にプレーするので、データで予測できます」
――データから考えて、ポイントはどこですか。
「まずは守備。おそらく酒井宏樹と長友佑都になると思いますが、サイドバックが1対1でやられないこと。押し込まれる時間はあるでしょうし、吉田麻也が裏を取られるんじゃないかと懸念されていますが、そんなことにはなりません。押し込まれて最終ラインを上げられないんだから、裏のスペースなんてないんですよ。吉田も冨安も、前へ向かっていくヘディングは強いですからね。だから大丈夫です」
――勝つには得点が必要です。
「もちろん簡単ではありませんが、ダブルボランチの守田英正と遠藤航がセカンドボールを拾って、前に出ている相手の裏に速く攻めることですね。伊東純也や久保建英、ジョーカーの三笘薫と、2回仕掛ければ1回はクロスを上げて勝負できると思いますよ」
――ドイツから点を取るにも、そういう展開ですか。
「同じことですよ。ドイツのサイドハーフは、内に入ることが多いんです。そのマークの受け渡しだけしっかりすれば、ボールを奪った瞬間に日本のサイドアタッカーは、相手のサイドバックと1対1になります。そこで2対1の状況をつくり出す、あるいは個人で仕掛けて突破してしまえば、大きなチャンスにつながると思います。崩し切らなくても、アーリークロスを入れたりすればいいんです」
森保監督の素顔
――相手が強敵でもあり、前回同様にグループを突破できると見る向きは多くないように感じます。最終予選でも、批判の声はありました。
「どんなチームにも良い時も悪い時もあるもので、最終的な目標はワールドカップですから。そこでどう帳尻を合わせるかなんですが、今の日本代表は良い感じですよね。もちろんケガから回復することが大前提ですが、各ポジションに良い選手がいるし、クラブで調子を上げている選手が多い。10月のアメリカ戦を見て、いけるんじゃないかなという思いが、僕の中では強くなりましたよ。あれだけコンパクトにして守備をすれば、強い相手にもそうそうやられません。もちろんピンチはあるでしょうが、チャンスも出てくると思います。今は誰でもヨーロッパなどいろいろな国のサッカーを視聴することができるので、見る人のレベルも上がっていると思います。でも、まだイメージ先行で語られているように感じます」
――今回の日本代表で、期待する選手は誰ですか。
「いっぱいいるし、やはり前線の選手に活躍してほしいのですが、実は追加招集の町野修斗に期待しています。Jリーグで13点取っているし、最終節で見せたように自分でボールを運べるようにもなっています。何となく得点しそうな感覚が僕の中にはあって、ラッキーボーイになりそうな気がしています」
――ある意味のサプライズでしたよね。
「森保監督は『サプライズなんてない』と言っていましたよ。もともと良い選手を選んでいるし、一度は呼んで見ているんだから、サプライズというものは存在しないんだ、って」
――森保監督とは選手同士として2クラブで一緒にプレーされていましたが、どんな方ですか。
「意思が強い。頑固ではないけど、やることはやる、やらせることはやらせる、というタイプでしたね。試合中でも練習中でも言うことは言うし、そういう意味では厳しいですよ。厳しいけど、冷静に優しく諭す感じですね」
――連絡も取り合っているそうですね。
「僕が22歳の時に日本代表で一緒になって、もう30年近い仲です。たまに電話しますが、僕が一方的に戦術の話をして切るか(笑)、プライベートの話をするくらいですね。すごい監督だけれども良い先輩って感じで、まずは人の話をよく聞いてくれます。この間、インタビューをした時にも、ずっと笑っていました」
――カタールには応援に行かれるのですか。
「日本代表の全試合も含めて、現地で15試合見てくる予定です。世界のサッカーをしっかり学んできますよ」
<プロフィール>
いわもと・てるお 1972年、神奈川県生まれ。横浜商大高校卒業後、フジタ(現湘南ベルマーレ)に加入。Jリーグでは「湘南の暴れん坊」と呼ばれたチームの顔となり、日本代表にも選出された。数クラブを渡り歩き、ニュージーランドでもプレー。現在は自称「フットボールトラベラー」として知見を広め、解説など幅広く活動する。