北朝鮮の警察と秘密警察が内部抗争…治安悪化に拍車
北朝鮮の抑圧体制を足元で支えている社会安全省(警察庁)と国家保衛省(秘密警察)。元々は同じ機関だったが、1973年に政治関連の犯罪を扱う部署だけを国家政治保衛部として社会安全省から分離独立させ、何度も名称の変更を経て現在に至る。
現在の力関係は国家保衛省の方が上だ。公開処刑など、恐怖政治の土台を支える保衛省は、安全省と比べて行使できる権限も多い。本店から暖簾分けした分店の方が流行っているようなもので、両者の関係は決してよくない。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
最近、社会安全省が犯罪との全面戦争を布告したが、容疑者の取り扱いを巡り、両江道(リャンガンド)では安全局(県警本部)と保衛局の間でごたごたに発展している。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
匿名を要求した両江道の幹部によると、両江道安全局は、地元の保衛部の問題について中央に意見書を提出した。保衛部の一部が、捜査対象者の個人情報と事件情報について共有しようとしないため、対処方法が立てられないというものだ。そのせいで、金正恩総書記が指示した北部国境地帯の徹底的な封鎖の執行に支障が起きているとも主張した。
保衛部は、中国キャリアの携帯電話と使っていた人を呼び出し、取り調べた上で、教養処理(厳重注意)で済ませて釈放している。その後に安全部が改めて現場を押さえて摘発し、取り調べを行うことになったという。同様のケースは恵山(ヘサン)市、金正淑(キムジョンスク)郡、金亨稷(キムヒョンジク)郡などでも複数報告されている。
これに対して、両江道保衛局の幹部は、市や郡の保衛部に対して、事件として取り扱った者の個人情報、教養処理で済ませた者のリストなどを安全部に共有するように指示を下した。
指示を受けた保衛員たちは、「能なしの安全部が保衛部に嫉妬している」とぼやいたという。一方の安全員たちは、権限を多数有して、虚勢を張っている保衛部に対してかなりの不満を持っているとのことだ。
このような両者のつばぜり合いは、今に始まったことではない。上述の経緯に加え、1990年代以降に、一般的な犯罪の捜査権限に加え、住民登録にまで保衛部が介入するようになり、安全部の妬みが激しくなったというのが、情報筋の話だ。
地元の別の情報筋は、数日前に安全員と保衛員が喧嘩をする様子を目撃したと述べた。
道内の雲興(ウヌン)郡の邑(ウプ、郡の中心地)の分駐所に勤務していた安全員が、地元の人民班(町内会)に送り込んだ情報員(スパイ)を、保衛員に奪われたとして喧嘩になったというのだ。
騒ぎを聞きつけて集まった地元民は、2人が口論する様子を見ながら「いい気味だ」と嘲笑したという。一般住民からすると、安全員も保衛員も自分たちを痛めつけることには何の変わりもなく、揉めていても止めるどころか高みの見物を決め込んだようだ。
そもそも、窃盗などの一般的な犯罪の取り締まりにおいて、無能なのは双方はもちろん、中央とて変わりない。到底真剣に犯罪対策をやっているのか疑わしいほどだ。
このような組織間のトラブルは安全部、保衛部に限ったことではない。軍隊、学校など様々な組織が乱闘騒ぎを起こし、死者を出す事態となっている。