海洋プラスチックごみを衛星画像で発見、追跡技術の開発へ
環境省は、地球規模の環境汚染が懸念される海洋プラスチックごみ対策アクションプランを進めている。2010年に海に流出したプラスチックごみは、480万トンから1270万トンとの推計がある。排出抑制、回収によってプラスチックごみの海洋流出を防止することがまず必要だが、それでも流出したごみについては、陸上、海洋で回収に取り組む方針だ。
広い海で流出したプラスチックごみをどのように発見するのか。正確な流出量を推計し、また流出経路をたどって排出元に規制や対策を求めることはできるのか。広域かつ国を超えた観測、追跡が可能な人工衛星の画像を使ってプラスチックごみを発見、追跡する技術の開発が世界で進められている。
英国プリマス海洋研究所は、ツイッターの報告と欧州の地球観測衛星Sentinel-2A、2B(センチネル2A、2B)の画像を組み合わせ、沿岸のプラスチックごみを特定する研究を行っている。
センチネル2Aは、2015年にESA(欧州宇宙機関)が打ち上げた光学地球観測衛星。解像度は最高10メートルで、同型機のセンチネル2Bは2017年に打ち上げられた。元の用途は陸域の観測を目的としているが、解像度が高く、複数の衛星が同じ軌道で高頻度の観測を行っているという利点がある。
解像度10メートルとは、画像の1ピクセルが10メートル四方にあたる。この画像で、一本一本のペットボトルや漁網の破片、プラスチック袋などを特定することは難しい。しかし海洋ごみは寄り集まって大きなかたまりとなり漂っていることが多く、集合体ならば衛星画像で捉えられる。海上にはプラスチックごみだけでなく、船や風力発電のタービン、養殖いかだなどの人工物、ホンダワラ類の海藻のかたまりも存在し、漂流物の正体を判別する技術が必要だ。
研究では、カナダのブリティッシュ・コロンビア州サンファン諸島周辺と、スコットランド東岸の観測画像を分析した。近赤外線の観測情報から船や海上ブイなどの情報を取り除くと、カナダで見つかった浮遊ごみの集合体には木材、クラゲ、藻類とプラスチック類が入り混じっていることがわかった。スコットランドで見つかった浮遊物は、藻類とプラスチックが混ざったものだった。2か所の観測結果は、ドイツのアルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所による海洋ごみ報告データベースとツイッターの目撃情報と一致。衛星画像が漂う海洋プラスチックごみを判別できる可能性があることがわかった。
プリマス海洋研究所は、今後は衛星画像からの海洋ごみ自動検出や種類の特定、ごみの量の推定など技術の高度化を進めていく方針だとしている。
同様の研究はほかにもある。香港理工大学の研究者は、プラスチックなどさまざまな素材が入り混じっている沿岸のごみを衛星から追跡する手法を検討した。ごみの材料によって光の反射が異なるが、ハイパースペクトルセンサーと呼ばれる多波長を捉えられるセンサーを利用すれば、プラスチックごみ特有の反射モデルを作れる可能性があるという。海洋汚染はごみだけでなく原油の流出などもある。原油の場合はレーダー衛星を使うなど、汚染の種類によって適した衛星が異なるという。
海洋プラスチックごみを追跡する研究や技術はまだ初期段階にあり、UAVを使った調査などさまざまな手法が検討されている。人工衛星は、船や航空機よりもはるかに広域を低コストで監視できる有望な手段だ。研究例はまだ少ないが、地球観測衛星の利用分野として急速に浮上してくる可能性がある。