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「殺害されたホームレス女性は私だ」追悼デモに170人集う

飯島裕子ノンフィクションライター
「殺害されたホームレス女性を追悼し、暴力と排除に抗議するデモ」の様子。筆者写す

今日も殺害現場となったバス停には花がたむけられていたーー。

11月16日早朝、東京渋谷でホームレス女性が近隣に住む男性に殴り殺された事件から半月が経つ。

亡くなった時の所持金は8円。女性は今年2月までスーパーで働いていたが、コロナによる影響だろう。仕事を失い、4月ごろからバス停のベンチで夜を明かしていたという。ベンチといっても真ん中に仕切りがあるため、体を横たえることはできない。半時間ほど座るだけで腰が痛くなるような、狭く冷たいベンチが女性の唯一の居場所だった。

人の迷惑にならないよう、終バスが出た2時ごろに来て、始発が来る5時にはその場を離れる。心配して声をかけた人にも「大丈夫」と答えていたという女性。

なぜこんなことが起きてしまったのか?

12月6日夕方、殺害されたホームレス女性を追悼する集会とデモが開かれ、170人が参加した。会場となった代々木公園はそのバス停から15分ほどのところにある。主催したのは渋谷に拠点があるNGOやホームレス当事者組織など4団体。

主催者の一人は、

「事件を聞いて同世代の女性として胸が締めつけられた。彼女は助けを求めず、”自助”で頑張り続けた末、殺された。これが”自助”を追い求める社会の成れの果てです。誰もが困った時に助けてと言える”やさしい”社会を作らなければ」と訴えた。

30代の女性は今回の殺害事件がまったく他人事とは思えず、参加したのだという。

「氷河期世代でこれまで一度も正規で働いたことがありません。短期の日雇いや大学の非正規職員など、いろいろな仕事を転々としてきました。それでもここ5年ほどは資材運搬の仕事を安定的にやって落ち着いていたのですが、コロナでこの仕事もなくなりました。いつか同じことが自分の身に起こっても不思議ではないと感じています」

同じく「彼女は私だ」というポスターを持ってデモに参加した50代の女性はかつてDV被害に遭い、離婚した経験をもつ。

「都心の住宅地で何不自由ない生活を送っていましたが、夫のDVと離婚調停でボロボロになりました。女性はちょっとしたことで経済的安定を失い、家を失うリスクがあるのだということを身を持って経験したので、いても立ってもいられず参加したんです」と話す。

渋谷区幡ヶ谷の女性が亡くなったバス停。彼女が座っていたベンチは幅40cm奥行き21cmほどしかない。長居できないよう、人間を排除するために作られたようなベンチだ。(筆者撮影)
渋谷区幡ヶ谷の女性が亡くなったバス停。彼女が座っていたベンチは幅40cm奥行き21cmほどしかない。長居できないよう、人間を排除するために作られたようなベンチだ。(筆者撮影)

実はホームレスが暴行を受けたり、殺害される事件は今に始まったことではない。今年だけでも1月に上野で70代の女性が男性からの暴力によって、岐阜で80代の男性が大学生から襲撃を受けて殺害されている。

みずからも野宿生活を送る小川てつオさんは、

「バス停は複数ありますが、あのバス停だけ蛍光灯が切れていて夜も薄暗いままでした。彼女はたまたまあの場所にいたのではなく、ようやくたどり着いた束の間の安息を得る場所だったのではないか。そこで無残に殺された。それは自分の家の中で殺害されたことに等しいと感じています」

主催団体の一つ、アジア女性資料センターの本山央子さんは、

「路上にいる人への排除と暴力が直接的な形で現れた事件でしたが、背景にある社会的暴力についても考える必要があります。コロナ禍の影響は皆に等しいわけではなく、女性や移民など立場の弱い人へと向かいます。しかし政府は自助→共助→公助と言い、弱者は自己責任へと追い込まれ、公助へのアクセスも阻まれています。必要な人に手を差し伸べるだけでなく、社会構造そのものを変えていかなければならないと思います。皆で共に声をあげていきたい」と話す。

アジア女性資料センターではさらに困窮者が増える年末年始に向けた緊急アピールを行っている。

詳しくはフェミニズム視点からのコロナ対応策を求める緊急アピールまで。

ノンフィクションライター

東京都生まれ。大学卒業後、専門紙記者として5年間勤務。雑誌編集を経てフリーランスに。人物インタビュー、ルポルタージュを中心に『ビッグイシュー』等で取材、執筆を行っているほか、大学講師を務めている。著書に『ルポ貧困女子』(岩波新書)、『ルポ若者ホームレス』(ちくま新書)、インタビュー集に『99人の小さな転機のつくり方』(大和書房)がある。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。

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