多数決によって決定される日銀の金融政策
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今後の日銀の金融政策の行方が大きな焦点となりつつある。その日銀の金融政策はどのようにして決まるのかを確認してみたい。
金融政策運営に関して議論が十分に尽くされたあとで、いよいよ金融政策が決定される。金融政策の採決は、「当面の金融政策運営について、次回の金融政策決定会合までの金融市場調節方針に関する議案、変更あるいは現状維持という議案、の採決」となる。つまり、次回の会合までの間の金融政策に関して、これまでの政策を維持するのか、それとも変更するのかを政策委員の「多数決」によって決める。
この経緯についても、当事者のひとりでもあった武藤敏郎元副総裁は次のようにコメントしている。
「各政策委員の会合における活発な議論を経て、採決の対象となる議案が固まってくる訳です。議長は会合における政策委員の意見を纏める形で議長案を作成のうえ提出します。異なる意見を持つ他の政策委員から、別の議案が提出されることもしばしばあります。議案は多数決によって採否が決定されます。これらの手続きを経て、次回会合までの金融市場調節方針や対外公表文、これも採決の対象です、が決定されます」。
米国のFOMCでは議案を提示できるのは議長一人だけである。しかし、日銀では政策委員はそれぞれ議案を提出することができる。ただし、金融政策の変更の際には通常、議長提案によって行われる。この議長提案とは、議長となっている総裁が個人的に提案するものではない。議長は会合における政策委員の意見をまとめるかたちで議長案を作成する。つまり、政策委員のコンセンサスをとりまとめて、少なくとも賛成多数によって議長案が可決されることを見極めた上で行われる。
こうして、金融政策の運営方針に関する決定が多数決によってなされた後に、その会合における金融経済情勢等に関する現状判断および先行き見通しにかかる基本的見解の検討が行われる。そして、政策委員の意見に基づいて文案が固められ、採決に付される。
日銀法が改正され、金融政策が金融政策決定会合における合議制で決定されるようになってからの金融政策決定会合の採決について見てみると、全会一致でないことがしばしばある。もちろん、合議制である以上は反対意見があってもしかるべきではある。
たとえば、英国の金融政策を決めるイングランド銀行の金融政策委員会(MPC)では、採決にあたって頻繁に反対票が見られる。そして9名のうち4名までもが反対に回ることもあった。しかも、総裁自身が少数派となってしまったこともあったのである。
会合の運営については議長によって多少なり異なっている。米国のFOMCなどはできるだけ議長の見解に沿ってのコンセンサスを重視しているのに対し、キング総裁時代のイングランド銀行はコンセンサスも重視しながら、各政策委員の自主性が尊重されていた。
これは日銀も同様か。もし議長以外の政策委員の意見が仮に真二つに割れた場合などは、まさに4対4ということになる。2008年10月31日の決定会合で現実に4対4となったケースがあった(一人欠席、可否同数のため議長が決した)。また、2014年10月31日の会合では量的・質的緩和の拡大の決定の際は5対4となっていた。
ただし、現実の金融政策の変更については、投票メンバーの個々の意向よりも、場の流れというか場を読んでの決定もあるように思える。特に金融政策の大きな変更の際には、前回まで現状維持に賛成していたメンバーの多くが、あらたな金融政策の変更に賛成票を投じたりする。これは特に議長の意向などが強く働いているためとの見方もできる。