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皮膚のかゆみと癌の関係性:IL-31が秘める可能性とは

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【IL-31とは?かゆみを引き起こす炎症性タンパク質】

かゆみと癌に深い関係があるかもしれません。その鍵を握るのが「IL-31」というタンパク質です。

IL-31は、体内で炎症を引き起こす物質の一種で、主に2型ヘルパーT細胞という免疫細胞から分泌されます。この物質は、皮膚や他の組織で炎症を引き起こし、特にかゆみを誘発することで知られています。

アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患では、IL-31の過剰な産生がかゆみの原因となっていることがわかっています。しかし、最近の研究では、IL-31が単なるかゆみの原因だけでなく、癌の発症や進行にも関与している可能性が指摘されています。

【癌とIL-31の意外な関係:様々な癌種での研究結果】

IL-31は、様々な種類の癌で異なる働きをすることがわかってきました。例えば、乳癌では、IL-31が腫瘍の成長を抑制する効果があるという報告があります。実験では、IL-31を投与されたマウスの乳癌腫瘍が縮小し、肺への転移も減少したそうです。

一方で、卵巣癌や子宮内膜癌では、IL-31の量が多いほど予後が悪くなる傾向があるという研究結果も出ています。これは、IL-31が癌細胞の増殖を促進したり、免疫系の働きを抑制したりする可能性があるためです。

血液のがんである白血病やリンパ腫でも、IL-31の関与が報告されています。特に皮膚T細胞リンパ腫という種類の癌では、IL-31の量が増えるほど、かゆみの症状が強くなることがわかっています。

これらの研究結果から、IL-31は癌の種類によって異なる役割を果たしていると考えられます。今後、IL-31を標的とした新しい治療法の開発が期待されますが、癌の種類に応じて慎重に検討する必要があるでしょう。

【IL-31を標的とした治療の可能性:かゆみと癌の両面から】

IL-31の研究が進むにつれ、この物質を標的とした新しい治療法の可能性が見えてきました。例えば、アトピー性皮膚炎などのかゆみを伴う皮膚疾患では、IL-31の働きを抑える抗体薬の開発が進んでいます。

癌治療の分野でも、IL-31を利用した新しいアプローチが検討されています。例えば、乳癌ではIL-31の抗腫瘍効果を利用した治療法の開発が期待されています。一方、IL-31が悪影響を及ぼす可能性がある癌種では、IL-31の働きを抑制することで治療効果を高められる可能性があります。

また、癌治療に伴うかゆみの軽減にも、IL-31を標的とした治療が役立つかもしれません。抗がん剤の中には、副作用としてかゆみを引き起こすものがありますが、IL-31の働きを抑えることで、この副作用を軽減できる可能性があります。

IL-31の研究はまだ始まったばかりですが、将来的には癌治療とかゆみのコントロールの両面で、患者さんのQOL(生活の質)向上に貢献することが期待されています。

参考文献:

1. Akhtar S, Ahmad F, Alam M, et al. Interleukin-31: The Inflammatory Cytokine Connecting Pruritus and Cancer. Front. Biosci. (Landmark Ed) 2024; 29(9): 312. https://doi.org/10.31083/j.fbl2909312

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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