鼻から豆が飛ばせない。新型コロナで「全否定された」梅垣義明が今思うこと
今年は新型コロナ禍でエンターテインメントにも大きな影響が出ました。中でも、最も“生命線”を直撃したと言えるのが梅垣義明さん(61)でした。「ろくでなし」を歌いながら鼻から豆を飛ばす。観客を抱きしめる。これまでの“得意技”がことごとく封じられました。それでも、来年1月、2月に大阪と東京でライブ「梅ちゃんの新春シャンソンショー2021~客席が恋しくて、冬~」の開催を決めました。「全否定された」というコロナ禍での思い。そして、そこから生まれたものとは。胸の内を明かしました。
「こう来たか」を上回る
今年は本当に大きな年になりました。
一番分かりやすいのは「ろくでなし」を歌いながら鼻から豆を飛ばすネタ。あれは飛沫感染的に絶対NGなわけですよ。
あと「愛の讃歌」に乗せて客席に入って行ってお客さんを抱きしめるのもダメ。僕は客席に入ってお客さんと絡むネタが多いんですけど、まず今は客席に入っていけない。客席を走り回らず、舞台で完結させなきゃいけない。その枠組みの中で、できることを何とか模索しているところです。
もし1月、2月のイベントでも、これまで通り「ろくでなし」のイントロが流れた時、お客さんとしたら「え、これ、どうやってやるんだろう」という思いが出ますよね。さすがにあのままではできないよなと。
じゃ、どうやるのか。そこで期待が生まれもする。それが新たな妙味にもなるのかなとも思っています。「こう来たか」と思われるのかもしれないけど、こっちとしては「こう来たか」を上回るものを見せたいという思いもありますしね。
あとね、お客さんの感覚が、知らず知らず変わっている部分もあります。そこも考えないといけません。
例えば、歌いながら客席に行って、お客さんとラップを挟んでキスをするというネタがあるんです。飛沫だとかという意味では、間にラップがあるから、何もなしで近くでしゃべったりするより純粋な危険性は低いのかもしれません。
でも、今の感覚からすると、その光景を見た時点でお客さんが「エッ?」となるんです。だから、単に感染のリスクということだけじゃなくて、見た人が「エッ?」とならないか。それも考えなきゃいけない。第一、それがあった時点で笑えませんから。非常にセンシティブな部分でもあるんですけど。
キスもですし、豆もですけど、これまではキスされる人、豆をぶつけられる人を見て、周りのお客さんが笑うという構図だったんです。
でも、それが今は笑う側にも「これを見ては笑えないな」という感覚が出てきている。そういうお客さんの感覚を持っておかないとダメですし、さらには自分がやっていることの真価が問われるという感覚も味わいました。
「今こそエンターテインメントの力を」への嫌悪感
1月、2月のライブをやることを決めたんですけど「こういう時期だからこそ、笑いを届けないと」とかいう思いで開催を決めたわけではないんです。
新年は大阪の「新春シャンソンショー」からスタートしてきた。純粋に、その思いが強かったですし、もちろん、しっかりと感染対策ができることが大前提なんですけど、こちらとしてそこが万全だと言えるならやろうと。
よく使われる言葉だけど「今こそ、エンターテインメントの力を」みたいなことで、やろうと思ったわけではないんです。
ま、少し話がそれちゃうかもしれないけど、僕はあの言葉が嫌いでね(笑)。
今年はお客さんを入れられないから、配信でやるというのが多くなったじゃないですか。僕はやってないんですけど。
これ、なぜ僕はやってないのかというと「エンターテインメントの力」と同時に「お客さんの力」もあるんですよ。
ライブというのはエネルギーの交換になってて、お客さんは出てる人間をのせようと思うし、僕はお客さんを楽しませようとする。それをお客さんがいない状況でやるというのは、どれだけやりにくいというか、やりがいがないというか。
大きいホールだと、1階席、2階席、3階席と走り回って歌いに行くんですけど、お客さんから「梅垣さん、体力ありますね」と言われたりもするんです。
でも、これは僕の力じゃなくて、お客さんからの声援や手拍子があるから体が動いてるんであって、お客さんが走らせてくれているんです。それがお客さんの力なんです。それを感じられるのが舞台だと僕は思っているから配信はしないんです。
「エンターテインメントの力」というのは、なんだか、こっちのことばっかりを言ってるなと。でも、僕は逆にコロナ禍は「お客さんの力」を感じた時期でもあったんです。
そこをないがしろにして、自分たちの立場にだけ立って「今こそエンターテインメントの力を」と言うのはイヤだなと。それは、独りよがりじゃないかなと。
ま、こんなエラそうなことを言ってますけど、そもそも、僕がやってることに「エンターテインメントの力」があるかどうかは微妙なんですけど(笑)。
「来てね」とは言いにくい
ただ、当然、お客さんも不安ですよ。今は。いつもだったら、知り合いなんかに「大阪でやるから、来てね」なんてことを言ったりもするんですけど、言いにくいですもん。
だからこそ、今回来てくださるお客さんは本当に有難いと思うし、同志みたいな気持ちにより一層なると思います。
舞台って、テレビとかとは違って、まず家なり職場なりから劇場まで来る時間。そして本番の時間。さらに帰宅するまでの時間。それらを全部もらってるわけですよ。そこにチケット代ももちろんあるわけだし。すごく責任がある仕事だと思っています。
それくらい、舞台を生で観に来るというのはエネルギーが要ることです。それだけのエネルギーを持って来てくださってるわけだから、そこに負けないエネルギーをこちらも出さないといけない。特に今回は今まで以上にありがたいなと。
ナニな話ですけど、飲食店とかで「梅垣さん、テレビ見ました」と言われるのもありがたいんですけど「この前、舞台に行きました」と言われると「ありがとうございます」というお辞儀の角度が違いますもんね(笑)。これは正直な話。
まじめな話、僕らが舞台をやって、来てくださってありがたいなんてことを言ってるのは、まだ余裕がある世界であって「チケットを買うようなお金があったらパンを買う」という人も多い。食べなかったら死にますけど、舞台を観なくても死にはしないですから。事実として。でも、その中で来てくださるのは本当にありがたいなと。
慢心は絶対にあった
改めて思いますけど、今の世の中ではやっちゃいけないことばっかり僕はやってきたんですよ。ま、今まで許されてたのがおかしかったのかもしれませんけど(笑)。
「ろくでなし」を歌いながら、鼻から豆を飛ばす。これを最初やった時は、テレビだったんです。お客さんを入れてる番組だったんですけど、お客さんが逃げ惑うわけですよ。女子プロレスラーの場外乱闘みたいに。
そこから認知されていくと、お客さんが「待ってました」になるんです。かばんを出して、棟上げの餅まきみたいに豆をキャッチしようとする人も多くなってきたんです。
笑える範囲でお客さんに嫌なことをする。それが受け入れられちゃったもんだから、そこに慢心するところは絶対にあったんです。これをやれば喜んでもらえると。
言い方がエラそうかもしれないですけど、歌手でいうとヒット曲を出したような気になっている自分がいて、それがコロナで歌えなくなった。一発屋の歌手がヒット曲を封じられた感じかもしれません。
これまでを全否定ですからね。手足をもがれるような。まさかこんな時代が来るとは思ってなかったし、どこか油断してた部分があったのかもしれません。でも、ある意味、これを良いきっかけにしないといけないなと。
だから、今はなんとか次のヒット曲を出そうとしています。簡単なことではないですけど、それは考えています。それと同時に、昔の歌やネタを掘り起こすことも考えてます。
…あ、すみません。「掘り起こす」なんて良い言葉じゃないな…。昔のネタでお客さんをだましだましやってます(笑)。
ま、お客さんもだまされたフリをしてくれますしね。その信頼関係もまた、楽しいもんですし(笑)。だからこそ、ライブはいいんですよね。
(撮影・中西正男)
■梅垣 義明(うめがき・よしあき)
1959年7月12日生まれ。岡山県出身。京都産業大学を中退して上京し「WAHAHA本舗」に所属。シャンソンを歌いながら、鼻に豆を詰めて鼻息で飛ばすオンリーワンの芸で知られる。俳優として、映画「学校Ⅱ」などにも出演。ライブ「梅ちゃんの新春シャンソンショー2021~客席が恋しくて、冬~」を開催。大阪公演(1月9日、10日、松下IMPホール)と東京公演(2月27日、28日、シアターサンモール)を行う。