EU残留・自由民主党が世論調査で首位「合意なき離脱」ブレグジット党2位 英国の二大政党は崩壊した
保守党と労働党は3位タイに沈む
[ロンドン発]英国で中道・自由民主党が最新の世論調査で首位に立ちました。二大政党の与党・保守党と最大野党・労働党が首位の座を明け渡すのは、現在はフェイスブックの副社長に就任しているニック・クレッグ氏が旋風を巻き起こした2010年の総選挙以来のことです。
英紙タイムズと世論調査会社ユーガブの調査では欧州連合(EU)への残留を唱える自由民主党が24%で首位。市民生活と企業活動を大混乱に陥れる「合意なき離脱」をあおる新党ブレグジット党が22%で2番手につけています。
保守党と労働党はいずれも19%で3位タイ。先の欧州議会選ではブレグジット党が31%で首位に立ち、自由民主党は20%で2番でしたが、「合意なき離脱」を絶対に阻止したい英国の有権者が、一貫して残留を唱える自由民主党の下に結集したかたちです。
12人が乱立、保守党党首選
EU離脱交渉を座礁させたテリーザ・メイ英首相の辞任を受け、保守党の党首選には「合意なき離脱」を主張する1番人気のボリス・ジョンソン前外相ら12人が乱立。EU側の立場やこれまでの交渉経過を全く無視して好き勝手なことを口々に叫んでいる状態です。
公約の実現可能性はゼロ。傲岸不遜(ごうがんふそん)、独善とはまさにこのようなことを言うのでしょう。「学級崩壊」したクラスの学級委員長選びと同じ、キーキーとわめきたてる動物園のサル山のボスザル選びと同じような状況に陥っています。
「隠れ離脱派」ジェレミー・コービン労働党党首はEUと再交渉してメイ首相よりも良い合意を取り付ける穏健離脱を主張。離脱を撤回する2回目の国民投票を実施する考えを改めて遠ざけています。
コービン氏は、離脱撤回のため先の欧州議会選で自由民主党への投票を呼び掛けたアリスター・キャンベル氏を労働党から追放しました。キャンベル氏はブレア政権で報道担当補佐官(スピンドクター)を務めた「ニューレイバー(新しい労働党)」の生き残りです。
保守党は「合意なき離脱」派と穏健離脱派、残留派の3つに、労働党は穏健離脱派と残留派の2つに割れ、英国伝統の二大政党制は存続の危機に立たされています。
大学授業料値上げで失速
英国の自由民主党は日本の自由民主党と違い、中道でリベラルな政党です。1920年代に二大政党の座を労働党に奪われた自由党と、労働党右派が分裂した社会民主党の一部が88年に合流して結成されました。
二大政党制の打破を掲げる自由民主党には、政治的に左でない進歩的な人、労働党が好きでない年老いた旧社会民主党員、地方でつまはじきにされた保守党の支持者、そして若者たちが参集しています。
2003年のイラク戦争参戦に反対し、労働党や保守党とは明確な一線を画していました。
国家より市民の目線にこだわり、10年の総選挙ではマニフェスト(政権公約)に、所得税基礎控除の1万ポンド(約137万円)への引き上げ、大邸宅所有者への課税、IDカード(身分証明書)の廃止、英国が保有する独自の核抑止力を更新しない方針を掲げ、旋風を巻き起こします。
当時のクレッグ党首は保守党との連立政権に参加。英国で連立政権が樹立されるのは第二次大戦以来のことでした。しかし、値上げに反対していた大学授業料を3倍の9000ポンド(約123万円)に引き上げることに賛成したことから支持者から「裏切り者」とそっぽを向かれ、支持率を落とします。
残留派を結集できるかがカギ
クレッグ党首は15年の総選挙で大敗して党首を辞任。16年のEU国民投票では残留派の先頭に立ったものの、離脱派に敗北。17年の総選挙ではついに議席まで失ってしまいます。
自由民主党のビンス・ケーブル現党首は、同じくEU残留を唱える「チェンジUK」との連携について「できる」と断言。「英・EU離脱の対応を巡って彼らと自由民主党の立場は同じ。私自身、個人的な関係もある」
「有権者に二者択一を強いる単純小選挙区で中道勢力が生き残るのは難しい。自由民主党には地方自治体での経験もある。私たちは協力して何かを生み出すことができる。自由民主党とチェンジUKが競争ではなく相互補完できることを望んでいる」
保守党は「合意なき離脱」派のジョンソン前外相が党首になれば、ブレグジット党に流れた票を取りせる可能性はあります。しかし政党本位、政策を軸にした英国の二大政党制は完全に崩壊したと言えるかもしれません。
今後、英国の政治は残留派の自由民主党と「合意なき離脱」派を対立軸に進みそうな雲行きになってきました。
(おわり)