屋外ではマスクを外したほうがよい? マスク着用による身体の変化と熱中症のリスクについて
アメリカやイギリスなどの諸外国では現在、屋外の公共スペースでのマスク着用は不要とされています。日本でも、屋外で人と人との距離が保たれておれば、熱中症を防ぐためにマスクを外すことを推奨しています。子どもに対しても無理にマスクを着用させる必要がないことが周知されています。
マスク着用によって私たちの身体にどういう変化があるのか、また熱中症のリスクを増加させるのか、について解説したいと思います。
※参考にさせていただいた論文は過去の記事と一部重複していますので、こちらもあわせてご覧ください。
■マスクを着用していると、受験に影響が出るほど酸素飽和度低下や息苦しさが起こるのか? 科学的考察(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20220118-00277854)
屋外でのマスク着用について
私たちのマスク生活1年目である2020年の時点で、政府から熱中症予防のポイントが提示されており、「高温や多湿といった環境下でのマスク着用は、熱中症のリスクが高くなるおそれがあるので、屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合には、マスクを外すようにしましょう」と明言されています(図1)(1)。
しかし、第4波~第6波で多くの感染者と死者が出たこともあって、夏場でも街中でマスクを外して歩いている人は多くないのが現状です。
マスクを着用していると呼吸努力や不快感が増す
マスクによって呼吸が障害されるため、最大酸素摂取量は約10%減少します(2)。そのため、呼吸数や心拍数を増やして身体をうまく順応させる必要があります。20人の若年者で歩行実験を1時間おこなったところ、マスクを着用した場合、心拍数や呼吸数が上昇することが分かりました(図2)(3)。高齢者では、このような反応が身体的負担に直結します。
マスク着用時に快適と感じる人はわずか3%で、97%が何らかの不快感を感じるとされています(4)。
この理由は、マスクを着用した顔面の温度と湿度が高いためです。その他の身体の部位と比較して、顔面の温度上昇によって不快に感じやすいことが分かっており(5-7)、時間を経るごとに不快感と疲労感が増していくことも示されています(8)。
マスクを着用することで熱中症は増えるのか?
夏場にマスクを着用すると、熱中症は増えるのでしょうか?実は、先ほどのマスクを着用して歩いてもらった研究では、マスクを着用しても深部体温はほとんど上昇しないことが分かっています(3)。
気温35度、湿度65%という厳しい環境で12人の被験者に運動してもらったところ、マスクを着用していても、熱中症につながるほどの影響はないことが示されています(9)。
上述したように、マスクの着用によって確かに不快感は増すのですが、着用しているだけで熱中症を起こすほどの医学的影響はない、というのが現在得られている科学的結論です。
最近報告された日本の研究においても、「コロナ禍に入って国内で熱中症が超過的に増える」という結論は導かれませんでした(10)。
もちろん、こうした研究には限界があり、医学的な弱者である子どもや高齢者がマスクをつけたまま炎天下にいると、熱中症になるリスクが上がる可能性は否定できません(図3)(1)。特に2歳未満ではマスクの着用は危険とすらされています。
重要なのは、マスクを着用していようとしていまいと、水分補給と休息をしっかりおこなうことです。
まとめ
屋外でマスクを着用していても、熱中症のリスクが上昇するという結論は示されていないものの、不快感や身体への負担が大きいことがわかりました。
子どもや高齢者がマスクを着用し続けると、熱中症のリスクは高くなるかもしれないので、感染リスクが高くない屋外ではマスク着用を継続する意義はなさそうに感じます。
ニューヨーク州では、オミクロン株のうちBA.2.12.1の流行がみられ始めており、ふたたび入院患者数が増加に転じています。南アフリカでは、BA.4系統、BA.5系統が流行し始めています。
社会における感染を低レベルに抑えることは、ウィズコロナで医学的弱者を守るために必要不可欠です。ワクチンの効果がオミクロン禍以前よりもやや弱まっていることから、マスクなどの基本的感染対策を一気に撤廃することは難しいでしょう。
場面ごとにマスクを着脱するのは面倒ですが、どのようなシーンでマスクを着用するのか・外すのかという政府の提言が重要と考えます。
(参考)
(1) 熱中症予防×コロナ感染防止(URL:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/corona.html)
(2) Dooly CR, et al. Eur J Appl Physiol Occup Physiol. 1996;73(3-4):311-6.
(3) Roberge R, et al. Respir Physiol Neurobiol. 2012 Apr 15;181(1):29-35.
(4) Milošević D, et al. Sci Total Environ. 2022 Apr 1;815:152782.
(5) Cotter JD, et al. J Physiol. 2005 May 15;565(Pt 1):335-45.
(6) Laird IS, et al. Ann Occup Hyg. 2002 Mar;46(2):143-8.
(7) Litwinowicz K, et al. Sci Rep. 2022 Apr 6;12(1):5823.
(8) Shenal BV, et al. J Occup Environ Hyg. 2012;9(1):59-64.
(9) Kato I, et al. Ind Health. 2021 Oct 5;59(5):325-333.
(10) Kanda J, et al. Acute Med Surg. 2022 Feb 6;9(1):e731.