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百年前に世界的に感染拡大したスペイン風邪が、当時の世界経済に与えた影響は限定的だった(?)

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 いまから約100年前に「スペインかぜ」と呼ばれたインフルエンザによるパンデミックが世界に拡がっていた。名称はスペインと付いているが、スペインが発生地ではない。

 当時は第一次世界大戦中であり、交戦国では報道管制によって病気や死亡等の情報が制限されていた。その一方、当時中立国であったスペインは、この病気に関する死亡者や患者数などの情報を公開していたことで、スペインで発生したと勘違いされたようである。

 感染元ではないかとされているのは米国だったとされ、欧州に兵が派遣されたことで欧州にも拡がった。

 日本では1918年10月に大流行が始まった。当時の人口約5500万人に対し約2380万人が感染したとされる。第1回の大流行が1918年10月から1919年3月、第2回が1919年12月から1920年3月、第3回が1920年12月から1921年3月にかけてとなっていた。

 歴史の教科書にもあったように、第一次世界大戦は日本には空前の好景気をもたらした。欧米諸国の輸出がとだえたため、日本は連合国側に軍需品を供給した。その上、アジアなどに急速に市場を広げることができ、輸出が大幅に増えたのである。これは大戦景気、大正バブルとも称された。

 1918年11月にドイツ帝国の敗北により大戦が終結。これにより大戦景気は一時沈静化する。しかし、米国の好景気が持続すると見込まれたことや中国への輸出が好調だったことより、景気は再び加熱し、1919年後半に金融市場は再び活況を呈し、大戦を上まわるブーム(大正バブル)となったとされる。

 しかし、1920年3月に投機の反動から株式市場が大暴落し、恐慌が勃発した。第一次世界大戦終了後に欧米諸国が輸出を再開し、それが日本の輸出企業に打撃を与えた。株式市場の急落により銀行の取り付けが発生し、当時の有数な銀行である七十四銀行が破綻した。株価や商品相場は2008年の金融危機の際と同様に半値以下に暴落し、これにより多くの企業が打撃を被ったが、特に当時の年商は三井物産を凌ぐといわれた鈴木商店は巨大な損失を抱え、金融機関も多額の不良債権を抱えることになった。

 スペイン風邪が当時の日本経済にどの程度の影響を与えたのか。大正バブルやその崩壊にどの程度関わっていたのか。

 これだけ国内でも猛威を振るったにもかかわらず、実はスペイン風邪は経済にそれほど大きな打撃を与えなかったとされている。戦後恐慌の原因としてもスペイン風邪の影響との表現は見当たらない。ただし、スペイン風邪が結果的に第1次大戦そのものを終了させるきっかけとなったとされており、その意味ではまったく影響を与えなかったとはいえない。

 今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、100年に一度とされるような経済への悪影響を与えたともされている。その100年前と現在はおかれている環境は大きく異なる。第一次世界大戦中であったことによる影響も考える必要はある。また、経済のグローバル化などにも大きな違いがあろう。されどもスペイン風邪はなぜ当時の経済には大きな影響を与えなかったのかを再度確認する必要もあるのではないかと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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