主要テレビ局の複数年にわたる視聴率推移をさぐる(2020年11月公開版)
HUTの意味とその推移
テレビ局の番組や局のメディア力のすう勢を推し量るのに、一番明確な指標が視聴率。キー局などにおける複数年の視聴率の移り変わりを確認する。
具体的には先行記事【巣ごもり化の影響か、各局とも上昇…主要テレビ局の直近視聴率をさぐる(2021年3月期上期)】で行った手法と同じように、TBSホールディングス・決算説明会資料集ページに掲載されている各年の決算短信資料などを確認し、主要局(キー局とNHK)の視聴率を抽出、各種精査を行う(他局の決算短信資料で補完や確認も併せて行っている)。直近分は2020年度(2020年4月~2021年3月)・上期。
まずはHUTの推移を確認する。この「HUT」とはテレビの総世帯視聴率(Households Using Television、テレビをつけている世帯)を意味する言葉で、具体的には調査対象となる世帯のうち、どれほどの比率の世帯がテレビ放送をリアルタイムで視聴しているかを示す値(チャンネル別の区分はない)。
これには録画した番組の再生、家庭用ゲーム機でテレビ画面を使っている場合は該当しない。またパソコンやスマートフォンなどによるワンセグの放送視聴も当てはまらない。ただしインターネットテレビによるテレビ番組の視聴は該当する。
なお先行記事でも触れている通り、2020年11月発表の各局決算報告書において、HUTではなくPUT(個人視聴率、Persons Using Television)が掲載されるようになったが、今記事では連続性を鑑み引き続きHUTを用いる。以後の記事内表記・グラフ内表記も断りがない限り「視聴率」は「世帯視聴率」を意味する。
HUTの値として確認できるのは、ゴールデンタイム(19~22時)、全日(6~24時)、プライムタイム(19~23時)の3種類。そのうち一番視聴率が高く、変移が見やすいゴールデンタイムのもの、そして包括的な意味を持つ全日のグラフ、合わせて2つを併記し、状況を確認する。
かつてはゴールデンタイムで70%を超えていたHUTも、直近データでは60%強にまで落ち込んでいる。1997年度下半期の71.2%をピークに、多少の上下はあれど、全体的には下降の一途をたどっている。また、年末年始は特番が多く放映される、正月休みで自宅待機率が高まることを受けてテレビ視聴率が上昇するため、毎年「上期より下期の方が高い」傾向があり、結果としてギサギザの形を示す。
中期的には全日・ゴールデンタイムともにHUTは落ちているが、2010年前後からは(特にゴールデンタイムでは)横ばいの動きに転じていた。さらに2013年度に入ると、明らかに底打ち感から反転の兆し、トレンド転換の動きが明確化した。ところが2014年度上期以降、再び下落基調に転じてしまう。
2016年10月からはタイムシフト視聴率の調査が実施され、タイムシフト視聴率や統合視聴率が試験的に一部ではあるが公開されている。しかしながら各報告書の言及や他の公開状況の限りでは、HUTはリアルタイム視聴率のまま。HUTの下落傾向もあるいは、タイムシフト視聴をしている人が増えているのが一因かもしれない。
なお直近の2020年度上期ではゴールデンタイムも全日もHUTは大きな増加を見せ、イレギュラー的な動きとなっているのが確認できる。これは先行記事でも言及の通り、新型コロナウイルスの流行で生じた巣ごもり化による、テレビ観賞の機会増加によるものと考えて間違いあるまい。新型コロナウイルスの流行が継続している以上、2020年度下期もまた、似たような動きを示すことだろう。
主要キー局などの視聴率動向
次に各局の視聴率について。年度ベースにおける2009年度から2020年度までの主要局のゴールデンタイムにおける視聴率の推移をグラフとして作成した。なお類似データとして全日・プライムタイムのものもあるが、大局的に違いはないので、別途作成はしない。また併記している折れ線グラフは取得可能な全期の動向を対象としている。
この数年の動向として、「テレビ東京の下落」「フジテレビの凋落と底打ち」「NHKの下落と底打ち」「TBSの不調から横ばい、復調へ」「テレビ朝日の復調から失速、底打ち」が確認できる。TBSは10年ほど前に急落を見せた後に横ばい傾向へと移行し、その後はじわりと復調中(この1、2年は大きく落ちているが)。
NHK・フジテレビは双方とも10年近くの間、ほぼ継続して下落。特にフジテレビでは2012年度に1.6%ポイントもの大きな下落を示した。NHKは2016年度で回復に転じたが、その直後に再び下落。「真田丸」などによる底上げはイレギュラー的な動きでしかなかったようだ(直近年度では回復の動きがあるが)。フジテレビの下げはようやく底打ちから反転への気配を見せているが、まだ確定した動きなのか、安心できる状況にはない。
なお直近分となる2020年度は上期のデータしか存在しないので、それをそのままグラフ上に反映させるが、上記説明の通り上期は下期と比べて視聴率では低い値が出る傾向がある。従って本来ならば2019年度までと比べると低めの結果が出てしまうのだが、2020年度では新型コロナウイルスの流行による巣ごもり化の影響と思われる視聴率の大幅な底上げが生じているため、上期のみでも2019年度までとそん色ないどころかむしろ大きな増加を示している局も生じている。その点でもフジテレビの不調ぶりが改めて認識できる結果ではある。
各局の視聴率動向、主に下方基調がこの1、2年の短期的なものの動きでは無く、中期的な流れに沿ったものであることが、今件データからは確認できる。単発的に勢いをつけるコンテンツもこの時期には多数展開されたはずだが、それでもなお、下落の流れを変えるまでには至らなかった。
もちろん、かつて社会現象化するほどの好評を博した、TBSの「半沢直樹」のようなスター的存在が局全体の雰囲気を変える可能性も秘められている。この「スターコンテンツが複数、定期的に登場すれば、全体の流れは容易に変わりうる」状況は、かつてのテレビ局の状況そのもの。また媒体は異なるものの昨今の雑誌業界、具体的には「進撃の巨人」や「妖怪ウォッチ」「おそ松さん」で大きく飛躍した雑誌が複数存在している状況にも当てはまる。
各局の中期的な視聴率動向が、今後どのような動きを示していくのか。テレビ全体の視聴動向、HUTにもかかわる話なだけに、大いに気になるところではある。また、新型コロナウイルスの流行で生じた生活様式の変化が、テレビ観賞にいかなる影響を与えるのか、視聴率の観点でも注目したいところだ。
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