私たちはなぜマスクを着けているのか? コロナ時代の新しい概念「ユニバーサルマスク」とは?
12月18日、スウェーデンが混雑時の公共交通機関ではマスクを着用するよう新たな推奨を出しました。
これまでスウェーデンは医療従事者以外の使用に否定的でしたが、この方針転換にはどのような背景があるのでしょうか?
ユニバーサルマスクとは?
コロナ以前の時代には、咳やくしゃみなどの症状のある人にマスク着用が推奨されていたのに対し、このコロナ時代には症状の有無にかかわらず屋内や人との距離が保てない環境では全ての人がマスクを着用する「ユニバーサルマスク(Universal Masking)」という概念が急速に普及してきました。
日本は元々インフルエンザシーズンには無症状の人を含めてマスクを着用する光景が見られていたことから、このユニバーサルマスクという考え方には比較的抵抗がないのではないかと思いますが、こうした習慣のない国や地域ではいまだにこの考え方に抵抗がある人も多いようです。
確かにこの「ユニバーサルマスク」という考え方は新しいものであり、提唱された時点では十分な科学的根拠がありませんでした。
しかし、コロナの流行から1年近くが経ち、ユニバーサルマスクに関するエビデンスも集まってきました。
スウェーデンも感染者が増加している中で、これまで否定的であったユニバーサルマスクの有効性を認めざるを得ない状況になってきたため、方針転換に至ったものと推測されます。
症状がなくても人にうつすことがある
これまでのインフルエンザなどの呼吸器感染症は「発症した後から周囲に感染させる」というのが常識でした。
ですので、感染者が周りに広げないようにするためには症状がある人がマスクを着けることで十分と考えられていました。
しかし、インフルエンザとは異なり、新型コロナは発症する前の無症状のときから人にうつしていることが明らかになってきました。
このように新型コロナはこれまでのインフルエンザなどのウイルス感染症とは異なり、発症前にも感染性が強いことが特徴です。
最も感染性が強いのは発症の3日前〜5日後くらいと言われており、無症状の時期にも感染が起こり得ることになります。
しかし、症状がない時点では「誰が感染しているのか・感染していないのか」を見極めることは困難です。
歌ったり大声を出すことで飛沫が飛んでいる
これまでインフルエンザなどの呼吸器感染症では咳やくしゃみなどで発生する飛沫を介して感染すると言われていました。
新型コロナは、咳やくしゃみなどのない無症状の時期にどのように広がるのでしょうか。
図は「激しく歌う」「普通に歌う」「大声で話す」「マスクを着けて大声で歌う」「普通に話す」「呼吸する」など様々な状況で発生する飛沫の量と粒子径の違いをみたものです。
この図からも分かるように、咳やくしゃみをしなくても歌ったり喋るだけで飛沫が飛んでいることが分かります。
実際に、これまでにクラスターが発生している場所の特徴として、ライブハウス、カラオケや合唱団などのように、大声を出す、歌うなどの場所に多いこともこの証左と言えるでしょう。
また、マスクを着けることで、大声で歌った場合も飛沫の量が大きく減っているのがお分かりかと思います。
動画で見るとよりはっきりとマスクの効果が分かります。
以下はNew England Journal of Medicineに掲載された動画です。
会話によって発生する飛沫をレーザー光を当てることで可視化したものです。
前半がマスクなしで会話した場合の飛沫の拡散、後半がマスクを着けた状態で会話した場合の飛沫の拡散を見たものです。
「Stay Healthy(ヘルシーでいよう!)」と繰り返し発音していますが、特に「th」の発音の際に飛沫が多く飛んでいることが分かります。全然ヘルシーな感じはしません。
しかしマスクを着用すると、ほとんど飛沫は飛ばなくなりヘルシー感が急激にアップします。
以上をまとめると、
・症状のない人からも新型コロナが感染しうるが、症状がない時点で「誰が感染しているのか・感染していないのか」を見極めることは困難
・普段の会話でも飛沫が飛んでおり、特に大声を出したり、歌ったりすることでたくさんの飛沫が飛ぶ
・マスクを着けると飛ぶ飛沫の量を減らすことができる
→症状のない人も全員マスクを着けるべし!!!
ということになります。
これが現在、世界中でユニバーサルマスクが推奨されるようになった基本的な考え方です。
ユニバーサルマスクは新型コロナの感染を減らすのか?
ユニバーサルマスクという概念は、新型コロナが世界に現れてから生まれたものです。
ですので、理論的には正しいと思われるものの、実際に新型コロナの感染対策として有効なのかどうかはこれから分かってきます。
しかし、すでにユニバーサルマスクの効果を支持する報告が多く出てきています。
マスクを装着することで浴びるウイルスの量や感染率を減らす
東京大学医科学研究所の河岡先生らの本物の新型コロナウイルスを用いた研究では、ウイルスを排出する側、浴びる側のマネキンにそれぞれマスクを着けたときに、どれくらい浴びる側のウイルス量が減るのかについて検討されています。
この研究によると、ウイルスを排出する側、浴びる側のいずれかがマスクを装着することでウイルス量が半減するだけでなく、両方ともがマスクを着けることで(サージカルマスクの場合)ウイルス量を70%減らしたとのことです。
同様に、新型コロナウイルスを感染させたハムスターと、感染していないハムスターを直接接触できない同じ環境に入れて、感染が成立するかどうかを検証した研究では、どちらもマスクを使用していなければ15匹中10匹(66.7%)で感染が成立したのに対し、感染していないハムスターがマスクを着けていたら12匹中4匹(33.3%)、感染したハムスターがマスクを着けていたら12匹中2匹(16.7%)に感染が成立したということで、マスクに新型コロナウイルスの伝播の予防効果が示されたものです。
ちなみに実際にハムスターがマスクを着けたわけでなく、マスクの素材でハムスターのいるカゴを仕切った、というものです。
アメリカでマスク着用を義務化したことで45万人の感染を回避
4月と5月に米国の各州がマスク使用を義務づけたことの影響を調べた研究では、マスク着用の義務化によって新型コロナの患者数が1日あたり最大2%ポイント減少したと推定しています。
この研究ではユニバーサルマスクによって45万人もの新型コロナ患者を減少させたのではないかと推計しています。
また、200以上の国のマスク着用率と新型コロナの感染者数との関係を検討した研究でも、習慣的にマスクを着ける国、政府がマスク装着を推奨している国では、週ごとの人口比での致死率の上昇率が他の国と比べて4倍低かったことが報告されています。
中国での家庭内感染においてマスク着用が感染を減らした
中国の北京で124家族335人を対象としたコホート研究では、家族内の誰かに感染者が出た場合に4つの家族に1つは他の家族に感染が起こっていました。
しかし、新型コロナを発症した人が症状が出る前からマスクを着けていた場合は家族への感染を79%減らしました。ただし発症後にマスクを着けても家族への感染は減らさなかったそうです。
家にいるときもマスクを着けているというのはさすがに日本では馴染まない習慣だとは思いますが・・・特に抵抗がないという方は着けてもよろしいかと思います。
病院内でのユニバーサルマスクは医療従事者の感染を減らす
新型コロナ以降、病院内では患者さんやお見舞いに来られる方にもマスク着用をお願いしている病院が増えています。
これも新しい生活様式の一つと言えますが、この病院内でのマスク着用による新型コロナの予防効果が示されています。
2020年3月から4月にかけて新型コロナが大流行していたアメリカのある病院で、3月に医療従事者がマスク着用を義務化し、4月に患者のマスク着用を義務化したら医療従事者の新型コロナ感染率が低下したという報告も出ています。
どんなマスクを選べば良い?
研究などで効果が検証されているマスクは、N95マスクやサージカルマスクといった医療現場で使用されるマスクであることが多いのですが、市販されているマスクでも同様の効果は期待できるのでしょうか?
マスクの種類による飛沫の濾過効果の違いを見た研究では、ほとんどのマスクは医療従事者が用いるサージカルマスクやN95マスクとそれほど遜色のない濾過効果があると考えられます。
ただし、この研究ではバンダナやネックゲイターは何も着けていないのとほぼ同じくらいの効果しかないとのことであり、これらを感染対策の目的で使用することは避けた方が良いでしょう。
マスク着用はメリハリをつけましょう
ちなみにマスク着用が推奨されるのはいまのところ換気が不十分となりやすい屋内や混雑した交通機関内のみであり、人との距離が十分に保たれている場合は屋外でのマスク着用は推奨されていません。
冒頭の写真の二宮金次郎像は屋外でもマスクを着用しておりユニバーサりすぎていますが、マスクの着用はメリハリが大事です。
また日本小児科医会は窒息や熱中症のリスクが高くなるとして2歳未満の子どものマスク使用は不要でありむしろ危険という声明を発表しています。2歳未満でなくとも小さいお子さんや心肺機能が低下した方のマスク着用には十分注意しましょう。
またマスク装着によってマスク表面が汚染し、これを触ることによって手にウイルスが付着し感染のリスクとなることも考えられます。飛沫を浴びるなど明らかに汚染した場合にはこまめにマスクを交換するようにしましょう。
ご自身の感染予防のためにはマスク着用だけでなく、手洗いをこまめに行うことが重要です。
マスクを着けているから自分は安心、と思わず基本的な感染対策もおろそかにしないようにしましょう。