♪今週の気になる1枚〜ナタリー・コール『エスパニョール』
1975年のデビュー以来、アメリカのポピュラー音楽シーンの最前線を走り続ける“歌姫”ナタリー・コールの新作は、自身初となるスペイン語でのアルバムとなりました。
彼女は、“世紀のヴォーカル”と謳われたナット・キング・コールの娘ですが、幼いころに死別しています。
デビュー曲がグラミー賞を受賞するなど脚光を浴びてからも、その話題に触れようとせずに過ごした期間が長かったのですが、1991年のアルバム『アンタッチャブル』で父親の愛唱曲をカヴァーして以降は、心に残っていた“わだかまり”も氷解したようです。
今回のアルバムのアイデアも、発端にはナット・キング・コールのベスト・セラー『コール・エスパニョール』(1958年)や『ミス・アミーゴ』(1962年)の影がちらつき、アメリカの音楽シーンにヒスパニックな旋風を巻き起こした先駆者の功績をリスペクトするかたちになっています。
選曲はいずれもラテン歌謡でもおなじみの曲、つまり“古い曲”ばかりです。それをオリジナルのスペイン語で、ストリングスを混じえたオーソドックスなアレンジで歌うナタリーは、まるで昔の写真から抜け出してきたようにさえ思えます。
しかしながら、こうした時代的なギャップを違和感なく“演じて”しまうことができるところがナタリー・コールの真骨頂でしょう。そう、彼女は“時代の寵児”である自分の経歴を昇華させ、タイムレスな存在になりつつあると言えるのです。
だからこそ本作は、懐メロでもリメイクでもなく、現在進行形のポップなサウンドとしてリスナーに受け入れてもらうことができるのです。
特筆しておきたいのは、「アンド・アイ・ラヴ・ヒム」。原曲はザ・ビートルズの「アンド・アイ・ラヴ・ハー」で、彼女は歌詞の“彼”を“彼女”に変えて、スペイン語に仕立てました。この本作ならではの異質なアプローチを歌いこなしてしまえるところが、ナタリー・コールの真の実力であり、愛すべきキャラクターなのです。それをタップリと楽しみながら、ラテンの世界を味わっていただきましょう。
♪Natalie Cole En Espanol
『エスパニョール』についてナタリー・コールとプロデューサーのルディ・ペレスが語っているプロモーション動画です。バックで彼女の歌が父親のナット・キング・コールの歌とオーヴァーラップしているところなどを楽しみながら、アルバムの雰囲気を味わうことができる構成になっています。
♪Natalie Cole- This will be 1975
ナタリー・コールのデビュー曲「ジス・ウィル・ビー」は、ビルボード全米総合チャート6位のヒットを記録し、グラミー賞の最優秀R&B女性ヴォーカル賞、最優秀新人賞に輝きました。日本では翌1976年に東京音楽祭でグランプリを受賞した「ミスター・メロディ」のほうが耳馴染みがあるかもしれませんね。