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がん募金で5億5千万円集めた英国の青年逝く

木村正人在英国際ジャーナリスト

イギリスで暮らす末期がんの青年、スティーブン・サットンさんが14日、末期がんのため、入院先の病院で亡くなった。19歳だった。昨年1月、ソーシャルメディアに自分の闘病生活を投稿し、10代でがんと闘う青少年への寄付を呼びかけたところ、目標の1万ポンドをはるかに上回る320万ポンド(5億4800万円)以上が十数万人から寄せられた。

この日昼、サットンさんの母親ジェーンさんがフェイスブックでサットンさんの逝去を報告。

「私の心は、勇気があり、利他的で、人を鼓舞する息子を持ったことを誇りに思うと同時に、痛みで張り裂けそうです。この日朝早く、息子は安らかに眠りにつきました」

サットンさんは11日、容体が悪化し、再入院。フェイスブックに「呼吸困難のため、残念ながら病院に逆戻りしてしまった。パニックは起こしていません。今のところ安定しています」と書き込んだのが最後になった。

キャメロン首相も「哀悼の意を捧げます。彼の魂と勇気、募金活動はすべての人を励ましました」とツィートした。

イングランド中部スタフォードシャーに住むサットンさんはスポーツ少年だった。15歳のとき腸にがんがあると診断され、手術や化学療法など、がん治療が始まった。

サットンさんは「その時から、生き方がものすごくポジティブ(前向き)になった」という。将来、医者になろうと猛勉強していたが、がんは全身に転移。サットンさんは残された時間に何ができるか考えた。

昨年1月13日、サットンさんは「スティーブンの物語」と題してソーシャルメディアでこう呼びかけた。

「皆さん、こんにちは! 僕は18歳。過去3年間、腸やひざ、股の付根、骨盤にできたがんと闘ってきました。手術や放射線治療、化学治療を受けなければならなかった。僕は不安定で、たぶん限られた未来に直面している。そこで決心したんだ。がんと闘う10代への関心を高め、寄付を集めようと」

そして、46の目標リストをつくった。

(1)「10代のがんトラスト」のため1万ポンドの寄付を集める(達成)

(2)寄付集めのためスカイダイビングに挑戦(達成)

(3)寄付集めのためバンジージャンプに挑戦

(4)寄付集めのパーティーを開催(達成)

(5)寄付集めのため脱毛と剃髪

(6)本を書く(達成)

――中略――

(23)タトゥーを入れる(達成)

――中略――

(44)仰向けになった人を支えて頭上を異動させていくクラウドサーフィンを体験(達成)

(45)キノセンの中で呼吸できるか試してみる

(46)インカ帝国の都市遺跡マチュ・ピチュ(ペルー)を訪れる

サットンさんの投稿は続く。

4月29日 「みんな、自分がどれだけ強いのか知らない」

7月25日 「がんに共通の症状が現れてきた。無視してやった」

9月8日 「これはクラウドサーフィンをやってもらったときの写真。新しいことにチャレンジすることを怖れてはいけないよ」

今年1月29日 「目標リストのうち30は成し遂げたよ」

4月5日 「痛みをコントロールするのは大変だ。痛みがどんどんひどくなっている」

4月16日 「良いニュースだよ。僕はまだ生きている。呼吸している。酸素吸入器につながれて、病院のベッドから抜け出すことができなくなっている」

4月22日 「これが最後のサムズアップ(親指を突き立てる仕種)。これからのアップデートはおそらく家族がしてくれる。僕の人生は素晴らしかった。本当に素晴らしい」

1時間で2千のテキストメッセージが寄せられ、この日だけで40万ポンドの寄付が集まる。

4月23日 「(寄付集めの目標が達成できて)ヤッタ。どうもありがとう」

寄付が140万ポンドを突破。

4月24日 「ハイ、みんな。スティーブンはまだ生きているよ。闘っているよ。前の投稿した時はもうだめかと思ったけど、とにかくまだ生きている。これまで通り、できるときにアップデートしてみるよ」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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