コロナ前から「医療崩壊」の北朝鮮、子どもの死亡例が相次ぐ
最近、北朝鮮で子どもが死亡する事例が増えている。新型コロナウイルスによる感染症、あるいは別の感染症による発熱で亡くなる場合もあるが、それ以外の原因も指摘されている。南浦(ナムポ)のデイリーNK朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内部情報筋が伝えた。
情報筋は、子どもたちが事実上、伝染病の脅威の前で放置されているとして、朝鮮人民軍第3軍団の指揮部の軍人の家族の間では、大人より子どもの死者が多いと伝えた。
その理由として情報筋が挙げたのは、食糧不足による栄養状態の不良だ。
横流しの常態化により、かねてから軍に配給される食糧は不足していたが、そこに昨今の食糧難が重なり、軍官(将校)やその家族といえども満足な食事を取れないのが実情だ。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
もうひとつの理由は、薬の副作用だ。
軍団所属のある軍人の2歳の娘は、高熱を出したことから、家族もろとも自宅で隔離されていた。苦しむ娘に軍医は、一般的な解熱鎮痛剤であるアセトアミノフェン4分の1錠を処方した。こちらは、量を調節すれば、4ヶ月以上の乳幼児なら投与が可能だという。
しかし、熱が下がらなかったことから、追加で処方した薬が問題になった。ディメドロン。これは、日本で「ジフェンヒドラミン」と呼ばれる抗ヒスタミン剤、睡眠補助剤で、5歳未満の乳幼児に服用させてはならないことになっている。
量は不明ながら、娘にこのディメドロンの注射薬を注射したところ、翌日の明け方に息を引き取ったという。
情報筋は、子ども用ではない薬を使用したことが死因としつつ、第3軍団の内部では、同様の子どもの死亡事例が数件発生したと伝えた。
第3軍団の軍人家族の間では、2歳の子どもにそんな薬を処方したのが問題だと、軍医の責任を問うべきだとの抗議の声が上がっているが、軍医局は、両親の承認を得て処方したものだとして、責任逃れに汲々としている。
軍医とて、最善を尽くしたのかもしれない。そもそもの原因は、北朝鮮の医療システムの崩壊にあるからだ。
かつては、すべての国民が無償で医療を受けられたが、1990年代後半の食糧危機「苦難の行軍」に際して崩壊。病院で診察を受けることはできても、薬は市場で購入して服用しなければならない。
コロナ感染者公表により、医薬品価格は高騰。それ以前に、コロナ鎖国により深刻な品不足が続き、現金があっても薬が手に入らない状況となっている。
北朝鮮では、次のような認識が当たり前になっているという。
「大人用、子ども用の薬を別々に処方する体系がなくなって久しく、親は自分が飲む大人用の薬の量を減らして子どもに飲ませればいいと認識している。子どもの保健医療体系が劣悪なので、このような事故が繰り返し起こる」(情報筋)
北朝鮮では、依然として結核の流行が起きている。BCGワクチンの接種が欠かせないが、量の不足により、接種できない子どもが多い。それ以外の伝染病ワクチンも同じだ。その結果、大人よりも抵抗力の弱い子どもが先に死に追いやられるという。