【リニア談合】否認の2被告に有罪判決~改めて検察の訴追裁量権を考える
JR東海のリニア中央新幹線工事をめぐって大手ゼネコン4社で談合があったとして、独禁法違反(不当な取引制限)罪に問われた大成建設の大川孝・元常務執行役員(70)と鹿島の大沢一郎・元専任部長(63)及び法人としての両社が無罪を主張していた事件で、判決公判が3月1日、東京地裁であり、楡井英夫裁判長はいずれも有罪とする判決を言い渡した。
「公正かつ自由な競争を大きく阻害」
量刑は、2人に懲役1年6月執行猶予3年(求刑・懲役2年)、両社はそれぞれ罰金2億5000万円(求刑・3億円)とした。有罪を認めていた大林組には罰金2億円、清水建設には罰金1億8千万円の板金がすでに確定している。
判決によると、大川、大沢両被告人と大林組のT元副社長、その部下のK・元Jプロジェクトチーム部長、清水建設のI元専務は、それぞれの会社の部下と共謀し、品川駅と名古屋駅の新設工事について、受注予定事業者を決定して、見積価格などに関する情報をやりとりし、競争を実質的に制限した。
判決では、見積価格だけでなく、その内訳や主要工事の単価に至るまで連絡し合い、受注予定社が確実に受注できるようにするため「徹底的な協力行為」をしたなどとして、「公正かつ自由な競争を大きく阻害し」たと、その悪質性を強調した。
事前の検討は拘束力持たず、と
両駅の工事は、既存の東海道新幹線の駅の下、大深度地下の作業になることなどから、極めて難度の高いものとなるため、JRは品川駅については大林組、名古屋駅については大成建設に技術的検討を依頼していた。判決によれば、かかった費用は大林組が約10億円、大成建設も6億円を超えていた。
被告側は、JRは両駅については大林組、大成建設への発注を、あらかじめ決めており、各ゼネコンはそのように認識していた、と主張していた。
しかし判決は、JRの意思は競争によるコストダウンだったと認定。事前検討の依頼には工事受注を約束するような「拘束力」はなく、ゼネコン側は「特命随意契約ではなく、競争方式が採用される可能性は十分想定し得た」と断じた。
大成は「控訴を検討」
大成建設は、「当社の主張が認められなかったことは誠に遺憾であり、控訴を検討しております」とのコメントを発表。一方鹿島は、「「当社の主張が理解いただけず、誠に遺憾であります」としたうえで、「判決内容の詳細を確認し、弁護人と対応を検討してまいります」とした。
検察の広範な訴追裁量権
本件では、捜査段階で容疑を認めた企業と否認した企業で、検察の対応が大きく分かれた。大川、大沢両被告人は2018年3月に東京地検特捜部に逮捕され、容疑を否認。同年12月に保釈されるまで勾留が続いた。しかし、容疑を認めて検察の捜査に協力した大林組のT元副社長やK元部長、清水建設のI元専務らは、逮捕されなかっただけでなく、起訴もされなかった。
日本の法律は、起訴の権限を検察官が独占しており、しかも検察官の広範な訴追裁量権を認めていて、起訴するかしないかの判断はもっぱら検察官に委ねられている。
とはいえ、判決の「罪となるべき事実」では、大川、大沢両被告人と大林組のT元副社長、K元部長、清水建設のI元専務は並列で書かれている。同じ罪を犯した認定されているのに、認めれば逮捕も起訴もされず、否認すれば懲役刑というのは、差がありすぎではないか。
河井事件でも
検察の訴追裁量権については、2019年7月の参院選広島選挙区の大規模買収事件でも、問題になっている。河井克行・案里夫妻は公職選挙法(買収)で訴追され、案里氏は懲役1年+4か月、執行猶予5年の有罪判決が確定した。一方、夫妻から金をもらった地方議員らは被買収で立件されることはなかった。
30万円受領の一般人は有罪、150万円の市長は立件せず
これまで、選挙を巡る買収事件で、金を受け取った側が逮捕・起訴され、有罪判決を受けているケースはいくつもある。
たとえば、2014年にあった青森県平川市の市長選挙を巡る公選法違反事件では、現金20万円等を受け取った市議15人が逮捕・起訴された。いずれも判決は有罪で、執行猶予付きの懲役刑を受けている。また、同じ年にあった徳島県牟岐町の町長選を巡る選挙違反事件で、落選した元町議から現金30万円を受け取った鮮魚商の夫婦は、やはり執行猶予付きの懲役刑を受けた。
一般人でさえ罪に問われるのに、河井夫妻の事件に関しては、市長が「不法な金」という認識で150万円を受け取ったケースでも立件されていない。金をもらった側の証言を必要とする検察の事情で、被買収は立件せず、お目こぼしとされたのではないか。
このように、同じ行為でも、検察の都合で起訴されたり、されなかったりする。起訴されれば、多くは有罪となることを考えると、これだけの格差をつける裁量権を検察に与えていることは、公平性の観点から考えてどうなのだろうか。
大深度工事における安全とコスト
また、今回のリニア談合事件の判決では、こんな一文があった。
被告会社は、品川、名古屋両駅工事は難易度が高く、安全に施工するためには、事前に地盤等を検討し、高度な技術開発を行う必要があるとも主張していたが、判決は競争によるコストダウンを図るJR側の意思を重くみた。
大深度工事では、東日本高速道路(NEXCO東日本)東京外環道のトンネル工事で、東京都調布市の住宅街における陥没工事があったばかりで、この一文は気になった。