【そのスケール、アベンジャーズ以上?】ウルトラマンやスティッチも所属する宇宙連邦「銀河連邦」とは?
みなさま、こんにちは!
文学博士の二重作昌満です。
特撮を活用した観光「特撮ツーリズム」の博士論文を執筆し、大学より「博士号(文学)」を授与された後、国内の学術学会や国際会議にて日々活動をさせて頂いております。
いよいよ10月に入りました。皆さまいかがお過ごしでしょうか?
さて、今回のお話のテーマは「宇宙連邦」です。
「唐突にお前・・・壮大な話持ち込んだな!」と指摘されそうですが、そんな難しい話はいたしません(できる限り、シンプルに参ります)。今回のお話に出てくる「宇宙連邦」とは、宇宙に存在するたくさんのスーパーヒーロー達が結集した、とにかくデカい組織だと思っていただくだけで大丈夫です。
突然ですが、皆さまは宇宙のスーパーヒーローといわれると、どんなヒーローを思い浮かべますでしょうか?
遠い宇宙の彼方にあるM78星雲「光の国」から、地球の平和のためにやって来たヒーローであるウルトラマンでしょうか?
それとも、宇宙の警察に所属するおまわりさんとして、地球で犯罪行為を行なう宇宙人達を捕まえる宇宙刑事さん達でしょうか?
それとも、宇宙の平和のために変身(トランスフォーム)するロボット生命体でしょうか?
このように、ひとくちに宇宙のスーパーヒーローといっても様々。しかし、彼らに共通しているのは「宇宙の平和を守る。宇宙に平和に暮らす人々の平和を脅かす悪者を許さない。」という確固たる意思でした。
これまで日本やアメリカでも、実にたくさんの宇宙のスーパーヒーローが誕生しました。我が国では先述したウルトラマンやギャバンといった特撮ヒーロー、アメリカではスーパーマンやバズ・ライトイヤーをはじめとするスーパーヒーロー達に限らず、なんとあのスティッチも宇宙の平和のために戦うことさえありました。
そんな日本やアメリカで誕生した宇宙のスーパーヒーロー達が所属している宇宙連邦こそ、「銀河連邦」です。今回は壮大な宇宙に目を向けながら、円谷プロ制作のウルトラマンシリーズ、東映制作の宇宙刑事シリーズ、ウォルト・ディズニー・カンパニー制作のスティッチシリーズの、3つの異なる映像会社がそれぞれ創り上げてきた、銀河連邦の世界を覗いていきたいと思います。
※本記事は「私、アニメや特撮にくわしくないわ」という方にもご覧頂けますよう、可能な限り概要的にお話をしておりますので、ゆっくり肩の力を抜いて、気軽にお楽しみ頂けたらと思います。
【銀河連邦遥かに超えて!】ウルトラマンにミラーマン!円谷プロ出身の特撮ヒーロー達が集った宇宙連邦国家「銀河連邦」とは?
まずご紹介するのが、円谷プロ制作の特撮ヒーロー番組『ウルトラマン(1966)』シリーズに登場した「銀河連邦」についてお話をしたいと思います。その前に、当シリーズに触れたことがない読者の皆さまに向け、簡単に当シリーズのご紹介をさせてください。
ウルトラマンシリーズは、株式会社円谷プロダクション制作の特撮ヒーロー番組『ウルトラマン(1966)』及び、特撮怪獣番組『ウルトラQ(1966)』を起点とするシリーズです。
1966年に『ウルトラマン』が放送され、M78星雲「光の国」からやって来た身長40mの銀色の宇宙人が巨大な怪獣と戦い、最後は必殺光線(スペシウム光線)で怪獣を退治するという物語はたちまち子ども達の心を掴み、最高視聴率42.8%、平均視聴率36.8%を記録する大人気番組となりました。
大衆的な人気を博した『ウルトラマン(1966)』の放映終了後も、その次回作である『ウルトラセブン(1967)』、『帰ってきたウルトラマン(1971)』、『ウルトラマンタロウ(1973)』、『ウルトラマンティガ(1996)』等、シリーズが続いていき、現在は『ウルトラマンブレーザー(2023)』が放送中です。
さて、今回のお話のテーマである「銀河連邦」が登場したのは、ウルトラマンシリーズ第5作『ウルトラマンエース(1972)』。
『ウルトラマンエース』は、歴代ウルトラマン達が名を連ねる「ウルトラ兄弟」5番目の弟:ウルトラマンエースが、異次元の悪魔「ヤプール」が毎週送り込む怪獣(本作では超獣と呼称されます)から地球を守る物語。
この『ウルトラマンエース』、歴代ウルトラマンシリーズの中でも特にチャレンジ精神に溢れた作品でした。例えば、これまでウルトラマンに変身したのは男性1人であったのに対し、男女2人で合体して変身するというアイディアや、巨大な悪の組織(ヤプール)がいて、彼らが送り込むのは怪獣よりも強い存在である「超獣」であり、その超獣とウルトラマンが毎週戦っていく・・・といった斬新なアイディアがたくさん物語に詰め込まれていきました。
「なんで急にこんなに新しいこと始めたの?ウルトラマンと怪獣が戦うだけでも十分面白いじゃん?」と思われるかもしれませんが、『ウルトラマンエース』が放送された1972年は、我が国で熱狂的な特撮ヒーローブームが巻き起こっていた時代でした。その火付け役となったのが、ウルトラマンのライバル番組とも言える東映制作の特撮ヒーロー番組『仮面ライダー(1971)』でした。「変身!」のパフォーマンスでパッ!とヒーローに変身する主人公の活躍に子ども達は心を掴まれ、玩具やお菓子を筆頭に爆発的なブームが巻き起こっていたのです。
このブームに便乗し、当時たくさんの映像会社によって次々と特撮ヒーロー番組が制作されていきました。仮面ライダーでブームに火を付けた東映も、『人造人間キカイダー(1972)』や『変身忍者嵐(1972)』を制作し、対してウルトラマンシリーズの円谷プロも『ミラーマン(1971)』や『ファイヤーマン(1973)』といった、ウルトラマン以外の数々のヒーロー番組を世に送り出していきました。上述したような、特撮ヒーロー番組が大量生産される時代・・・。その競争は熾烈を極め、時にヒーロー番組の裏番組がヒーロー番組なんてこともあったようです。実際、『ウルトラマンエース』の裏番組は東映の『変身忍者嵐』が放送されていました。そこで、ウルトラマンシリーズも他社の特撮ヒーロー番組に対抗するため、シリーズの改革を余儀なくされたのです。
そこで、『ウルトラマンエース』で行なわれた改革の1つが、歴代のウルトラマン達を「家族」として纏めることでした。これまで放送されたウルトラマンシリーズ(『ウルトラマン(1966)』から『ウルトラマンエース(1972)』まで)に登場した5人のウルトラマン達を「兄弟」として描写し、この5人を纏めるお父様として「ウルトラの父」が登場しました。
さらにウルトラマンエースは、先述した『ミラーマン』や『ファイヤーマン』といった、たくさんのヒーロー達が所属する「銀河連邦」の使者であるという設定が与えられ、エース本人も「自分は銀河連邦の一員である」旨を述べていました。
このように、円谷プロが生み出したたくさんの特撮ヒーロー達を繋げる夢の宇宙連邦として登場した「銀河連邦」・・・しかしその試みは残念ながら中途半端な形で終わってしまいました。
「話が壮大すぎて、物語に入れられなかったんじゃない?」・・・これも一理あると思います。しかし『ウルトラマンエース(1972)』の物語はそれ以前に、チャレンジ精神に溢れた作品であるが故の大きな難点を抱えており、正に先駆者故の苦悩の中にいた状況でした。
・・・それは「物語に新要素を詰め込み過ぎた」ことでした。先述したように『ウルトラマンエース』はたくさんの新たな試みが行なわれた作品です。男女合体変身、毎週怪獣を送り込む巨悪、怪獣を改造した超獣、ウルトラマンのファミリー化等々・・・これはシリーズを構成する要素の一部でしかなく、まだまだたくさんの要素が番組に詰め込まれていました。これらの設定が功を奏した反面、描写や物語そのものが複雑になる等の問題も併せて発生していたのです。その結果、『ウルトラマンエース』では番組中盤において男女合体変身描写から一転、これまでと同様に男性一人でウルトラマンに変身する描写に戻し、物語の巨悪であるヤプールも滅ぼしてしまいました。その結果、『ウルトラマンエース』はこれまでのウルトラマンシリーズと同様、ウルトラマンが毎週現れる怪獣と戦うというシンプルな構図へと戻っていきました。
このように番組の構成要素が多すぎた反面、残念ながら描かれることのなかったウルトラマンシリーズの「銀河連邦」・・・。『ウルトラマンエース』の放送終了後も、銀河連邦の設定自体は残留したものの、半世紀近くに渡り存在するだけで、その実態は未解明の組織としてペンディングされてしまった状態でした。
しかし、たくさんの円谷プロのヒーロー達が集うとされる「銀河連邦」の名残は、近年のウルトラマンシリーズにおいて大いに発揮されることになりました。
例えば、ウルトラマンやミラーマン、ファイヤーマンと行った円谷ヒーロー達で構成される混成ヒーローチームの登場や・・・
ウルトラマンだけでなく、かつてウルトラマンと戦った宇宙人達も力を合わせて結集し、か弱き生命を守護するレスキューチームが登場したりと、ウルトラマンを唯一無二のヒーローとして描くのではなく、壮大な宇宙の一員として描写する作品も発信されるようになりました。
現時点で、ウルトラマンシリーズにおける「銀河連邦」は未だ実態の不明な宇宙連邦としてペンディングされている状況ではあります。しかし、上述した近年のウルトラマンシリーズの新展開のように、そのベールを脱ぐ日が近いのかも知れません。
【あばよ涙!よろしく勇気!】もうひとつの銀河連邦!宇宙刑事達が所属する銀河連邦警察ってどんな組織?
ここまでは、ウルトラマンシリーズに描かれた「銀河連邦」について概要的にお話しました。残念ながら、存在こそしているものの組織そのものは不透明な点が多かったウルトラマンシリーズの「銀河連邦」に対し、東映制作の宇宙刑事シリーズでは、ヒーロー(主人公)はたくさんの宇宙人達が集まる宇宙連邦「銀河連邦」の警察組織に所属しているおまわりさんであり、地球で犯罪を行なう悪の組織と戦う物語が描かれました。
お話に入る前に、この東映制作の宇宙刑事シリーズについて概要的にご説明致します。宇宙刑事シリーズとは、東映制作の特撮ヒーロー番組である『宇宙刑事ギャバン(1982)』を起点とする特撮シリーズ(全3作品)のことです。
『宇宙刑事ギャバン(1982)』とは、地球を支配下に置かんとする宇宙犯罪組織マクーから地球を守るため、銀河連邦警察から派遣された宇宙刑事・ギャバン(一条寺 烈)が、マクーが毎週送り込む怪物達と戦う物語。本作はギャバンとマクーの戦いを描くだけでなく、ギャバンを宇宙人の父(ボイサー)と地球人に母の間に間に生まれた存在として設定し、主人公が失踪した父親を探し出し、悲しき再会を果たすまでの過程も描かれました。
激しいアクションと重厚な人間ドラマが共に凝縮された『宇宙刑事ギャバン(1982)』は好評を博し、次回作『宇宙刑事シャリバン(1983)』、さらに『宇宙刑事シャイダー(1984)』が制作されました。
宇宙刑事シリーズは上記の3作品で幕を閉じますが、その後も当シリーズの志を継承し、ギャバンと同様にメカニカルなヒーローが活躍する特撮ヒーロー番組が東映によって1999年まで放送が続けられました。その結果、宇宙刑事シリーズは「メタルヒーローシリーズ」と呼称されるまでに大きく発展し、仮面ライダー、スーパー戦隊シリーズに続く、東映を代表する第3の特撮ヒーローシリーズとして定着していきました。
さて、そんなメタルヒーローシリーズ確立の原点であった宇宙刑事シリーズ。当シリーズにおいて重要な役割を果たしていたのが「銀河連邦」の存在でした。当シリーズの主人公を務めた3人の宇宙刑事(ギャバン、シャリバン、シャイダー)が所属していたのが、宇宙連邦「銀河連邦」の警察組織である「銀河連邦警察」でした。当組織はコム長官を最高責任者に、バード星と呼ばれる惑星を本拠地として宇宙の平和のために活動している警察組織です。ギャバン達をはじめ、たくさんの宇宙人達が宇宙のおまわりさんである「宇宙刑事」として当組織に所属し、赴任先である惑星で警察活動を行なっています。
この「銀河連邦警察」ですが、先述したウルトラマンシリーズと比較してその実態がよりわかりやすく描かれていたのが特徴で、組織構造が明確であることや(コム長官と秘書を中心に、長官の指示によって動く刑事達、また事件によっては異なる赴任先の刑事同士も協力する展開等)、各宇宙刑事達のバックストーリー(どんな惑星からきた人達がどんな役職で警察組織に所属しているのか、なぜ警察組織に入ろうと思ったかといった動機等)などが丁寧に描写されていることも特徴でした。
そんな「銀河連邦警察」ですが、組織内部が丁寧に描写された反面、汚職やトラブルも多く発生していた組織でもありました。宇宙刑事でありながら悪の道へと堕落し、あろうことか犯罪組織に加入した者もいた他、銀河連邦警察の重鎮達による汚職やトラブルも併せて発生しており、悪の組織と結託した兵器開発や、悪の幹部になりすまして宇宙刑事の捜査妨害を行なう等、犯罪に加担した不届き者も銀河連邦警察に数多く存在していました。
そんな銀河連邦警察の組織内における一悶着の中で、極めて珍しい事例だったのが、「ギャバンによる地球破壊光線の発射」でした。2013年に公開された映画において、宇宙刑事から銀河連邦警察の隊長へと昇格したギャバンは、あろうことか地球に向けて破壊光線を発射してしまったのです。
「えっ、なんで正義のヒーローが地球に破壊光線を撃つんだよ!」と思われる方も多いと思います・・・実際、私も映画館で愕然としました。「大好きなギャバンはそんな人じゃない!」と、当時頭を殴られたような衝撃だったのです。宇宙刑事としての活動の傍ら、行方不明となった父を捜し出し、愛する母との思い出を胸に再会を果たすも、最後に死んでしまった父へ流したあの涙はなんだったのか・・・ギャバンにとって地球は、愛する亡き母の母星なのですから。
なぜそんなことになってしまったのか・・・この重大事件は映画『仮面ライダー×スーパー戦隊×宇宙刑事 スーパーヒーロー大戦Z(2013)』において描かれました。本作の物語は、宇宙各地が魔法陣の暴走によって破滅の危機にあり、銀河連邦警察はその原因が地球にあることを突き止めます。さらに地球を守るスーパーヒーローである仮面ライダー達に事件の疑惑がかけられ、銀河連邦警察は宇宙の平和のため地球を「超次元砲」で消去することを決定します。その「超次元砲」のスイッチを握っていたのが、刑事から銀河連邦警察の隊長へと昇格したギャバンであり、隊長という役職と、地球は母の星であるという私情に板挟みとなった彼は、最終的に宇宙の平和のためという建前の下、「超次元砲」を地球へ発射してしまったのです。
「許してくれ・・・母なる星よ・・・超次元砲・・・発射!」(ギャバン)
最終的に、宇宙各地で巻き起こった破滅の危機の要因は、悪の秘密結社「スペースショッカー」の仕業であると判明し、仮面ライダー達の疑惑は晴れ、ギャバンの後輩である宇宙刑事たちによって超次元砲が放った破壊光線は無効化され、地球は救われます。
私も立場の変化に伴い、お仕事に私情が持ち込めない状況は度々経験しているので、ギャバンの苦悩や葛藤描写には共振するものを感じつつも、やはりかつての『宇宙刑事ギャバン(1982)』を前提に本作を視聴していたので、ギャバンは変わってしまったのだろうかと実はモヤモヤしていたのです。
・・・しかし、やはりギャバンはかつてのギャバンでした。本作公開後に制作された映画『スペース・スクワッド(2017)』において、ギャバンは後輩の宇宙刑事の危機に駆けつけます。強敵を前に戦う覚悟を決めた後輩に対し問います。
「みんながお前を信じて戦っている。マッドギャラン(敵)に・・勝てるか、撃?」(ギャバン)
「勝ちたい」と返答する後輩(撃)に対し、ギャバンは易しい笑みを浮かべます。
「良い目をしている。あきらめない。絶対に恐れることのない、漢の目だ。受け取れ。そして・・・戦え!」(ギャバン)
ギャバンは撃に、自分にとって魂ともいえる「剣(レーザーブレード)」を託します。受け取るのを躊躇する後輩に対し・・・
「・・・だから、お前に授けるんだ。」(ギャバン)
「重い・・・めちゃくちゃ重い・・・だから勝ちます!」(撃)
ギャバンが愛用していたレーザーブレードを託された撃は勇猛果敢に戦いを挑み、強大な敵を討ち取ります。そして撃は、宇宙刑事をはじめ、先述したメタルヒーロー、さらにはスーパー戦隊をも巻き込んだ宇宙のヒーロー達によって編成される選抜部隊「スペース・スクワッド」の隊長に任命されます。ギャバンから託された宇宙刑事の魂は、次なる世代へと受け継がれていったのでした。
余談ですが、撃が隊長を務める「スペース・スクワッド」の物語はこれまで3作品制作されました。しかし2018年公開作品を最後に次回作の公開が途絶えており、その物語も未完のままにあります。いつか彼らによる心躍る大活躍が再見できる日を、私も1作品ファンとして心から待ち続けております。
【スティッチの追放先は地球?】銀河連邦の問題児だったスティッチが銀河艦隊の艦長になるまで
ここまで、ウルトラマンシリーズ及び宇宙刑事シリーズで描かれた「銀河連邦」について上述してきました。・・・実はまだまだ旅は終わりません。日本を飛び出して海外へ視野を広げると、巨大な宇宙連邦として「銀河連邦」を描いた作品はまだまだ存在するのです。
その最たる例が、なんとウォルト・ディズニー・カンパニー制作の映画『リロ&スティッチ(2002)』でした。・・・そう、あのディズニーを代表する大人気キャラクター、スティッチのデビュー作です。
「あの青くてフワフワのエイリアンのスティッチが、銀河連邦となんの関係があるの?」と思われるかも知れませんが、実はこのスティッチを生み出したのは銀河連邦の科学者でした。『リロ&スティッチ(2002)』に登場する「銀河連邦」も、先述したウルトラマンシリーズ等と同様に、たくさんの宇宙人達が所属する宇宙国家であり、冷静沈着かつ慈悲深い女性議長(トゥーロ星出身)の指導のもとで、体制が堅持されています。
そんな銀河連邦に所属する宇宙人達ですが、決して良い人達だけではありませんでした。中には、違法な遺伝子実験を幾度も繰り返し、600体以上の怪物を生み出した悪の天才科学者もいたのです。その科学者こそ、ジャンバ博士(本名:ジャンバ・ジュキーバ)。ジャンバ博士は違法な遺伝子実験により、600体以上の怪物(通称:試作品)を生みだし、銀河連邦の議会から告発された人物でした。
そんなジャンバ博士が開発した626体目の「試作品」こそ、スティッチ(正式名称:試作品626号)でした。今でこそ可愛らしいキャラクター性が定着しているスティッチですが、生まれたての性格は極めて凶暴で悪い子。銃弾も跳ね返す頑丈な体、自分の三千倍もの重さの物体を軽々と動かす力量、さらに頭脳はスーパーコンピューター並みというハイスペック。その上、非常に厄介だったのは、スティッチには全てを破壊する本能がプログラムされているため、破壊衝動が抑えられず、あらゆる物を破壊するわ、二丁拳銃を乱射するわ、宇宙船をぶっ飛ばすわ、つばや汚い言葉を吐くわで大変な問題児だったのです。本気を出せば惑星ひとつ容易く壊滅できる力を持ったスティッチの唯一の弱点は水でした。
そこで銀河連邦の議長はスティッチの追放と護送を決定しますが、スティッチは脱走。脱走先は水の惑星である地球でした。水が苦手というスティッチの弱点を踏まえ、生きられない環境におけるスティッチ事件の解決を期待した銀河連邦ですが、大きな誤算が生じました。それは、本来海に落下するはずだったスティッチのロケットが、米国のハワイ州・カウアイ島の陸地に落下することが判明。そこで、議長はスティッチの開発者であるジャンバ博士と、諜報員のプリークリーに、地球でのスティッチの捕獲を命じます。
そんな銀河連邦の心配をよそに、カウアイ島へとやってきたスティッチ。ひょんな偶然から、カウアイ島で暮らす女の子・リロと出会います。はじめは凶暴で手がつけられなかったスティッチも、リロの家族の一員となったことで、その心に変化が生じます。その要因はカウアイ島という住環境と、リロの家庭環境にありました。
まず住環境ですが、『リロ&スティッチ(2002)』の舞台となるカウアイ島はハワイ諸島を構成する島の1つであるものの、首都ホノルルがあるオアフ島と比べ都会的ではありません。ハワイ最大のタロイモ水田が広がっており、植生豊かな山林地帯が広がっています。つまり、(言葉に語弊がありますが)カウアイ島はオアフ島と比べ田舎であり、都市開発がむやみに進んでいないために、血気盛んなスティッチがぶち壊すビル等の建造物が少ないのです。さらに、島であるために水が苦手なスティッチは海の向こうに逃走できません。生きていくためにはリロ達と暮らすしかないわけです。
そしてリロの家庭環境ですが、リロはお姉さんのナニと二人暮らしで、両親を失っています。それ故に経済的に困窮し、変わり者のリロとナニは喧嘩ばかり。その上にこの家庭環境が災いし、福祉局の職員(コブラ・バブルス)もリロの安全を考慮し、リロを保護するか否か常に監視している状況でした。早い話が・・・家庭崩壊した姉妹だったのです。
そんな不慣れな環境に身を置いたスティッチですが、リロ達と生活を共にしていく中でその心に変化が生じます。寂しい、自分は孤独であるという虚しさを感じ、自ら家族を求める性格へと次第に変化していったのです。そんなスティッチはリロ達は自分の家族であると認識し、ジャンバ博士達と戦い、手違いで銀河連邦にさらわれたリロを救出します。この騒動の後、地球を訪れた銀河連邦の議長は、リロ達との生活を経てすっかり良い子になったスティッチの変化に驚きます。
「コレハ、ボクノ家族。ボクガ自分デ見ツケタ。小サイシ、家庭崩壊。デモ、イイ家族。ソウ・・・イイ家族。」(スティッチ)
そこで議長はスティッチの連行を断念し、変わってスティッチの追放先を地球へと決定します。この決定により、スティッチは名実ともにリロ達の家族として受け入れられ、スティッチを捕らえようとしていたジャンバ博士やプリークリーもリロの家族の一員となったのでした。
ここまでが映画『リロ&スティッチ(2002)』の物語。全体的にはかなり重い作風だった本作ですが、好評を得たスティッチの物語は次回作が次々と制作されました。毎作ハチャメチャな大活躍を繰り広げるスティッチですが、時に生きるか死ぬかの命の危機に直面したほか、自分以外の600体以上の試作品(スティッチ曰く、イトコ)と交流し、時に戦いながら、ハワイで彼らが安全に暮らせる場所(おうち)を見つけることができました。
そんな実績を銀河連邦により評価されたスティッチは『リロ&スティッチ』シリーズ最終作、『リロイ&スティッチ(2007)』にて、銀河連邦議長より銀河艦隊の大尉及びBRB-9000(戦闘旗艦)の指揮官に任命されます。はじめはまんざらでもなかったスティッチですが、宇宙を股にかけて活躍する大尉の仕事は、家族であるリロとの別れを意味していました。スティッチは大尉の座を辞退し、これまでと同様にリロ達の家族の一員として、地球に暮らすことになったのでした。
いかがでしたか?
作品こそ異なりますが、国内外3つの異なるシリーズがそれぞれ創り上げてきた、銀河連邦の世界。同じ呼称を用いていても、各シリーズにおいて異なる特徴が散見できることが、少しでも皆さまに伝わりましたら幸いです。自分の大好きなヒーロー(キャラクター)が、実は壮大な世界への入口であり、他のキャラクター達の世界とも実は繋がっているのかもしれない・・・と思うと夢や想像も膨らみますね。
最後までご覧頂きまして誠にありがとうございました。
(参考文献)
・白石雅彦、「ウルトラマンA」の葛藤』、双葉社
・用田邦憲、『仮面ライダー×スーパー戦隊×宇宙刑事 スーパーヒーロー大戦Z』、東映事業推進部