ジョンソン英首相は何日もつの? 「合意なき離脱」派、議会初日からグロッキー 期限延長派が過半数占める
[ロンドン発]市民生活と企業活動を大混乱に陥れる「合意なき離脱」に向かって突き進む英国の議会が9月3日、再開されました。ボリス・ジョンソン首相の10月31日「合意なき離脱」を阻止する超党派の動議が328票対301票の賛成多数で可決されました。
保守党から21人が造反。これに先立ち保守党のフィリップ・リー下院議員が自由民主党に鞍替えしたため、与野党の議席数は319対320と逆転しました。
リー下院議員の選挙区ブラックネルは保守党の指定席で、3年前の欧州連合(EU)国民投票では54%が離脱に投票しています。おそらく地元の選挙区で「合意なき離脱」の強硬意見が強くなってきたため、保守党に嫌気が差したのでしょう。
審議期間を2週間も短縮した上、議会が10月31日のEU離脱を阻止するようなら同月14日に総選挙を行うと脅しをかけるジョンソン首相の政権運営は早くも瀬戸際に追い込まれています。
動議を出した保守党のオリバー・レトウィン下院議員ら超党派の議員は来年1月31日まで離脱期限を延長するようジョンソン首相に求める法案を今月4日に審議して日曜日の8日夜までに成立させる方針です。レトウィン氏は下院でこう訴えました。
「EUに降伏を強い、バックストップ(新しい通商協定が結べなかった場合、北アイルランドとアイルランド間に『目に見える国境』が復活するのを防ぐ安全策)を取り除くよう脅しをかけているような状況ではない」
「わが国を『合意なき離脱』に導く政府の意図はわが国に対する脅威だ。ジョンソン首相のやっていることは峡谷の縁に立って反対側にいる国民に対して、従わないならこれから自分は底の見えない谷底に飛び込むと言っているのと同じだ」
「われわれを首相自身とともに峡谷の縁まで引きずっていくなら、とても信頼できる交渉の戦略とは言えない。責任ある戦略とも言えない」
親子2代にわたる欧州懐疑派で強硬離脱派の先頭に立ってきたジェイコブ・リース=モグ下院院内総務は議会再開初日から早くもグロッキー気味。フロントベンチで足を組み、横になって寝てしまったのです。
緑の党の女性議員は「議会を馬鹿にしている」と攻撃の手を緩めませんでした。
散々、テリーザ・メイ前首相の鼻面を引きずり回してきた強硬離脱派ですが、自分たちが政権を運営する側に回ったとたん、この有様です。EUと合意できないなら離脱期限を1月31日まで延長するようジョンソン首相に求める法案は成立する見通しです。
EUに頭を下げて延長を頼むのが嫌ならジョンソン氏は首相を辞めるしかありません。解散総選挙の最後通牒を議会に対して出すとみられますが、議会がそれに応じるかどうか。
ジョンソン首相になってから保守党はブレグジット党に流れた票を取り戻して最大野党・労働党との差を10%ポイント以上に広げています。
ジョンソン首相の戦術は解散総選挙に打って出て、保守党内のEU残留派や穏健離脱派を粛清し、下院で強硬離脱派による単独過半数を獲得することです。
EUに対する英国の世論を調査している「UK Thinks EU(英国はEUをどう思っているか)」のジョン・カーティス英ストラスクライド大学教授は英BBC放送のラジオ番組で次のような見方を示しています。
「保守党、ブレグジット党、労働党、自由民主党の四つ巴になる。保守党は以前より、もっと欧州懐疑派になってきた。解散総選挙が行われたら、ジョンソン首相vs労働党のジェレミー・コービン党首というよりジョンソン首相vsブレグジット党のナイジェル・ファラージ党首の争いになる」
「ジョンソン首相はこう言って解散総選挙に突入するだろう。『合意なき離脱』を交渉のカードから外すことで自分の手を縛りたくない。私は合意を求めていると。一方、ファラージ氏は合意せずにEUを離脱すべきだと言い続けるだろう」
2010年に保守党と自由民主党が連立を組んだ際、11年議会期固定法をつくり、首相の解散権を縛って5年間の議会期を固定しました。
早期解散は
(1)内閣不信任案が可決されて14日以内に次の内閣が構成されない場合
(2)下院の議員定数の3分の2以上の賛成で早期総選挙の動議が可決された場合
に限られています。
ジョンソン首相は最初の妻と結婚して指輪を受け取って1時間もしないうちに失くしました。新婚生活とともにマネジメント・コンサルタントとして働き始めるも1週間でクビになりました。
英紙タイムズ見習い記者時代、退屈な記事を面白くするため談話をでっち上げて解雇されました。影の芸術相の時には雑誌の女性コラムニストとの不倫がバレて解任されています。
首相職は果たして何日務まるのでしょうか。
労働党のコービン党首はこれまで総選挙の実施に意欲を見せてきましたが、「合意なき離脱」阻止法案の成立に全力を挙げる構えです。秋の党大会のシーズンを挟んで、英国の議会から何が飛び出して来るのか、まだまだ目が離せません。
(おわり)