世界経済を支える中国

［英イングランド北部ヨーク発］国際通貨基金（IMF）は13日発表した世界経済見通しで、新型コロナウイルス・パンデミックの影響を受け2020年の世界全体の実質成長率をマイナス4.4%と予測、6月時点から0.8ポイント上方修正しました。

21年には成長率は5.2%に回復するそうです。しかし、こちらは6月時点より0.2ポイントの下方修正です。

世界の国内総生産（GDP）の累積損失は20～21年の11兆ドル（約1160兆円）から20～25年までに28兆ドル（約2950兆円）に膨らむ見通しです。

加速する米中逆転

今年のGDPが19年を超えると予想される中国を除き、先進国と新興・途上国のGDPは21年まで19年レベルをはるかに下回ると予測されています。

21年の数値から中国を世界経済から除外すると、20～21年の累積成長率はマイナスになります。

購買力で見た名目GDPでは米中経済は17年にすでに逆転。コロナ危機にうまく対応した中国の成長は来年8.2%のV字回復を遂げ、22年以降も5%台の成長が続きます。

購買力で見た名目GDPでは1980年にはアメリカの約11%に過ぎなかった中国経済は2025年にはアメリカより約39%も大きくなっています。

世界の政府債務残高は対GDP比100%に

雇用はパンデミック前の水準をはるかに下回り、労働市場は二極化し、熟練度の低い労働者、若者、女性が大きな打撃を受けています。

貧困層はさらに貧しくなり、今年だけで最大9千万人が新たに「極度の貧困」に陥ると予想されています。

世界全体で最大12兆ドル（約1270兆円）の財政支援、中央銀行による利下げ、流動性注入、資産購入は生命と生活を守り、金融市場の暴落を防いできました。世界の政府債務残高は対GDP比100%という記録的水準に膨れあがりました。

先進国を中心に世界経済の「日本化」はコロナ危機で一気に進んだようです。

医療的解決策がベースライン予想よりも迅速かつ広範囲に提供されれば、25年末までの世界の累積所得は約9兆ドル増加し、あらゆる国で所得が増え、所得格差も縮小する可能性があるそうです。

日本の中期的な成長率は0.5%

21年以降の日本経済の回復は2.3%、1.7%、1.2%、1.0%、0.6%と他の主要国に比べ非常に低くなっています。これについてIMF首席エコノミストのギータ・ゴピナート氏は記者会見でこう答えました。

「日本の場合、他の先進国と比較して、GDPだけを見ると最悪の打撃を受けたわけではありません。日本はパンデミックに非常にうまく対処できました。桁外れの財政・金融支援を提供しました」

「日本は外需にも依存しており、それが抑制されている限り、経済にも影響を及ぼします。他の主要国とのもう1つの重要な違いは日本が中期に向かっているところです。中期的な日本の成長率は約0.5%になると予測されています」

「人口の高齢化、生産性の伸びの低さという点で、その国がどこに向かっているのか、大きな違いをもたらします。そうしたことから景気回復が遅いとみています」

購買力で見た日韓の国民1人当たり名目GDPは逆転

また、購買力で見ると日本と韓国の国民1人当たりの名目GDPは2017年に逆転しています。

1980年には日本の国民1人当たりの名目GDPは韓国の4倍以上もありましたが、25年には9割を切る見通しです。

新興国と覇権国の力が逆転しようとする時、2国間の緊張は高まり、戦争が勃発する恐れがあります。

米ハーバード大学ケネディ行政大学院の初代院長グレアム・アリソン教授は古代ギリシャの歴史家トゥキディデスが「アテネの台頭とスパルタの不安が戦争を不可避にした」と説いたことから、このリスクを「トゥキディデスの罠」と名付けました。

アリソン教授の研究では過去500年で、新興国が覇権国を脅かした例が16件あり、12件で戦争が起きています。「トゥキディデスの罠」は米中という2つの大国間だけでなく、日本と韓国の間にも働いていることに注意しなければなりません。

慰安婦や元徴用工の問題を巡って国内のナショリズムを煽って韓国を中国側に押しやるのではなく、日米側に巻き込む努力を日本は怠るわけにはいきません。

（おわり）