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インド、日本の新幹線を採用――中国の反応と今後の日中バランス

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
改革開放後、トウ小平が惚れ込んだ日本の新幹線(写真:アフロ)

インドの高速鉄道建設に関して日中は長いこと競争してきたが、12日、日印両国の首脳会談により日本を選ぶことが決まった。中国政府は不満を表明。中国の世論とともに今後の日中のゆくえと中印両国の可能性を追う。

◆中国の反応

安倍首相は12月11日からインドを訪れ、12日にモディ首相と会談してインド西部(ムンバイとアーメダバードを結ぶ)高速鉄道建設や安全保障問題などに関して話し合った。その結果、インドは日本の新幹線を採用することに決め、東部や南部の道路に関するインフラ整備や北部の農業支援などに4000億円の円借款を拠出することになった。また原子力発電に関しても日本の技術を核兵器に転用しないことを条件に、日本の原子力関連技術の輸出が可能となる原子力協定の締結で合意した。

インドの空気汚染、特にPM2.5による被害は中国を抜いているので、原発による電力保障はインドにとって喫緊の課題だろう。この問題は日中間の競争がないので、ここでは省く。まずは、日中間で激しい競争をしてきた高速鉄道に関する中国の反応を見てみよう。

中国政府の反応として、9日の時点で今般の結果が分かっていたので、外交部の華春瑩報道官は9日の記者会見で記者の質問に対して「どの国にも自国の協力相手と協力方式を選ぶ権利がある。インド側の決定と選択を、われわれは尊重する」と述べた。

しかし、その一方で中国政府としては不満でならない。

なぜなら習近平国家主席とモディ首相は、互いに相手国を訪問し、それぞれ自分の故郷を紹介するところまで緊密度を増していた。

5月19日付の本コラム<龍と象の「一帯一路」――中印蜜月、「紅い皇帝」のもう一つの狙い>にも書いたように、「紅い皇帝」習近平が自ら西安に赴き、訪中したインドのモディ首相を歓待したのは、昨年9月に習近平国家主席がインドを訪問したとき、モディ首相が自分の故郷であるグジャラートで習近平国家主席を歓待したお返しだ。

このとき習近平国家主席は、「社会主義的価値観」を嫌うインドを意識して、「文化」「伝統」に光を当て、「中印は同一の価値観」を持ち、古代文明発祥の地の王座を共有していると、モディ首相に印象づけようとした。

これらの相互訪問によって、インドの高速鉄道建設は「もう中国のものだ!」と中国は確信していたのである。

だからこのたび中国政府の外交部は「鉄道分野において中印両国の指導者は、重要な共通認識を達成している。双方は各分野で実務的協力を加速することで一致し、鉄道はその中の重要な内容だ。中印双方は密接な意思疎通を保持している」と、抗議にも似た不満を、9日の時点で表明していた。

しかし、12日に結果は出てしまった。

そこで中国政府の通信社である新華社のウェブサイト「新華網」(網:ウェブサイト)は、「日本がインドの高速鉄道プロジェクトを持っていってしまい、軍事協定に署名した」と激しい非難報道をしている。高速鉄道建設の名を借りて、本当は軍事同盟を結ぼうとしているのだ、という意味である。日本はすでに武器輸出を解禁しており、インドはUS-2(海上自衛隊が運用する救難飛行艇)を含め先進的な武器装備の輸入を目指していると、軍事方向に論点をそらしている。

その一方で中国のネット空間には、インドの「経済時報」(The Economic Times)が「日本の鉄道技術は中国の技術よりも100倍もいい」というネットユーザーのコメントを載せたという情報が溢れかえっている。

それはそうだろう。

中国が高速鉄道建設に正式に入った2004年(最初のスタートは1990年)、本来なら新幹線技術を導入するはずだったのに、2005年の反日運動により阻止されてしまった。改革開放の総指揮者であったトウ小平は、日本の新幹線に惚れ込んだからこそ、中国の高速鉄道建設を急がせたのだったが、その後継者の江沢民(元国家主席)が反日の精神を扇動し、結果、自国に不利な状況を招いてしまった。そこでやむなくフランスのアルストム、カナダのボンバルディア・トランスポーテーションおよび日本の川崎重工などの「寄せ集め技術」を導入することになったため、事故が続発。その陰には江沢民の後ろ盾によって鉄道部部長になった劉志軍の「独立王国」いや、「腐敗王国」がある。劉志軍は腐敗により、技術に注がれるはずのお金を「100人以上の女」や「300棟以上の住宅」や「無数のポケットの中」などに注いでしまったのだ。事故が多発した原因のは、こういう情況もある(詳細は『中国人が選んだワースト中国人番付  やはり紅い中国は腐敗で滅びる』の111頁~130頁)。(ちなみに死刑判決を受けた劉志軍だったが、本日12月14日午後、無期懲役に切り替わった。)

そんなわけだから、インドのネットユーザーのコメントは正しい。

インドの「経済時報」には「中国の鉄道は、パキスタンとでも協力してろ」というネットユーザーの声を掲載していると、中国大陸のネットにはある。

また中国大陸のネットユーザーの中には「二人の犬が夫婦で外遊しては、世界中に大金のばらまき競争をしている」というものや「ああ、良かったじゃないか、日本がゲットして。だって、僕らの年金が、それだけ減らされないということになるんだから、日本に払わせておけよ」というものもある。

あるいは「中国は負け惜しみばかり言ってないで、自国の技術を本当にレベルアップしてくれよ」とか「習大大(習おじさん)は、外国にばらまく金があるのなら、北京で呼吸ができるようにしてくれないかな」といった類の政府を皮肉る書き込みも散見され、まだ削除されていない。

◆日本にとっては分岐点――「龍と象の争い」が後押し

インドネシアの高速鉄道建設では中国に持っていかれ、機会を逃した日本だったが、今般の安倍首相の成果は評価に値する。

なぜなら中国の「一帯一路」計画において、もしインドまで中国に持っていかれたとすると、日本の今後の経済発展空間においても、また安全保障の面においても、日本には非常に不利になっただろうことが考えられるからだ。

インド側からすれば、たしかにモディ首相は習近平国家主席に満面の笑みを送り、熱烈歓迎し、また西安詣でまでしているが、しかしなんと言っても中印両国の国境線における領土紛争は絶えたことがない。表面化しないよう、また激化しないように互いに抑えてはいるものの、モディ首相の本音は、やはり「自由主義陣営」にいて、中国に呑まれないようにするということにあるだろう。

今般の日印首脳会談では、インドとアメリカが行っている海軍の共同訓練に、日本の海上自衛隊が恒常的に参加することを確認し合ったとのこと。それは明らかに中国の南シナ海における海洋進出を牽制するためと解釈できる。

インドはその意味で「チャイナ・マネー」を選ばず、自ら独立して歩む「自由の道」を選んだことになる。

インド人のIT分野における能力は非常に高い。

カリフォルニアのシリコンバレーの大半を占めているのはインド人と中国人だ。そのためICチップをもじって、Indian-Chineseを「IC」と称する。インドはまた、チャンドラセカール(1910年~1995年)という著名な天体物理学者を生んだこともある国だ。頭脳の優れた逸材が多い。

今後はインドから来日する人を増やすために、ビザの発給要件を緩和するそうだ。

つねに「歴史問題」で日本にカードを切ってくる中国からの留学生は、日中の政治の狭間で苦しんでいる。日本が好きだから日本に来ても、それがいつ「売国奴」よばわりされる方向に変わるか分からない。ひどくビクビクしながら日本留学を選んでいるのが現実だ。

それに比べるとインドには「反日」の環境がなく、歴史カードをいつまでも掲げてくる要素もない。

今後の経済発展のポテンシャルは中国より遥かに高く、いずれ中国を追い抜くだろう。

経済界にとっても学生を募集する教育界にとっても、今般の提携は朗報だ。

この競争に勝ったことは、日本にとって大きな分岐点になるにちがいない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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