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皮膚疾患治療の新たな選択肢?食物アレルギーに対するオマリズマブの可能性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

食物アレルギーは、多くの人々の生活に大きな影響を与えています。特にIgE(免疫グロブリンE)が関与する食物アレルギーは、アレルゲンに曝露後すぐに症状が現れ、時に重篤なアナフィラキシーショックを引き起こすことがあります。食物アレルギーを持つ人々は、原因食物を避けるために食事制限を強いられ、外食や買い物にも細心の注意が必要です。そのため、QOLの低下や心理的ストレスにつながることも少なくありません。

こうした中、食物アレルギーに対する新たな治療選択肢として注目されているのが、ヒト化抗IgEモノクローナル抗体のオマリズマブ(販売名:ゾレア)です。オマリズマブは、血中のIgEに結合することで、アレルギー反応を抑制する作用を持っています。すでにアレルギー性喘息、慢性蕁麻疹などの治療薬として使用されており、最近では米国食品医薬品局(FDA)が食物アレルギーに対する適応を承認したことで注目を集めています。

【オマリズマブによる食物アレルギー治療の可能性】

オマリズマブは、IgEを標的とすることから、特定のアレルゲンに限定されず、複数の食物アレルギーに効果が期待できます。実際、ピーナッツ、牛乳、鶏卵など様々な食物アレルギー患者を対象とした臨床試験において、オマリズマブ投与によりアレルゲン耐性が向上したとの報告があります。最近発表されたOUtMATCH試験(フェーズ3)の結果でも、オマリズマブ投与群でプラセボ群に比べ、アレルゲン負荷試験時の症状閾値が有意に上昇しました。

オマリズマブは単独投与でも効果が期待できますが、経口免疫療法との併用でさらなる相乗効果を示す可能性があります。食物アレルギーに対する経口免疫療法は、アレルゲンを段階的に摂取することで耐性を獲得する治療法ですが、副作用の懸念から普及が進んでいないのが現状です。そこで、オマリズマブを前投与することで、経口免疫療法の安全性を高め、脱感作を促進できるのではと期待されているのです。

【皮膚疾患合併例への影響と今後の展望】

食物アレルギーを持つ人の中には、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患を合併している場合があります。実際、食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の関連性については多くの研究がなされており、食物アレルギーのコントロールが皮膚症状の改善につながる可能性が示唆されています。オマリズマブはIgEを抑制することから、皮膚疾患合併例においても症状改善効果が期待できるかもしれません。

ただし、現時点ではオマリズマブの食物アレルギーに対する使用は限定的であり、長期的な有効性と安全性については十分なエビデンスが得られていません。また、高額な薬剤費も普及の障壁となる可能性があります。今後、大規模な臨床試験によるエビデンスの蓄積と、適応拡大に向けた取り組みが期待されます。

参考文献:

Zuberbier T, et al. GA2LEN ANACARE consensus statement: potential of omalizumab in food allergy management. Clin Transl Allergy. 2024;e70002.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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