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ゴルフ界を騒然とさせ、姿を消したミケルソンの今後は「彼次第」。期待されるPGAツアー会長の懐の深さ

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 PGAツアーが誇るフラッグシップ大会、「第5のメジャー」と呼ばれるプレーヤーズ選手権の開幕に先駆け、PGAツアーのジェイ・モナハン会長がTPCソーグラスで会見に臨んだ。

 米メディアからの質問は多岐に亘ったが、最も多かったのは、サウジアラビアのオイルマネーによる創設が噂されてきた新ツアーに関連し、数々の問題発言をしたことで謝罪声明を出し、休養を宣言して姿を消しているフィル・ミケルソンに対するモナハン会長の胸の内を問う質問だった。

「それは、彼次第だ」

 モナハン会長の一言は、瞬く間に米ゴルフ界に広がった。

【これまでの経緯】

 ミケルソンは昨年11月、米国のゴルフライターからインタビューを受けた際、新ツアーを創設すべく動いているサウジ側の人々を「恐ろしい人々」などと表した上で、モナハン会長率いるPGAツアーを愚弄する言葉を並べ立て、どちらに対しても侮蔑的な表現を向けた。その際、社会人として口にすべきではない英語も発していた。

 その内容が、今年2月にインタビューを行なったゴルフライターによって公表されると、その直後から、ミケルソンの数々の発言は猛スピードで拡散され、ゴルフ界全体が大騒ぎになった。

 翌週、ミケルソンは謝罪声明を出し、「しばらくツアーから離れたい」と一時休養を宣言。以後、PGAツアーにもチャンピオンズツアーにも、公の場には一切、姿を見せていない。

 関係者が首を傾げたのは、ミケルソンが出した謝罪声明の内容だ。ゴルフ界を騒がせ、他の選手たちや関係者、ファンを翻弄したことを謝罪していたのだが、モナハン会長やPGAツアーには一切、言及していなかった。

 そんな声明をPGAツアーが「謝罪」と受け取るとは到底思えず、だからこそ、今、モナハン会長はミケルソンに対して何を思っているのかに米メディアの質問が集中した。

【彼次第。あなた次第!?】

 モナハン会長は、休養を宣言してからのミケルソンとは、まだ会話をしていないとのこと。しかし、ミケルソンの心の準備が整ったら、モナハン会長はミケルソンと向き合い、話をする意思があることを示唆した。

「フィルはPGAツアーで45勝を挙げたプレーヤーだ。世界ゴルフ殿堂入りもしている。このプレーヤーズ選手権でも勝ち、大勢の人々に感銘をもたらし、このツアー、いや彼の主戦場であるこのツアーを成長させてくれた」

「そして、フィルは戦いの場から離れ、休養したい、考えたいと言った。その決意を尊重したい。あとは、彼次第だ。フィルから連絡をもらうことを楽しみにしている」

 そう語ったモナハン会長に、米メディアはさらに食い下がり、「『あなた次第』という面は、ないのですか?」と尋ねた。モナハン会長は数秒間、考え込んだ末に「ノー」と返答。

 「これまで私とフィルはたくさん話をしてきた。十分、話し合ってきた。だから、、、、」と言葉を飲み込み、あくまでもミケルソンの方からアクションを起こし、自分に連絡してくることを期待していることを窺わせた。

 PGAツアーは、選手に対する罰則や処分を公表しない。そんなツアーの姿勢を、かねてからミケルソンは「閉鎖的で、透明性がない」などと批判していたが、今はミケルソンがすでにPGAツアーから出場停止処分を受けているという噂もあり、それが本当だとしても、ミケルソンの言葉を借りれば「透明性のないPGAツアー」から、それが公表されることはない。

 ローリー・マキロイは「罰則や処分は発表すべきでは?ツアーは透明性を保つべきでは?」と語っていたが、そんなマキロイのコメントを米メディアから聞かされたモナハン会長は「イエス。それでは、間もなくローリーは出場停止処分になります」とジョークを口にした。

 そのジョークが心の底から笑えるジョークではないことは誰にもわかる。だが、新ツアー構想が現実味を帯びたり、選手たちの動向が新ツアー寄りに見えたりが続いていたここ数か月間、凍り付いたような表情だったモナハン会長の心に、今、なんとかジョークが言えるぐらいの余裕がようやく生まれつつあるのだとすれば、「彼次第」だけではなく、モナハン会長サイドからミケルソンに声をかける「あなた次第」のアクションを取ることはできないだろうか。

 今こそ、モナハン会長とPGAツアーの懐の深さを、見せてはくれないだろうか。PGAツアーのファンも、ミケルソンのファンも、きっと、そう願っている。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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