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シャーガーCに参戦した藤田菜七子、2度目の参加だから分かった事とは……

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
イギリスのシャーガーCに参戦した藤田菜七子騎手

レース前日に27歳の誕生日

 「勝ちたいです」
 現地時間8月7日夕方にイギリスのロンドン入りした藤田菜七子騎手。市内のレストランでの夕食の席で「飛行機ではダウンロードした動画を見て来ました」と、リラックスした表情で語った後、競馬の話になると冒頭の科白を口にした。

シャーガーCに参戦するためロンドン入りした藤田菜七子騎手
シャーガーCに参戦するためロンドン入りした藤田菜七子騎手


 10日、アスコット競馬場で行われた騎手招待競走であるシャーガーカップに招かれた彼女は、前日の9日、異国で27回目の誕生日を迎えた。
 その日、催されたジョッキークラブ主催のバーベキューの席で、出席者から誕生日を祝ってもらうと、笑顔が弾けた。

レース前日の8月9日、現地イギリスで誕生日を祝ってもらった藤田菜七子騎手
レース前日の8月9日、現地イギリスで誕生日を祝ってもらった藤田菜七子騎手

女性騎手が男性騎手を圧倒

 こうして迎えたシャーガーカップ当日。同企画は世界中から招待された12人の騎手がこの日の全6レース中5レースに騎乗。1着から順に15、10、7、5、3点と着順に応じたポイントが割り振られており、その合計点で、団体戦と個人戦の優勝を争う。いわばイギリス版のワールドオールスタージョッキーズで、団体は「英愛選抜」「欧州選抜」「世界選抜」「女性選抜」の4チーム。
 藤田菜七子は2019年以来2度目の出場。「何から何まで初めてで、緊張したまま何も出来ずに終わってしまいました」と語る前回は「女性選抜」での出場だったが、今回は初めて「世界選抜」が全員女性という事で、彼女もこちらでの選出となった。

「世界選抜」に選ばれた藤田菜七子騎手(右)と同チームの(左から)R・ヴェニカー騎手とR・キング騎手
「世界選抜」に選ばれた藤田菜七子騎手(右)と同チームの(左から)R・ヴェニカー騎手とR・キング騎手


 曇天で24度という過ごしやすい気候の中、全6レースの幕が切られると、最初のレースをチームメイトのR・ヴェニカーが優勝。続く第2Rで「女性選抜」のH・ターナーがS・へファナンとの叩き合いを制し、更に続く第3Rではこれまた藤田と同じ「世界選抜」のR・キングがJ・L・ボレゴを競り負かして優勝。女性騎手が男性騎手を叩きのめす形で3連勝した。

第1Rから第3Rまで女性騎手が3連勝。写真は3Rで男性のJ・L・ボレゴ騎手を競り落として勝利したR・キング騎手
第1Rから第3Rまで女性騎手が3連勝。写真は3Rで男性のJ・L・ボレゴ騎手を競り落として勝利したR・キング騎手


 第4Rは欧州で今、話題の若手騎手B・ロクナンが勝利して男性騎手が一矢を報いると、第5RでもB・ムルザバエフが勝利。この時点を終えて男性騎手からなる「英愛選抜」と「欧州選抜」が55点で1位タイ。残すは1レースで、連覇中の「女性選抜」に男性騎手が待ったをかけるかと思えた。
 ところが最終第6RはターナーとJ・メイソンの「女性選抜」がワンツーフィニッシュ。ターナーが3度目となるシルバーサドル賞(最多ポイント獲得騎手に贈られる賞)を受賞すると共に、終わってみれば大逆転で今年も「女性選抜」が優勝。これで前年に続く連覇達成となった「女性選抜」は最近6回のうち4回で優勝を飾った事になった。

2連覇を達成した「女性選抜」チーム。中央は唯一2勝して通算3度目の個人優勝を飾ったH・ターナー騎手
2連覇を達成した「女性選抜」チーム。中央は唯一2勝して通算3度目の個人優勝を飾ったH・ターナー騎手

悔しい結果も2度目の参加だから気付いた事

 一方で藤田菜七子は残念ながら念願のアスコット初勝利はお預けとなった。最初のレースでいきなり4着しポイントを稼いだものの、その後は最終レースの5着で加点したのみ。そもそもがお祭り的要素が強く、多くの騎手達が笑顔の中、負けず嫌いの彼女からは笑みが消え、言った。
 「チームメイトの皆が勝利する中、自分だけ結果を出せず、悔しいし、貢献出来なくて申し訳ないし……。自分の未熟さを痛感しました」

最終第6Rを終えた後、悔しそうな表情を見せる藤田菜七子騎手
最終第6Rを終えた後、悔しそうな表情を見せる藤田菜七子騎手


 それでも、2度目の参加という事で新たな発見がなかったかを問うと、次のような答えが返って来た。
 「前回みたいに緊張する事はなく、挑めました」
 経験によるアドバンテージは時間を経ない事には得られない。それが分かっただけでも、彼女はまた新たな財産を手に入れたと言えるだろう。
 また、A・ボールディングやD・シムコック、R・ハノンといった伯楽の馬に跨り、彼等とコンタクトを持てたのも今後、何かの機会に活きる可能性がある。とくにボールディングからは「負けたのは馬のせい。貴方の騎乗は非の打ち所がなかった」とお褒めの言葉をいただいた。これも、しかと胸に刻み込んで良いだろう。

A・ボールディング調教師(左)の馬にも騎乗した
A・ボールディング調教師(左)の馬にも騎乗した


 今回の結果から、かなりガッカリとする姿を見せた彼女だが、本人が思っているよりも、外から見る分には明らかに格好良かった。まだ27歳になったばかりなのに、競馬発祥の地であるイギリスで堂々と乗っていた。胸を張ってほしい。
 「今回の経験を日本で活かせるように頑張ります」
 最後にはそう言った藤田菜七子。また来るであろう3度目のアスコットでの競馬で、悔しさをバネにした彼女がどんな活躍を見せてくれるのか。今から楽しみにしたい。

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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