3つの太陽を持つ惑星、存在の可能性高まる。それは「三体星」のようになるのか?
地球から約1300光年離れた3連星、「オリオン座GW星」の周囲に惑星が存在する可能性がシミュレーションにより高まった。これまで2連星の太陽系外惑星は発見されているが、3連星ではまだ発見されておらず、史上初の「3つの太陽を持つ惑星」の観測での発見が期待される。世界的なベストセラーSF小説『三体』に登場する「三体星」を想像させるが、実際はどのような惑星になるのだろうか?
2021年9月17日、ネバダ大学ラスベガス校の研究者は、地球から1300光年以上離れた若い恒星系「オリオン座GW星(GW Ori)」を取り巻く塵やガスの3連リングの観測データを分析し、惑星の形成についてのシミュレーション結果を発表した。発表によれば、最も内側のリングと2番めのリングの間の空隙(ギャップ)は、木星に匹敵する質量の惑星が存在するために生じている可能性が高いという。これは、2020年9月に工学院大学の武藤恭之氏らの研究チームがアタカマ大型ミリ波/サブミリ波アレイ(ALMA)望遠鏡の観測により、GW Oriの周囲に3連の塵のリングを発見した際の「惑星存在の可能性」を補強するものとなる。論文はイギリスの『王立天文学会月報』に発表された。
「GW Ori: circumtriple rings and planets」
恒星の初期に一瞬だけ現れる「原始惑星系円盤」
2020年にALMA望遠鏡の観測で発見されたGW Oriを取り巻く塵の3連リングは、「原始惑星系円盤」と呼ばれる惑星を作る元になる物質だ。リングに含まれる塵の質量は、巨大惑星の種となるのに十分な量だという。発見に関わった武藤恭之さんに、3連リング発見と惑星の存在について聞いた。
――原始惑星系円盤とは? ALMA望遠鏡では、電波でどのように観測しているのでしょうか?
武藤さん:若い恒星の周囲は、星になりきれなかった物質であるガスや塵が回転する円盤が取り巻いていて、これを「原始惑星系円盤」と呼びます。塵の大きさは1ミクロン程度のほこりのようなもので、これが集まると惑星になるのです。恒星が形成されてから初期の、1千万年くらいで発生して消えてしまうものです。恒星の一生は私たちの太陽では100億年ほどですから、それに比べると“一瞬”といってもよいほどの現象です。
原始惑星系円盤に含まれる惑星形成の種になるような塵(固体)は、中心の恒星のエネルギーで温められて10ミクロンほどの波長の赤外線で“光って”います。原始惑星系円盤は太陽と地球の距離よりもさらに遠く広がっていて、非常に遠くて冷たいためマイナス200度近くなりますが、ALMA望遠鏡はこの赤外線を観測しているのです。オリオン座GW星はまだ1波長で観測している段階ですから細かい塵の成分まではわかっていませんが、おおよその分布がわかっています。
――観測によって、GW Oriを取り巻く3つのリングの形状と最も内側のリングが傾いていることがわかったわけですね。この傾きと、惑星の形成にはどのような関係があるのでしょうか?
武藤さん:3連のリングは中心の3連星の軌道面と比べて傾いていて、最も内側が最も大きく傾いています。そして内側のリングと真ん中のリングの間にはっきりした空隙があります。なぜこのような形状になるのかという点で、私たちの研究チームと別の研究チームとで解釈が分かれていました。
私たちは、3連星が周囲の原始惑星系円盤にどのような重力的影響を与えるかを調べるためにシミュレーションを行い、結果として「3連星の重力だけでは内側のリングの大きな傾きを再現することができない」と考えました。そして惑星が存在することで円盤にすき間が作られ、内側のリングと外側のリングが分かれたのではと考えました。
一方で、イギリスのエクセター大学の研究チームは、同様にリングの形成に関するシミュレーションを行い、「大きく傾いたリングが3連星の重力だけでも作られうる」と考えました。1年前は決着がついていなかったのですが、私たちと同じ説を持っていたネバダ大のチームは、数値シミュレーションを重ねて「やはり惑星がありそうだ」という結論にいたったわけです。
かれらは3連星の重力だけでリングの傾きとギャップが説明できるか、というシミュレーションもしているのですが、その場合は普通の原始惑星系円盤とは性質の異なる円盤を考えなくてはならないことがわかりました。具体的にいうと、円盤の厚みが大きく、また円盤を構成するガスが局所的に強くかき混ぜられ、いわば暴風が吹き荒れているような状態ならばありえます。ただ、GW Oriの原始惑星系円盤はそうした性質ではないと思います。
史上初、3連星の惑星発見なるか
――数値シミュレーションの結果、惑星存在説がより強く支持されるわけですね。今後、観測によってGW Oriの惑星の存在が裏付けられる可能性はあるのでしょうか? 今年12月には、米欧協同のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が打ち上げられます。こうした新たな観測装置で見つかる可能性はありますか?
武藤さん:今回の発表はシミュレーションの結果ですから、やはり観測で裏付けたいですね。ただし、今後1~2年では難しいと思います。ネバダ大学のシミュレーションでは木星と同じ程度の「1木星質量」を元に考えたのですが、これが絶妙に観測しにくい質量なのです。そもそも恒星という非常に明るい存在のそばで、暗い惑星を見つけなくてはならないわけで、私たちは「灯台の横を飛んでいるホタルを見つけるようなもの」といいます。中でも1木星質量は見つかるか見つからないかの境界線上にあるのですね。
発見には非常に大きな口径の望遠鏡が必要になります。JWSTでは口径が小さく、むしろ地上のすばる望遠鏡で――現状ではちょっと感度が足りないですが――原理的にはできるかもしれません。あるいは、口径30メートルの次世代大型望遠鏡「TMT」が完成すれば見つけられるかもしれません。数年以内には難しいですが、期待はあります。
――3連星の周りの惑星といえば、世界的なベストセラーとなった中国のSF小説『三体』に登場する「三体星」のようです。三体世界の恒星系は3つの星の質量が拮抗していて惑星の軌道が極端に乱れるため、文明が滅びる災厄が繰り返されています。GW Oriは3つの星の質量が異なるため同じ条件ではないですが、いったいどのような惑星になるのでしょうか?
武藤さん:私たちの研究チームにも中国出身の人がいて、三体世界のようだという感想をもったようですね。ただ、今回GW Oriにあると仮定した惑星は、中心の恒星から100天文単位(1天文単位は太陽-地球の距離)と非常に遠いところになります。太陽系で最も外側の惑星である海王星の軌道半径が30天文単位ですから、さらにその3倍くらい遠いのです。ですから、惑星に極端な熱環境の変動は起きないのではないでしょうか。昼間でも夜のように暗く、中心の恒星は、ざっくり計算すると地球から見た金星と水星の間くらいの大きさに見えると思います。ただ、惑星の軌道は中心の軌道面に対して上がったり下がったりするような変化はあるかもしれません。
史上初めて発見されるかもしれない、3つの“太陽”を持つオリオン座GW星の惑星は、寒冷で常に夜のように暗い、三体星とは異なる意味で極端な環境の惑星になりそうだ。原始惑星系円盤は恒星の一生の中では一瞬のはかない事象かもしれないが、人間にとっては長大な時間スケールだ。時間の余裕はまだあり、史上初の「3つの太陽を持つ惑星」の発見が期待される。