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伊藤詩織さんに軍配上がる 検察審査会に再審査を求められるか、検察の再捜査は?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 すでに検察は山口敬之氏の準強姦容疑を嫌疑不十分で不起訴にし、検察審査会もこれを相当としている。一方、民事裁判の一審判決は伊藤詩織さんに軍配を上げた。伊藤さんは再審査や再捜査を求めることができるか。

「一事不再理」のルール

 確かに、一審判決では伊藤さんの主張が認められており、山口氏が酩酊状態で意識のない伊藤さんの同意を得ずに性行為に及んだなどと認定されている。

 山口氏に慰謝料など330万円の支払いが命じられる一方、山口氏が伊藤さんに対して1億3000万円の支払いなどを求めていた反訴請求は棄却された。

 しかし、検察審査会法には次のような規定がある。

「検察官の公訴を提起しない処分の当否に関し検察審査会議の議決があつたときは、同一事件について更に審査の申立をすることはできない」

 「一事不再理」と呼ばれるルールだ。

 したがって、検察審査会が2017年に不起訴相当の議決を下している以上、伊藤さんが2016年の検察の不起訴処分について検察審査会に再審査を求めることはできない。

検察の「再起」は可能

 では、民事裁判の過程で新たな証拠や事実が判明したとしても、なお検察は捜査や起訴を行うことができないのか。

 実は、検察審査会の審査とは無関係に、不起訴処分後、検察はいつでも独自の判断で再捜査を始めることができることになっている。

 不起訴と聞くと、それで完全に終結し、二度と捜査が行われなくなると思うかもしれない。

 基本的にはそのとおりだが、検察には「再起」と呼ばれる制度がある。

 いったん不起訴にしたり、捜査を中断したものの、その後の事情の変化を踏まえ、再び起訴に向けた捜査に着手するというものだ。

 関係者から核心を揺るがすような証言が新たに出てきたとか、未発見だった重要な証拠物が発見されたといったような場合には、事情の変化があったということで、再捜査を行うことになる。

 その場合、伊藤さんの側から検察に対して資料を提出し、再捜査を促すことも可能だ。

まだ刑事手続は終わっていない

 2015年の事件であるうえ、準強姦罪の時効は10年だから、再起による再捜査や起訴の可能性は2025年まで続く。

 ただ、当事者の主張が激しく対立している事件であり、少なくとも民事裁判で最終的な結論が出るまでは、検察が動くことなど考えにくいのも確かだ。

 それでも、刑事手続はまだ完全には終わっていない。山口氏が伊藤さんを虚偽告訴罪や名誉毀損罪で告訴しているからだ。

 伊藤さんはセカンドレイプ的な対応に法的措置をとるという。山口氏を虚偽告訴罪で逆に告訴することも考えられる。

 検察はこの事実について再び捜査を行い、白黒をつけなければならない。民事裁判の最終的な結論を踏まえ、検察がいかなる認定をするのか、特に伊藤さんを不起訴にした場合、「嫌疑なし」を選択するのか否かが注目される。

控訴審へ

 いずれにせよ、山口氏は一審判決を不服として控訴するという。そうであれば、伊藤さんも控訴したらどうだろうか。

 伊藤さんが請求していた慰謝料などは1100万円であり、330万円の限度で認容された一審判決に対して伊藤さんが控訴しないと、たとえ高裁で再び伊藤さんの主張が認められても、330万円を上回る判決が下ることなどないというのが裁判のルールだ。

 もしこの事件が一審判決の事実認定どおりだったのであれば、山口氏側による法廷内外でのセカンドレイプ的な言動をも踏まえると、330万円という金額は低いように思われる。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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