交通事故による死者数を年齢別に見ていくと
全体では漸減する事故死者数
高齢化の進行と共に増加を示すと言われている、高齢者の交通事故による犠牲者の動向。その実情を警察庁が2017年2月に発表した公開資料「平成28年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」を基に確認していく。
まずは積み上げ式と個々の年齢階層の動きを折れ線グラフなどにした、年齢階層別事故死亡者の推移。これは「事故発生から24時間以内の死亡者」に限定している。
全体数は減少の傾向を見せている。一方、紫系統の階層に当たる高齢者(65歳以上)の部分が他の年齢階層と比べると縮み方が緩やか(=人数があまり減っていない)ように見える。これは高齢者人口そのものが増加しているのに加え、高齢者の対人口比交通事故死者数が高い値を示しているのが、この高齢者の減少率が緩やか、さらには増加している原因。
そこで今度はこれらの動向について、各年毎の交通事故死者数全体に占める割合でグラフにしたのが次の図。一つが棒グラフで、各年ごとに占める割合が分かりやすいように、もう一つは折れ線グラフで、各年齢層毎の割合の変化を見易くしたもの。後者のグラフでは全階層を掲載すると見難くなるため、高齢層と壮齢層に限定して表記している。
ここ数年の傾向として、死者「数」は(最初のグラフにある通り)各年齢層で減少しているが、高齢層では減り方がおだやか、時として増加の動きすら見せるため、全体に対する比率では逆に増えてしまっている。壮齢層では横ばい、60代も増加から減少に転じる動きを示しているが、70代以降、特に80歳以上では増加の一途をたどっている。
2016年における全死者のうち65歳以上の比率は54.8%。
これまでの公開データの中では最大値を更新してしまっている。
高齢者の交通事故による死者の中身は
それでは65歳以上の死亡事故者の状況は、どのような傾向を見せているのか。該当者の交通事故死亡状態別人数推移を調べた結果が次の折れ線グラフ。例えば「自転車運転中」なら、当事者(高齢者)が自転車を運転している際に事故に遭遇し、亡くなった事例である。
世間一般におけるイメージとしては「交通事故」なら、当事者が自動車、あるいは自転車運転中の状態が最上位のように思える。しかし実際には「歩行中」による事故を起因とするものがもっとも多い。次いで「自動車乗車中」、そして「自転車乗車中」が上位についている。
2016年の動きを見ると、原付乗車中や自転車乗用中、歩行中は減っているが、自動車乗車中、自動二輪車乗車中は増加している。詳細を見ると特に85歳以上の歩行中、65~69歳と75~79歳の自動車乗車中が大きく増加しているのが確認できる。65歳以上の高齢者の枠組みの中で、若い層は自動車で、高齢層では歩行中による事故の増加が起きている実情がつかみ取れる。
グラフ作成は略するものの、高齢者に限って死亡事故数が多い、そして全体における交通事故死者数の比率増加の要因の一つとされる「歩行中の死亡事故」「自転車乗車中の死亡事故」に関して高齢者(65歳以上)の法令違反別区分(該当年齢階層人口10万人あたり)を見ると、
●自転車乗車中死者
安全不確認……0.21人
ハンドル操作(安全運転義務)……0.15人
信号無視……0.10人
(他に違反なし……0.18人)
●歩行中死者
走行車両の直前後(横断違反)……0.45人
横断歩道以外(横断違反)……0.40人
信号無視……0.19人
(他に違反なし……1.28人)
が上位3位を占めている。高齢者以外の割合とも傾向は大きく異なり(例えば高齢者以外の歩行中による法令違反別区分の最上位は酩酊(酔っ払い状態)などによるものである)、「自分自身の身体能力への過信、思い違い」が死亡事故の引き金の主要因であることが分かる。
自動車などを運転している人なら、横断歩道が無い場所なのにもかかわらず、堂々と道を横断するお年寄りに遭遇し、冷や汗をかいた経験が、一度や二度ならずあるはず。彼ら・彼女らは、「かつて交通量が少なかった時代と同じように(「渡り切るまで車など来ない」)」「以前の若い頃の自分のように素早く」渡れると判断している、または「自動車が来ても人間が歩いているのだから、止まってくれるに違いない」などと判断を下し、横断している場合が多いと考えざるを得ない。あるいはそこまでの思慮すら無く、単に「面倒だから近道をしてしまえ」との思いだけで突っ切ろうとしている可能性もある。
しかし横断中の人間を視界にとらえたドライバーが瞬時にブレーキを踏み込んでも、自動車はすぐに停止できない。例えば時速60キロで走る自動車がブレーキを踏んだとしても、止まるまでには20メートルもの距離を有する(さらにそこに、対象物を視界におさめてからブレーキを踏むまでの判断時間による走行距離(空走距離)が加わる)。結果として上記グラフに「カウント」されるような事態におちいった場合、本人はもちろん家族も、そして半ば巻き添えとなった自動車運転手にも大きな不幸、負担が襲い掛かることになる。
高齢者の場合、「カウントされるような事故」の発生起因は上記のようにある程度特定されている。今後はこれらの対策への「これまで以上の」注力も必要となる。まずは徹底した啓蒙活動と、その成果が望める工夫、そして周囲の注意が求められよう。
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