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日本の半導体ICの世界市場シェアがついに6%になった

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

 日本の半導体IC市場のシェアが6%まで低下した、と米市場調査会社のIC Insightsが発表した(図1)。ここでのシェアの定義は、半導体を設計ないし製造して販売する企業の本社がある地域である。ルネサスや、キオクシア、ソニーが日本における上位3社である。また、Micron TechnologyやON Semiconductor、Texas Instrumentsなどは、日本に工場を持つが、米国籍の企業である。

図1 日本半導体ICメーカーのシェア6%が現実に 出典:IC Insights
図1 日本半導体ICメーカーのシェア6%が現実に 出典:IC Insights

 日本のシェアが6%まで低下したのは、テクノロジーのけん引役が総合電機ではなく、ITになったことに気が付いていなかったからだ。かつて日本で半導体を大量に消費していた総合電機は今や半導体を消費する企業ではない。半導体購入額のトップ10社が全て、パソコンやサーバーなどコンピュータメーカーと、スマートフォンメーカーになってしまっている。

 かつて日本の半導体をけん引した総合電機企業である、NECや日立製作所、東芝、三菱電機、富士通、沖電気工業、松下電子工業、ソニーなどには大きな特徴がある。NECと富士通、沖電気は全て日本電信電話公社(NTT)傘下のティア1企業、日立、東芝、三菱は電力会社に主力機器を納入するティア1企業、松下とソニーは民生家電企業、である。NTTや電力会社は公共事業を中心とするインフラ企業。松下とソニーはアナログ技術で一世を風靡した企業、である。

 しかも多くは大蔵省(現財務省)の護送船団方式に乗ってきた旧財閥系が多い。NECは住友系、日立は芙蓉グループ、東芝は三井系、三菱はそのまま三菱系、富士通は古河系など、銀行とも密接に関係していた。ITや半導体の経営スピードが全く違う業種であり、経営陣の多くは、公共事業の事業部門から輩出しており、ITや半導体のような経営スピードが要求される経験者は少数派であった。このため、多くの経営者はITも半導体も理解していなかった。それでも半導体を支配していた。民生系の松下とソニーはITの動きを捉えることができていなかった。これら全ての企業はITの大きな流れを捉えてこなかったために、ITの重要な要素である半導体ビジネスを理解できなかった。

 マクロ経済的な大きな流れ(メガトレンド)の一つは、やはりITの進展が続くことである。ITの3大要素の一つが半導体であり、他の2つはコンピュータと通信である。つまり、コンピュータと通信と半導体の三位一体がこれからも進展することが重要なのである。どれか一つでも抜けたらITは発展しない。最近のスマート化、つまりスマートシティ、スマートファクトリ、スマートビル、スマートホーム、スマートインフラなどは、これまで既存の仕組みをもっと賢く(smart)して、人間が介在しなくても自律的に改善する方向に持っていくとする技術である。少子高齢化や働き手の減少、少ない人数でこれまでよりももっと社会を良くしていこうとするためのテクノロジーがスマート化である。

 具体的にスマート化を実現しようとすると、IT3大要素の進展が欠かせない。実際、半導体はもはや産業のコメではない。半導体=社会の頭脳、である。半導体がないから日本の進展はこの30年間止まり、思考も停止するようになったのではないだろうか。何度も見せて恐縮だが、半導体市場は世界中で成長しているのに、日本だけが成長どころか、停止している(図2)。

図2 世界は半導体を使っているのに日本だけが使わないできた 出典:WSTSの発表した数字を筆者がグラフ化
図2 世界は半導体を使っているのに日本だけが使わないできた 出典:WSTSの発表した数字を筆者がグラフ化

 個人的なことで申し訳ないが、2010年に「半導体、この成長産業を手放すな」という本を出した(参考資料1)。全く売れなかった。誰も耳を貸してくれなかった。しかし、図2で示すように出版した2010年時点でさえ、すでに「世界が成長しているのに日本だけが成長していない」状態だった。もっと世界を見てほしい。

 かつて日本よりも保守的だった欧州でさえ、ITが未来の進展に重要な技術であることを認識するように変わった。ギルド制が定着して強かった欧州では、コンピュータは仕事を奪うマシンだ、という認識が長かったが、1990年くらいからコンピュータはむしろ仕事を増やしてくれる、という認識に変わったからだ。ベルギーではIMECという世界の半導体研究所が活躍し、英国ではArmという使用数世界一のCPU IP企業が進展を続けている。

 これに対して日本は未だに政府などは信じられないくらいIT化が遅れている。新型コロナの対処の仕方を見てファックスという前近代的なマシンを未だに保健所の主要な通信として使っていることに国民は衝撃を受けた。デジタル庁が創設されるが、ITはコンピュータだけではない、ことを本当に理解しているだろうか。通信と半導体がなければコンピュータは単なるローカルな機械にすぎないのである。全ての情報は世界同時に流れている。同時に捉えなければ、デジタル庁といえども日本だけ孤立した鎖国状態になる。コンピュータも通信も半導体がなければモノとして製造できない。このためサービスも提供できない。GoogleやAmazon、Facebook、Apple、Microsoftたちが自前で半導体を作っている現状を直視していただきたい。

参考資料

1.津田建二著「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、日刊工業新聞社刊、2010年4月

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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