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石原慎太郎氏が賞賛し英国民に愛された北朝鮮サッカー「奇蹟のイレブン」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
1966年W杯イングランド大会でイタリア代表を撃破した北朝鮮代表。

中国・武漢で開催されたサッカー東アジアカップで、北朝鮮代表女子は全勝で優勝した。

女子代表チームは10日、北朝鮮に帰国したが、わざわざ金正恩第1書記が空港で出迎えて称え、沿道では20万人の市民が選手らを出迎えるほどの異例の歓迎ぶりだった。

女子代表は、2013年の同大会に続く2連覇であり、さらに複雑な政治関係にある韓国、日本、中国の全てを撃破した優勝だけに、金正恩氏も選手たちの喜びもひとしおだっただろう。

一方、男子は1勝1分1敗けで3位。かつての北朝鮮代表を知るオールドファンからすれば、物足りない結果だ。少しでもサッカーを知っていれば、北朝鮮サッカーと聞いて真っ先に思い浮かぶのが、1966年W杯イングランド大会におけるベスト8という快挙だ。

全世界が驚愕した北朝鮮代表の快進撃を記録したドキュメンタリー映画「奇蹟のイレブン 1966年W杯 北朝鮮VSイタリア戦の真実」では、開催国の英国民が北朝鮮代表に魅了される様子が記録されている。

イレブンを乗せたバスは行く先々で英国の市民たちに歓迎され、4強をかけたポルトガル戦(5-3で敗北)には、予選リーグが行われたミドルズブラのファン3,000人が、北朝鮮を応援するためリバプールまで駆けつけた。

こんなエピソードもある。南米を訪れたある韓国人が、現地の老人から「南(韓国)か北(北朝鮮)か」と聞かれ「南」と答えるとガッカリされた。そして老人は、1966年の北朝鮮チームがいかに強かったかを熱く語り始めたという。

さらに、北朝鮮サッカーの快挙については、日本でも意外な人物が賞賛していた。その人物とは中国や北朝鮮に対する過激な強硬発言で知られている石原慎太郎氏だ。

石原氏でさえも賞賛した北朝鮮サッカーだが、その後、八百長や不正腐敗で衰退していく。また、北朝鮮という国家体制も変質、衰退し、完全にネガティブなイメージが定着してしまう。それでも、サッカーに限らず、スポーツ界の現場では選手とコーチらが血の滲む努力を続けている。

スポーツを徹底的にプロパガンダとして利用するお国柄ではあるが、北朝鮮サッカーには往年の輝きを取り戻し「古豪復活」を世界にアピールしてもらいたい。

なぜなら、彼らはサッカー王国の英国民に愛され、そして世界のサッカーファンに永遠に記憶される誇り高き「奇蹟のイレブン」のDNAを受け継いでいるからだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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