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金足農・吉田投手に対する所業は野球界全体のパワハラではないのか

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
U18アジア選手権でも連投を強いられた金足農の吉田輝星投手(写真:岡沢克郎/アフロ)

 U18アジア選手権に出場中のU18日本代表が7日、台湾代表に1-3で敗れ、優勝の可能性が消滅した。やはり日本はアジアの中では野球の主権国という思いもあるのだろう。スポーツ紙の中には早速敗因分析をするなど、悔しさを滲ませているものもある。

 だが、そもそも夏の甲子園大会を終えたばかりのこの時期に、国際大会に参加すること自体正常とは思えない。本来なら高校球児たちにある程度の休養を与えなければならない大切な時期であるはずだ。

 にもかかわらず7日の台湾代表戦で金足農の吉田輝星投手は、5日の韓国代表戦に続き連投を強いられている。精根尽き果て甲子園大会決勝の途中でマウンドを降りるしかなかった日から、まだ17日しか経過していないのだ。どんな屈強な肉体を持つ若者でも、相当な疲労が蓄積していて当然にもかかわらずだ。

 試合後永田裕治監督は「本来の調子ではなかった」と話しているようだが、2失点された後は好投していたとしても、それに気づいた段階で交代させるべきではなかったのか。この大会は甲子園大会ではない。全国の優秀な投手を結集した日本代表チームで臨んでいる。勝つことが義務づけられているのは分かるが、選手の疲労を考慮しながらバランス良く起用していくことも求められていたのではないか。

 これは吉田投手に限ったことではない。U18日本代表に参加している全選手にも一致していえることだ。つい先日、日本ハムの吉井理人投手コーチに高校野球について語ってもらった記事を公開した。そこでも吉井コーチが触れているように、アマチュア野球最大の目標かつイベントが甲子園大会であり、高校球児以前の野球少年の頃から「甲子園に出場したい」「甲子園で優勝したい」を目指して白球を追いかけている。果たして今回日本代表に選ばれた中で「甲子園大会で活躍し、日本代表に選ばれて国際大会に出場したい」と考えていた選手は存在するのだろうか。

 彼らは夏の甲子園大会のグランド上ですべてを出し尽くした。大会が終了した時点で、彼らの目標、モチベーションは完遂したといっていい。それが高野連とは別の組織(侍ジャパン)がやって来くると、上位進出し疲弊した選手が集められ、「君たちは日本代表に選ばれた。2週間後の大会で勝ちなさい」と通達されるのだ。しかも普段は使っていない木製バットを渡され、「いつものように打ちなさい」といわれるのだ。高校球児たちからすれば理不尽この上ないだろう。

 

 これまでも夏の甲子園大会が終了した後に高校日本代表が組織され、海外遠征を実施してきた。しかしそれはあくまで親善試合であり勝敗に固執する必要はなく、ある意味選ばれた選手にとってご褒美のようなものだった。だが現在は1年おきにU18アジア選手権、U-18ベースボールワールドカップへの出場を余儀なくされ、甲子園大会後も常に勝利を義務づけられるようになってしまった。これは高校球児に対するパワハラといっていいほどの強制ではないのか。

 せめて国際大会で勝つことを目標にしたいのなら、高野連、侍ジャパンが手を携えて現在高校球児が置かれている環境を真剣に検討すればいいはずだ。国際大会に臨む選手たちの体調を万全に整える日程を組み、米国のように普段から木製バットと同じ反発係数の金属バットの使用を義務づけるだけで、選手たちの負担は相当に軽減できるだろう。

 それぞれの組織が自分たちの管轄範囲内のことしか思考しない現在の野球界はそれぞれの思惑で高校球児たちを酷使するのみで、彼らの将来を真剣に考えているとはとても思えない。もう長年議論されているのは理解しているが、本当にこのままでいいのだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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