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イスラエルのヤド・バシェム、ホロコースト時代の写真展開催:48万枚の貴重な写真をデジタル化し後世へ

佐藤仁学術研究員・著述家
(ヤド・バシェム提供)

第2次世界大戦時にナチスドイツによって約600万人のユダヤ人が殺害された、いわゆるホロコースト。イスラエルにはホロコースト犠牲者を追悼したヤド・バシェムという博物館がある。

ヤド・バシェムでは2024年8月までホロコースト時代の貴重な写真をデジタル化して展示しているイベント「Flashes of Memory: Photography during the Holocaust」を開催しており、イスラエルに訪問する機会があればヤド・バシェムに訪問してくださいと呼びかけている。

ヤド・バシェムには約480万人のホロコースト犠牲者のデータベースがあり、それらは世界中からネット経由で閲覧することもできる。約600万人のユダヤ人が殺害されたが、残りの120万人は名前が判明していない。第2次世界大戦が終結して約80年が経過し、ホロコースト生存者の高齢化が進んできた。生存者が心身ともに健康なうちにホロコースト時代の経験や記憶を証言として動画で録画してネットで世界中から視聴してもらう「記憶のデジタル化」が進められている。

▼「Flashes of Memory」の紹介動画

進む「記憶のデジタル化」写真やフィルム 約48万枚もデジタル化され世界中から閲覧

ヤド・バシェムでは、ホロコースト当時の写真のデジタル化とオンラインでの展示も進めている。現在のようにスマホで誰もが簡単に撮影できる時代ではなかった。カメラも貴重なものだった。1枚1枚の写真に全てのユダヤ人の思い出が詰まっている。さらにヤド・バシェムではホロコースト犠牲者の身元確認とデータベース構築も進められているが、ナチスドイツによって完全に消失したユダヤ人集落などもあり、全ての犠牲者の名前や写真を収集してデータベースに格納することは難航している。また写真だけは辛うじて残っているが、それが誰の写真なのか全くわからないものも多い。

現在、イスラエルのヤド・バシェムで開催されている写真展だが、ヤド・バシェムではオンラインでもデジタル化されたホロコースト時代の写真を展示しており、世界中のどこからでも閲覧することができる。80年以上前の当時は現在のようにスマホで誰もが簡単に写真を撮影してすぐにネットにアップして誰にでも共有するようなことはできなかった。カメラを持っているのはほとんどがプロの写真家で、個人でカメラを所有している人もほとんどいなかった。撮影されるのも結婚式など家族が集まった時や記念日、学校での集合写真などがほとんどで、日常の風景などを撮影した写真はほとんど残っていない。特に戦前のユダヤ人らの写真はほとんどがナチスドイツによって焼却されてしまったので残っているのは非常に少ない。強制収容所に移送されたユダヤ人の多くが思い出として家族や友人らとの幸せな時代の写真を強制収容所まで持って行ったが、ナチスにとっては一番不要なものなので、多くが焼却されてしまった。

それでもヤド・バシェムには約48万枚の写真やフィルムなどがあり、デジタル化されて世界中から閲覧できる。あまりにも量が多いので、時期や色彩、男女、場所、シーン別などでソートして検索することができる。欧米やイスラエルの学校のホロコースト教育でも多く活用されている。

戦後約80年が経過しホロコースト生存者らの高齢化も進み、多くの人が他界してしまった。当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。現在、世界中の多くのホロコースト博物館、大学、ユダヤ機関がホロコースト生存者らの証言をデジタル化して後世に伝えようとしている。ホロコーストの当時の記憶と経験を自ら証言できる生存者らがいなくなると、「ホロコーストはなかった」という"ホロコースト否定論"が世界中に蔓延することによって「ホロコーストはなかった」という虚構がいつの間にか事実になってしまいかねない。いわゆる歴史修正主義だ。そのようなことをヤド・バシェム、ホロコースト博物館やユダヤ機関は懸念して、ホロコースト生存者が元気なうちに1つでも多くの経験や記憶を語ってもらいデジタル化している。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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