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北朝鮮「40代女性」の自宅に隠されていた重大犯罪の痕跡

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(平壌写真共同取材団)

 中国と国境を接する北朝鮮の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)で、トンジュ(金主、新興富裕層)が次々に逮捕される事態となっている。その背景にあるのは、北朝鮮では重罪とされるものの密輸だ。

 現地のデイリーNK内部情報筋によると、先月中旬、恵山で40代女性が両江道保衛局(秘密警察)に逮捕された。韓国や中国に住む脱北者が、北朝鮮に残してきた家族に送金した現金を手渡すブローカー業を営んでいた容疑だ。

 家宅捜索で、自宅からは巨額の外貨と中国キャリアの携帯電話が発見され、保衛局はカネの出どころについて厳しく追及した。激しい拷問を受けたことは想像に難くない。

 その結果、コロナで恵山がロックダウン状態に置かれていた5月、他の3人と共に、大鳳(テボン)と厚倉(フチャン)の2ヶ所の鉱山で採掘された金(ゴールド)を大量に買い込み、複数回にわたって中国に密輸していたと自白した。

 北朝鮮で金は密輸はもちろんのこと、個人の所有も禁じられており、発覚した場合には公開処刑を免れないほどの重罪だ。

(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた

 両江道保衛局は、供述をもとに捜査を進めた結果、3人のうち2人を逮捕した。もう1人について情報筋は、恵山市保衛部の高位幹部の庇護を受けている可能性が高いと述べた。つまり、内部からのリークがなければ、追手を逃れることは難しかったということだ。

 実際、両江道保衛局は、事件に関わった可能性があるとして、保衛部と国境警備隊、防疫機関に対する捜査を進めている。市や郡の境界線上に設置されている保衛部の10号哨所(検問所)の係官、恵山市保衛部の運転手が、金の運搬に加担し、国境警備隊の軍官)(将校)が、金の中国への持ち出しに加担したと見ている。

 一連の捜査は秘密裏に行われているが、もし事案が中央に報告されれば、地元の様々な機関を巻き込んだ一大事件に発展する可能性が高い。

 保衛局は、逃亡した1人を逮捕するために血眼になっており、国境に接する金正淑(キムジョンスク)、普天(ポチョン)、大紅湍(テホンダン)の各郡の保衛部と安全部(警察署)に対して、手配令を下し、民家に潜んでいる可能性があるとして、家宅捜索を繰り返しているとのことだ。ただ、逃亡してからある程度期間が経っていることや、前例を考えると、すでに脱北した可能性も考えられる。

 情報筋は、「国が食糧配給をしてくれないので食べていくためにしたことなのに、どうやって生きれば良いのか」と嘆いた。

 ただ、金の密輸は極めてリスキーながらも、北朝鮮で最も儲かる商売の一つ。食うや食わずの人が手を出すようなものではない。多くの人が関わっているのを見ても、成功時の儲けは決して少なくないはずだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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