時代を越えて共鳴する想い。「花守り」という役職が守ろうとしたものとは
突然ですが、「花守り(花守)」という言葉をご存知でしょうか。
現代では滅多に使われる言葉ではありませんが、古代の日本では「花守り」が重要な役割を担っていました。
今回は、この「花守り」を理念に掲げ、関東を中心に全国11店舗の「cafe Hanamori」を展開する株式会社sommet farmの 代表・大塚龍之介氏にインタビューを敢行。「花守り」について話を聞きました。
花守りとは
「花守り」という言葉が使われるようになったのは、14世紀初頭の鎌倉時代です。
言葉の通り「花を守る役職」のことを指していますが、不特定の花を守るのではではなく、平安期より鑑賞意識が高まった「桜の花」が護衛の対象でした。
桜の花は、鮮やかで美しい花びらを咲かせるのが特徴です。
しかし、花の蜜や花粉を求めてやってくるメジロなどの野鳥や害虫に荒らされてしまうため、花びらを美しく保つことは簡単ではありません。
そのため、最初は「護花鈴(ごかれい)」と呼ばれる鈴をつけて対策していたようですが、いつしか「花守り」という役職を設けて「人の手で警戒・監視」するよう変化しています。
花守り誕生のキッカケ
古代の日本では、春を祝い無病息災を願う厄払い「3月3日の桃の節句」が大切な文化として捉えられていました。
奈良時代までは桃の節句の際に桃や梅の花が飾られていましたが、いずれも中国から持ち込まれた観賞用の植物であり、日本には自生しない外来種であったため貴重だったといいます。
しかし平安時代になると、日本各地に自生する身近な桜の花を愛でようという意識が高まりました。
そして、儀式や行事の際には桜が用いられるようになり、鎌倉時代には万葉集に桜の歌が詠われるなど国を代表する花となったのです。
桜の花は非常に大切に育てられるようになり、桜の花を守る「花守り」が誕生しました。
「花守り」をコンセプトに掲げる「cafe Hanamori」
残念ながら、現代に「花守り」という役職は存在しません。
しかし現代には、「花守り」をコンセプトに掲げ、全国に展開を続けている「cafe Hanamori」があります。
なぜ、「花守り」をコンセプトに掲げるのか尋ねてみました。
インタビュー
-なぜ、花守りをコンセプトに掲げたのですか。
大塚氏:僕は花見が好きで、桜の木の下でみんなでワイワイしたり、お酒を飲んだり。そんな素敵なワンシーンとともに四季を感じられるカフェとして提供したかったからです。
-それで、店名も「cafe Hanamori」に?
大塚氏:はい。cafe Hanamoriはフランチャイズということもあり、町の笑顔を守る人(各店舗を展開するオーナーの方々)を輩出するという飲食の原点を忘れないよう戒めの意味も込め、名付けました。
-なるほど。コンセプトをそのまま店名にされたのですね。ステキです。ただ、この「花守り」という言葉、現代ではなかなか見聞きしないと思います。この言葉を知ったキッカケなどはありますか?
大塚氏:実は、亡くなった祖父とお花見に行った際に、花守りについて教えてもらいました。幼いころのことなのでハッキリした記憶はないのですが、カフェを経営するとなったときにスポーン!と頭に入ってきたのがHanamoriという名前でした。もうこれにしようってなりましたね。
-突然蘇った幼い頃の記憶が、コンセプトともマッチしていたとは!ステキなエピソードですね。
そういえば先日、徳島県でオープンしたcafe Hanamori 阿南店の内装を見せていただいたのですが、ライトに装飾された花がとても綺麗でした。やはり、これは花守りをイメージした装飾なのでしょうか。
大塚氏:はい、そうです。たとえば、埼玉県にあるcafe Hanamori 越谷店には、桜の木を1本植えています。各店舗によって異なりますが、シンボルツリーとして木を設置したり、阿南店のように桜をモチーフにしたシンボルフラワーを装飾したり。このようにこだわりのある演出をして、花守りのイメージを表現しています。
-装飾で店のコンセプトを表現するアイデア、とても素晴らしいですね。ところで、cafe Hanamoriを展開する前からかかわっている農業やエネルギー事業も、町の笑顔を守るという大きな枠組みの一環なのだとか?
大塚氏:はい。農業の六次産業化というものを目指しています。
※農業の六次産業化とは、農作物の生産から加工・販売・サービス業への展開までを統合し、地域の資源を活用して新たな付加価値を生み出す取り組みのことです。メリットとして、会社の経営体質を強固するだけでなく、地元との連携強化もにも繋がる経営手法だとされています。
-農業の六次産業化を目指すことが、どうして町の笑顔を守ることにつながるのですか?
大塚氏:私は、農家の家系で産まれ育ちました。そのため、農家は毎日フルで働かなければならない厳しい環境下にあることを知っています。農業は、儲からない。大変だというイメージを持っている方も非常に多いです。そのような状況やイメージを改善することが、町の笑顔を守る第一歩にもつながると思い、農業の六次産業化に乗り出しました。
-それは、農家で育てた野菜や果物をカフェで提供するということですか?
大塚氏:将来的には、自分たちの手で生産・加工・販売までを完結させたいと思って活動しています。ただ、そこまでの道のりはまだまだ遠いのが現実です。そして弊社や私を通じ、農業が本当は稼げること、楽しい仕事だということを発信していきたいと考えています。
共鳴する想い
鎌倉時代には、桜の花を守る重要な役割を担っていた「花守り」。
現代には存在しない役職ですが、「桜の木を守った花守りたちのように、そこに集う人々の笑顔を守りたい」という想いを掲げてカフェを展開する株式会社sommet farmの 代表・大塚氏に話を聞きました。
「花守り」と「cafe Hanamori」が守りたいと想う先には、人々のやすらぎや笑顔あふれる場所づくりが原点となっていることに気づかされた今回のインタビュー。時代を越えて共鳴する想い、なんだか感慨深いですね。
株式会社sommet farm 公式サイト:https://sommetfarm-inc.com/
cafe Hanamori 公式サイト:https://www.cafe-hanamori.jp/concept.html
取材店舗【cafe Hanamori 阿南店 】:徳島県阿南市領家町天神前432-1