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トランプ、突然「問題は中国にはない」――中国では「どうしたの?」

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
米、FOMC定例会合 パウエルFRB議長が会見(写真:ロイター/アフロ)

8月7日、トランプ大統領は「米国経済の問題は中国にはなくFRBにある」とツイートし、FRBに更なる利下げを要求した。中国では「どうしたの?」と衝撃が走る。突然の中国への為替操作国認定の原因が判明した。

◆トランプ大統領が「問題は中国にはない」とツイート

 8月8日の真夜中から、中国のネットには「どうしたの?トランプ」という見出しの報道が溢れた。

 特に中国共産党の内部消息を伝える「参考消息」が「何が起きたのか?トランプが突然、『我々の問題は中国にはない』と言っている」という見出しの報道をしているので、何ごとかと思って見てみたところ、とんでもないことが起きていた。

 トランプ大統領が現地時間の7日(日本時間では8日)に「アメリカの経済発展の問題はアメリカ中央銀行の機能であるFRBにあるのであって、決して中国にあるのではない」とツイートしたという(FRB:Federal Reserve Board。連邦準備制度理事会)。

 参考消息はさらに、8日のロシア衛星通信社のウェブサイトに載っている情報に基づいて、以下のように報道している。

 ●トランプは「FRB金利政策を加速し、そのばかげた量的引き締め政策を停止する努力を強化すべきだ」と述べた。

 ●ロイター通信によると、トランプは7日、「FRBが米国を、他国との競争で競争力のあるものにするために、より速く金利を引き下げなければならない」と述べた。

 ●トランプは数ヶ月前からFRB議長とFRBの政策立案者に米国経済を支援するために金利を引き下げるよう求めてきた。

 ●最近、トランプは突然、中国の輸入品に新しい関税を課したが、それがFRBに別の問題をもたらした。そのためFRBはさらに金利を引き下げるところに追い込まれている。

 こういったトランプ大統領のFRBに対する口先介入を受けて、8月5日、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)がOPINION欄で“America Needs an Independent Fed” (アメリカは独立した連邦準備制度を必要としている)という主張を掲載していることを知った。FED(フェッド)とはFederal Reserve System(フェデラル・リザーブ・システム)の略で、「連邦準備制度」のことを指し、FRBはその意思決定機関である。

 アメリカのジャーナリズムは凄い。政権与党やその国のトップリーダーへの忖度をせずに、堂々と真実を書いていく。これはつまり、「大統領が個人の思惑でアメリカの金融を操作している」ことを、堂々と指摘し批判しているのだ。

◆そのとき何が起きていたのか?

 それにしても、ここまで書くからには何かある。

 どうもおかしいと思い、さらに追跡してみると、ようやく謎を解いてくれるカギを探し当てた。

 すでに公表されている事実ではあるが、実はFRBは7月31日に、フェデラル・ファンド金利の誘導目標を0.25%引き下げ、年2~2.25%にすると発表していたのだ。

 これに対してトランプ大統領は「下げ幅が小さい」と不満を露わにし、FRBのパウエル議長に関して「いつも通り、パウエルはわれわれを失望させた」とツイートしている。

 一方、8月8日付のブルームバーグの記事「トランプ氏の貿易戦争、不覚にもドル高要因に-安全逃避で米債急騰」をご覧いただきたい。そこには明確に「トランプ大統領は繰り返し米金融当局に利下げを要求し、その一方でドルは強過ぎるとの不満を表明してきた。ただし米当局が追加利下げに踏み切った場合、実際には景気が押し上げられドルを支える可能性がある。こうなった場合トランプ大統領のいらだちが募るだけかもしれない。オプショントレーダーの間では対ドルでの人民元安を予想する見方が強まっている」と書いてある。

 つまり、「弱いドルを望むのであれば人民元とユーロの上昇を望むべき」だが、実際はその逆の方向に動いて「人民元安」を招いた。

 そこで苛立ったトランプ大統領が、中国を「為替操作国」と認定したものと解釈することができる。

 そうでなければ、いくら何でも不自然だろう。

 6月29日にはG20大阪サミットで習近平国家主席と会談し、驚くべき譲歩を見せ、7月31日にはその合意に沿って上海での米中貿易協議を終え、ホワイトハウスは「非常に建設的だった」という表明をしたばかりだ。それと同時にトランプ大統領が協議に対する不満を述べて、突然第4弾の対中関税制裁を表明しただけでなく、5日には人民元安を見て中国を「為替操作国」と認定した。

 その陰には、7月31日のFRBの動きと、ブルームバーグが解説した流れがあったのだということが分かると、初めてトランプ大統領の「連続する唐突さ」の原因が読める。

 アメリカの「真実を追う」ジャーナリスト根性に敬意を表したい。

(なお本稿は中国問題グローバル研究所のウェブサイトからの転載である。)

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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