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飲酒運転による悲惨な交通死亡事故、なぜ「危険運転」で起訴できないのか  #専門家のまとめ

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
一瞬で他者の人生を破壊する危険で悪質な飲酒運転。これが「過失」で裁かれてよいのか(写真:イメージマート)

 2024年5月、群馬県で発生した飲酒トラックの対向車線突破による3名死亡事故。警察は罪の重い「危険運転致死傷罪」で送検したにもかかわらず、検察が「過失運転致死傷罪」で起訴したことに対して、怒りや疑問の声が高まっている。

 飲酒運転は道交法で禁じられているのに、なぜ「危険運転」での起訴のハードルが高いのか。飲酒が運転に及ぼす影響、過去の事故処理の実態等を振り返りながら、法改正に向けての現在の動きをまとめた。

ココがポイント

警察は(中略)危険運転致死傷の疑いで逮捕・送検しましたが、前橋地検は「現時点では過失運転致死傷罪で起訴した。捜査を継続する」
出典/TBS NEWS DIG 2024/9/10(火)

飲酒時には、安全運転に必要な情報処理能力、注意力、判断力などが低下し(中略)交通事故に結びつく危険性を高めます。
出典/警察庁Webサイト

被害者や遺族が、「危険運転致死傷罪」という法の壁、つまり司法との闘いを強いられている。
出典/Yahoo!ニュースエキスパート・柳原三佳 2023/1/16(月)

アルコールの影響には個人差があることから(中略)現行の要件を残しつつ基準値を加えるといった方法が検討される見通しだ。 
出典/時事通信 2024/5/4(土)

エキスパートの補足・見解

 たとえ少量であっても酒は脳の働きを麻痺させる。警察庁の統計によると、飲酒運転による交通事故は死亡事故につながる率が約6倍も高いことが分かっている。道路交通法では飲酒運転を固く禁じており、運転者本人だけでなく、酒を提供した者、同乗者、車を貸した者も厳しく罰せられる。

 ところが、刑事裁判における「危険運転致死傷罪」の適用条件は非常に厳しく、飲酒運転が明らかであっても、本件のように同罪で起訴されないケースが多発している。飲酒事故の被害に遭った被害者や遺族の怒りはもちろんのこと、こうした司法の判断が続けば、法を守っている人々からも疑問や不満の声が上がるのは当然だろう。

 飲酒事故被害者遺族の声を受け2001年に施行された「危険運転致死傷罪」。条文にある『アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為』とは、具体的にどのような「行為」を指すのか。

 法務省は現在「危険運転致死傷罪の要件見直しについて議論する有識者検討会」を開いている。市民感覚に沿った結論が導かれることを期待したい。

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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