コロナ危機で日本のデジタル教育後進国ぶりが浮き彫りに 君が代、日の丸も大事だが、教員のIT能力開発を
学校の勉強のためコンピューターにアクセスできる中学生は6割
[ロンドン発]経済協力開発機構(OECD)の「図表でみる教育2020年版」が8日発表されました。新型コロナウイルスでオンライン学習が導入される中、FAXやDVDレンタルがまだ生き残るデジタル後進国ニッポンの実態が改めて浮き彫りになっています。
日本の教育機関向け支出の対国内総生産(GDP)比は、OECD加盟国の中で最も低いことも分かりました。
日本の中学校で授業やプロジェクトのために生徒にICT(情報通信技術)を「頻繁」に、もしくは「いつも」利用させている教員の割合は20%以下。一方、デンマークは90%超です。
OECD平均では90%以上の生徒が学校の勉強のためにコンピューターにアクセスできるのに日本では約60%にとどまっています。
自らのスキル向上のためにオンラインコースやセミナーを活用している教員の割合(下のグラフで黄色の丸印)は約10%でした。
「デジタル教育は将来にも役立つ」
日本社会ではFAXが依然として使われ、DVDレンタル店が残り、動画配信サービスのネットフリックス(Netflix)があまり浸透していないのに驚かされます。これが日本文化なのでしょうか。OECD教育・スキル局上級アナリスト、マリーヘレン・ドュメ氏は筆者の質問にこう答えました。
「デジタル教育の遅れを改善するための最も重要な要素の一つは、教員の訓練に投資をすることです。他国に比べて日本はこの部分が低くなっています。職業的な能力開発、つまりアダルトラーニング(成人教育)に継続して投資をすることが大切です」
「他国の方が日本より教員の職業能力育成にかける時間が多くなっています。特にオンラインコースやセミナーへの参加率が高くなっています。これは教員がテクノロジーを扱うスキルを身につける上で重要となります」
「今回のパンデミックで教育システムが非常に脆弱であるということが分かりました。この状況が長く続くことになれば、より遠隔学習が増えることになります。生徒や教員にとってもデジタルスキルは死活的に重要になってきます」
「もし教員がデジタルできちんと教えることができなければ生徒たちは学ぶことができません。より長期的な話になりますが、教育のアウトカムに影響が出てきます。デジタルスキルを開発していくというのはパンデミックがあろうとなかろうと重要だと考えています」
「これは教員にとっても生徒にとっても重要です。デジタル能力を身につけるということ、デジタルデバイスを使えるようになり、例えば宿題もデジタルでできるようになるというのは学校の勉強だけではなく将来にとっても役立つことになるでしょう」
510兆円もバラまいたのに教育への公的支出は減少
「戦後レジームからの脱却」を掲げて再登板し、歴代最長政権の記録を達成したとたん、持病の悪化を理由に突然、辞任を表明した安倍晋三首相。教育現場での国旗「日の丸」掲揚や国歌「君が代」の斉唱に力を入れ、教育勅語の復活もささやかれました。
日銀の異次元緩和で510兆円ものお金をバラまいて、次世代を担うグローバルなデジタル教育を実現できたのでしょうか。2012年から17年にかけ日本のGDPは6%伸びたのに対GDP比で見た教育への公的支出は3%も減っています。
政府支出における教育への公的支出の割合は5%も減少しました。
日本では教員の給与(下のグラフでオレンジ色の折れ線グラフ)は2005年以降、8%も減少しています。一方、OECDの給与(他の3つの折れ線グラフ)は上昇しています。
中学校の教員の法定勤務時間はOECDとG20の加盟国平均より11%長いものの、授業に当てられる時間の割合は低くなっています。一方、中学校や小学校の学級のサイズも他の国に比べると大きくなっています。
これは有権者の人口構成が高齢化し、若者や子育て世代の声が十分に政治に反映されない“シルバー民主主義”の深刻な弊害と言えるでしょう。日本の教育は後回しにされてしまっているのが現状です。
【「図表でみる教育2020年版」のポイント】
・2017年の日本の初等教育から高等教育までの教育機関に対する支出は対GDP比4%だったが、これはOECD平均を0.9ポイント下回っている。
・2005年から2019年にかけて、日本では、初等および中等教育課程の教員の法定給与は8%減少した。OECD諸国平均は5~7%増加している。
・日本の学校の一クラスの生徒数は、ほとんどのOECD加盟国に比べて多い。前期中等教育においては、OECD諸国平均が23人であるのに対して、日本は32人である。
・日本では就学前教育を受けている幼児の76%が私立の教育機関に在籍している。OECD諸国平均では、この割合は3人に1人である。2019年10月から日本では全ての3~5歳時が幼児教育・保育を無償で受けられることが法律で認められている。
・2017年の日本における就学前教育に対する公財政支出は、子供一人当たり年7609米ドル(約81万円)でOECD諸国平均の9079米ドル(約97万円)を下回っている。
・日本の初等教育から高等教育までの教育機関向け支出の対GDP比は、OECD加盟国の中で最も低い。2017年の日本の同支出の対GDP比は4%で、OECD平均を0.9ポイント下回っている。
・日本の国公立大学の学士課程の授業料は、データが入手可能な国々の中で最も高い。日本人学生の卒業時の平均負債額は、2万7489米ドル(約292万円)である。
・2005年から2019年にかけて、OECD諸国では、初等教育または前期・後期中等教育課程の平均的な資格を持つ勤続15年の教員の法定給与は平均5~7%増加した。しかし日本では8%減少した。
・日本では前期中等教育(中学校)の教員は、法定勤務時間のうち35%を実際の授業に費やしている。OECD諸国平均は44%である。
・日本の初等教育の公立学校では、一クラスの児童数は平均27人で、OECD平均の21人を上回っている。前期中等教育の学校では一クラスの生徒数は、OECD平均が23人であるのに対して、日本は32人である。
(おわり)