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カワサキが一番乗り!? ABS装着車から「ABS」表記が消える日

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
大型モデルを中心に二輪車にもABSが標準化され始めている

カワサキは、2018年モデルより、ABS装着車におけるモデル名称から「ABS」を除いた表記に変更することを発表した。

例えば、2017年モデルでは「Ninja 1000 ABS」と表記されていたが、2018年モデルからは「Ninja 1000」と表記される形となる。

2018年からABS義務化へ 国際法規と合わせる形に

今回の件は、国土交通省が2015年の1月に発表したバイクのABS義務化に端を発する。

具体的には、126cc以上のバイクには「アンチロックブレーキシステム(ABS)」、50cc以上125cc以下のいわゆる原付二種には「ABS」か「コンバインドブレーキシステム(CBS)」といった先進制動システムの装備を義務づけるというもの。

また、2016年から欧州でABSが義務化されたことなど、国際法規との歩調を合わせる動きが大きな背景となっている。

ABSおよびCBS装備義務の施行時期は、新型車においては2018年10月1日以降、継続生産車においては2021年10月1日以降。

なお、ABS装着/非装着モデルを平行して販売する期間の表記については、モデル説明等にABSの装着/非装着を記載する事で対応するとしている。

今後はカワサキだけでなくその他のメーカーも製品名表示をどうしていくのか、注目が集まるところだ。

電子制御により、ABSの性能も大きく進化

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あらためて「ABS」とは何かを補足しておこう。

ABSとはブレーキロックを防止する装置のことだ。二輪車ではブレーキロックが転倒につながる危険性が高く、特にパニック時や雨天時など滑りやすい路面で発生しやすいため、安全に減速させるための装置だ。

各種センサーがブレーキロックを感知すると、ABSユニットがキャリパー内の液圧を下げてロックを解除する動作を、自動的に連続して行う仕組みになっている。ライダーに対しては、ABSの作動はブレーキレバーの振動などの「キックバック」によって伝えられる。

現在は前後ブレーキを独立して制御する「2チャンネルABS」が主流になっていて、高性能スポーツモデルなどではより自然な感覚で強力なブレーキをかけられる「レースABS」や、車体を深くバンクさせた状態でもABSを安全に作動させて減速可能な「コーナリングABS」なども搭載されるようになってきた。

バイクの姿勢を検知する6軸IMU(慣性計測装置)などの採用がスーパースポーツモデルを中心に始まっており、ABSの制御にも活用され始めているのだ。

さらにABSの解除を任意で選択したり、ABSの介入度を段階的に調整できるシステムも登場するなど、電子制御テクノロジーの急速な進化に伴いABSも日進月歩の発展を続けている。

大型バイクでは前後連動ABSを採用するモデルも

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一方、「CBS」は前後のブレーキを連動させるシステムで、スクーターなど小排気量モデルに多く採用されている機構である。仕組みとしては、前後どちらかのブレーキをかけると、もう一方のブレーキにも自動的に最適な制動力を配分することで安全に減速させるものだ。一部の大型モデルにも採用されてきた実績もある。

ちなみにホンダは後ブレーキを操作すると前ブレーキが連動する「CBS」や、前後ブレーキそれぞれが作動し合う「D-CBS」などを開発。BMWは前ブレーキを操作すると後ブレーキが連動するタイプや、前後ブレーキが完全に連動した「フルインテグラル方式」を投入するなど、メーカーによって連動方式や機構は異なっている。

また最近では、操作状況や車輪の回転速度に応じて前後ブレーキの制動力配分を最適化し、万が一の場合は「ABS」も介入させるという電子制御式の「前後連動ABS」なども、大型ツーリングモデルなどを中心に採用されるようになった。

二輪死亡事故の4分の1が防止できる

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ABSシステム開発のリーディングカンパニーであるボッシュ社の調査によると、「ABS標準装備化によって生命にかかわる深刻な二輪車事故の4分の1を防止することができる」と発表している。

欧州ではすでに、ABS装着により二輪車死亡事故が減少してきているというデータもあるのだ。

また、モータリゼーションの急速な発展に伴い、二輪車事故が急増している昨今のASEANや南米諸国でも、ABS装着義務化に向けての動きが活発化している。当然、ABSやCBS装着によるコスト負担はユーザーにも関係してくるところだ。

だが、こうした先進制動システムは、初心者を含めたライダーにとっての「安全性」という観点からは疑う余地もなく有用なテクノロジーだろう。

ディスクブレーキやFIなどもそうだったように、かつて特別だった装備が一般的なものとなり普及していくのが世の常だ。その時流を考えると、モデル名から「ABS」が消えるのは喜ばしいことと言えるだろう。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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