ノーベル文学賞オルガさん「書籍は人をつなぐ重要なツール」~フランクフルト書籍見本市から
10月16日、第71回目のフランクフルト書籍見本市(ブックフェア)が開催された。2019年の焦点は、著作権と書籍業界の発展についての2点だ。今年は20日までの5日間開催され、ノルウェーがゲスト国として特別展示を行っている。総勢100名以上のノルウェー作家が参加する予定。
2019年の書籍見本市には104か国の参加、展示スタンド数は7450に上り、連日大盛況である。
まずは10月15日プレス会議の様子をお伝えしたい。
同見本市のプレス会議は、メディア関係者を招いて毎年開催前日に行われる。今年の登壇者は以下の4名だった。
ユルゲン・ボース氏 : フランクフルトブックフェアCEO
ハインリッヒ・リートミュラー氏 : ドイツ図書流通連盟会長、書店経営
フランシス・ガリ氏 : 世界知的所有権機関事務局長 オーストラリア人弁護士
オルガ・トカルチュクさん : 2018年ノーベル文学賞受賞者
ここでは2019年書籍見本市に寄せた各人のスピーチを紹介しよう。
ユルゲン・ボース氏
出版業界では今大きな変革期に突入しており、紙媒体に比べて時間も費用もさほど掛からない電子書籍に移行しつつある。この流れにどう対応していくかが大きな課題だ。パラダイムシフト(転換)期において、読者をどの様に惹きつけていくか分析や評価や批判も含め、今置かれている現状を厳密に見極めて対策を打たねばならない。
発言の自由制限や人類の衝突など、様々な社会現象が発生している中で、出版業界の発展を続行するには、まず作家を守らなければならない。
また出版社なしでは明るい未来は描けない。書籍内容の充実、慎重、高い信頼性を元に活動していくことが重要だ。
今年のブックフェアで着眼したいキャンペーンは「Create Your Revolution」と題した、アートプラスサロンの開催だ。アートシーンでの活動家にインタビューして、将来どのように変わっていくべきかを語ったビデオを公開している。
ハインリッヒ・リートミュラー氏
発言の自由は、民主主義の基本中の基本。
グローバル化、電子化、環境保全、移民・人口移動、そして民主主義の発展など、様々な課題と並行して、書籍業界の形勢も変わりつつあり、これらに向き合っていかねばならない。一方で、多くの競争相手に切磋琢磨されながらも、出版社と書店は成長を続けている。
リートミュラー氏の言及通り、ドイツの書籍業界は好調だ。
2018年は過去7年ぶりに読者も増加し、売上高も微増ながらも右肩上がりを見せた。プレス会議で発表された最新情報では、2019年1月から9月までの売上高は前年比2,5%増を収め、年末までの見通しは明るいという。なかでも同期の実用書の売上高は前年比10%近くの増加となった。これからクリスマスシーズンの書入れ時に突入し、プレゼントとして一番高い人気の書籍販売に期待が寄せられている。
なお、リートミュラー氏は任期満了(6年間)で図書流通連盟会長をこの10月末に退任する。
フランシス・ガリ氏
今回のブックフェアにおける重点のひとつ、著作権の保護における専門家ガリ氏は、知的財産を保護することは、書籍業界におけるもっとも重要なバックボーンだと述べた。今後、より電子化が普及するなかで、新ビジネスモデルの草案作成についても示唆した。
電子技術の急速な進化普及による各業界へのインパクトは底知れないほど多大で、岐路に立たされている。技術の進歩に追いつけないほどだが、迅速に対応せねばならない。そのデジタル化の波にうまく乗り、業績を高めていくのは至難の業であるものの、グローバルな視点で著作権保護を守っていかなければならない。
実は、今ドイツでは電子書籍の消費減税案がささやかれている。現状19%から7%へ減税の声が高まっており、今度の動向に目が離せない。
オルガ・トカルチュクさん
本来、オルガさんの登壇はプレス会議の予定に入っていなかった。しかしタイミングよく朗読会ツアーでドイツ国内を巡っていたことから、その合間を縫って見本市会場に駆けつけてくださったという。
オルガさんが入場すると、ノーベル文学賞受賞後、初の公式記者会見とあって、メディアの注目度は最高潮に達した。前回報告したダン・ブラウン氏を取り囲んでの写真撮影にも増して、我先にと押し寄せるメディア関係者で会場は一時騒然とした。
受賞の連絡をどこで受けたかという質問にオルガさんはこう答えた。
ノーベル文学賞授与の連絡はドイツ国内移動中に電話を受けました。ベルリンからビーレフェルドへ向かう途中、サービスエリアに駐車して今回の朗報を聞きました。予想もしていなかった連絡に大変驚き、茫然としました。受賞後、最初の朗読会開催の街ビーレフェルドでは盛大なおもてなしをしてくださり、大変感激しました。
オルガさんは対談中、何度も「書籍は人と人をつなぐ重要なツールである」ことを強調した。
10月中旬行われたポーランドの総選挙の結果(欧州連合・EU懐疑派の右派与党「法と正義」が圧勝した)については、あまり歓迎していないと率直な意見を述べた。
多文化主義を否定し、司法やメディアへの圧力を強める方向の政権がこれから4年間続くことを懸念しています。多くの作家仲間がこれから自由な発言が出来なくなるのではと、危惧の念を抱いています。
背景には、ポーランドの総選挙結果だけでなく、香港警察とデモ隊との衝突をはじめ、世界で表現の自由や政府による検閲や威圧に対する抗議デモ活動が盛んになっていることもある。
プレス会議終了から2時間ほどして、ノルウェーからホーコン王太子とメッテ・マリット妃がフランクフルト中央駅に到着し、その後見本市会場にお目見えした。
メッテ・マリット妃は、紙媒体の書籍で本を読むと明かした。一方、王太子は電子書籍を気に入っているそうだ。子供の頃はメルヘンを読むのが大好きだったという同妃だが、当時はまさか自身がプリンセスになるとは夢にも思っていなかったようだ。
ドイツ書籍業界の実績や今後の課題については追って紹介したい。