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日本テレビのみなさまへ、生活保護についての悪意のある番組放送はやめてください

大西連認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長
日本テレビ番組紹介HPより

日本テレビのみなさまへ、生活保護についての悪意のある番組放送はやめてください

12月22日の19時~20時54分に、日本テレビ系列で『「ずるい奴らを許すな!」目撃!Gメン 徹底追及スペシャル(3)』が放送されました。

放送をみましたが、番組のなかでは生活保護の不正受給を取り上げ、不正受給をしたと思われる生活保護利用者を「ずるい奴」として、それを摘発する行政の職員をGメンとして描いていました。

番組で紹介された「不正受給」に対してのデータや、取材方法等について、ちょっと度を超えているのではないかと思いましたので、以下に書きます。

番組で紹介された2件の事例

番組では、愛媛県松山市と埼玉県加須市での事例が紹介されていました。

松山市の事例は、取材をしたのは昨年10月。病気で働けないという一人暮らしの30代の女性。匿名の通報で調査を開始し、風俗の仕事をしているという疑いが。

家の前で数日にわたり取材陣とともに張り込み尾行。Gメン(担当ケースワーカーではない人達)が夜に働きに出る女性を直撃し、後日、面談。本人は働いていることを認める。

その後、一時生活保護を外れるも、体調を崩し半年後に再度生活保護になるが、現在はまた生活保護ではなくなっているとのこと。

加須市の事例は、同じく取材をしたのは昨年10月。体調が悪く働けないという一人暮らしの60代の男性。大家から家賃の滞納をしているとの連絡があり調査を開始。滞納額は2年間で100万円以上にのぼるという。

滞納した分のお金の使い道は、宗教団体への寄付や、新聞を3紙とっている、宅配の牛乳、自転車や書籍、ネコのエサ代などの支出がかさんでしまったということ。大家からも立ち退きを求められていることもあり、いわゆる無料低額宿泊所(施設)に移ることに。

以上が、放送された番組を見る限りでの事例の内容なのですが、正直、こういった放送を内容することの意味、それから取材の手法に疑念があります。

張り込みや尾行をするのは職権の範囲内なの? そして、取材陣の同行は許されるの?

松山市の事例で気になったのは、風俗の仕事をしているという疑いがある女性に対して、数日にわたり、HP等で出勤時間を確認し、家の前で張り込みし、彼女が出てきたら尾行していること。そして、実際に数軒のホテルに出入りし仕事をしたであろうことを確認している。

もちろん、「不正受給」は悪質な場合は詐欺罪で告訴することができる。しかし、この段階ではまだ告訴しているわけでも、本人に直接話を聞いたわけでもなく、放送された限りでは、匿名の通報のみでここまでのことをしている。これは、職員の職権の範囲でやっていいことなのだろうか。

また、そこに、取材陣を同行させるという判断を松山市はしたわけだが、それは許されることなのだろうか。それこそ、通報が間違いのこともあるわけで、その場合、無実の人が張り込みされ、尾行されることになるし、そこをカメラで一日中追いかけられることになるわけで。生活保護利用者にそこまでやっていいという道理はないと思います。

プライバシーへの配慮は? 本人の許可を得て撮影していたの?

また、松山市での事例でも張り込みや尾行もそうなのですが、2つの事例で共通して、松山市と加須市が全面的に協力していることに違和感がありました。もちろん、個人が特定されないようにモザイク等の処理はされているのですが、これらの取材は、一体どのレベルで許可されたのでしょう。

当然ながら、取材にはプライバシーへの配慮が求められます。個人情報保護がこれだけ民間企業やNPO等の小さな団体にも求められる時代に、松山市と加須市はどのような議論を経て番組への取材協力をしたのでしょうか。きちんと、本人たちへの許可を得たのでしょうか。

特に、いわゆる「面談」の場にもカメラが入っていて、音声もとっています。面談は個室のブースで行われるのですが、ある種、取り調べの状況を報道陣が撮っているようなもので、かなり異常なことだと思いました。(その方へのプライバシーへの配慮で個室で面談するのにそこに取材のカメラが入っているというのは皮肉です)

もちろん、番組としてはその絵が撮りたいというのはわかるのですが、それを許した松山市と加須市の人権感覚は大いに疑います。

加須市の事例では、本人の通帳のコピーを取材陣にも見せていました。これも、本人の許可をきちんと得ていたのでしょうか。安易に職員が見せた、とは思いたくはありませんが、このような形でその人の財産情報がメディアに公開されているのであれば、かなり深刻なことだと思います。

また、許可を得ていたとしても、それは本人の同意を得たと言っていいのでしょうか「不正受給」として摘発され、生活保護が廃止(打ち切り)されるかもしれない状況での「同意」というのであれば、それはあまりにも乱暴です。

2つの事例ともに詐欺罪で告訴はしていない

そして、重要なポイントですが、2つの事例とも詐欺罪での告訴はされていません。

要するに、「返還請求」といって、費用は返さないといけないけれども、告訴するほど悪質だとは松山市も加須市も考えていない、ということです。

告訴するほど悪質ではないと両市が判断している事例を、通報から面談(ほぼ取り調べ)まで、それこそ、張り込みや尾行も含めて、取材陣が密着して映像を撮るというのは、強烈な違和感があります。

もし、日本テレビ側が「「迷惑な奴ら(番組タイトルより)」だから、こういった取材をしてもかまわないんだ」と考えたのであれば、その人権感覚を疑いますし、松山市や加須市も同様に考えていたのであれば、行政機関としてあるまじきことだと思います。

不正受給の放送の仕方について

番組内では、不正受給について、「近年増え続けている」と放送していました。

たしかに、近年、不正受給自体は増加傾向にありますが、それは受給者増が背景にあり(母数が増えている)、むしろ、一件当たりの金額は減少しています。

また、金額ベースでは生活保護費全体の0.4~0.6%と言われており、もちろん、なくなるにこしたことはありませんが、一般に思われている以上に、かなり割合としては少ないというのが実情です。

こういった番組放送により、「不正受給が多い」という誤った認識が拡がってしまうことに危惧を感じます。

不正受給については過去に書いたこの記事でデータ等も紹介しています。

また、番組のなかでも、「不正受給」の問題を取りあげるのであれば、その実態について学識経験者などの専門家のインタービューをとるなど、バランスを考えた配慮をするべきと思います。

必要なのは摘発でなく支援

実際に、例えば、松山市の事例については、放送された内容をみる限り、1年のあいだに生活保護になったり生活保護から外れたりとかなり収入に変動がある状況なのだなとわかります。病気があるということなのでなかなか安定した収入を得る仕事につくことが難しいのだと思いますが、であれば、丁寧な支援をおこなうことこそが肝要なのではないでしょうか。

加須市の事例ついても同様で、2年2か月滞納があったというのはかなりショッキングなことで、市側もこのことを2年2か月知らなかったのだな、と。いまは代理納付と言って家賃を本人を介さずに直接大家さんに渡す仕組みもあり、それを市側が使えば滞納はおこらなかったのに、と思います。

また、支出が多すぎてしまうことについては家計の支援が必要ですから、無料低額宿泊所に入所させて現金を渡さない、という手法をとるのではなく、金銭管理の支援を考えたほうがいいのでは、とも思いました。

特に、終わりのナレーションで滞納された分の金額はまだ返金されていない、とありましたが、そもそも、無料低額宿泊所では3食つきのところも多く、この方が入所したところの状況はわかりませんが、もし3食つきのところだと、本人の手元に残る生活保護費は数千円程度に抑えられてしまいます。ここから加須市への返還と大家さんへの返還になるわけですから、加須市が先にお金を返金してもらっているのだとすると大家さんへの返金は不可能です。

こういったことも含めて、放送する際にある一面のみを意図的に放送しているのであれば、それは非常に問題だと思います。

生活保護をめぐる番組放送は丁寧に

これは、日本テレビのみならず、他のテレビ各局や新聞、雑誌等のメディアにかかわる多くの人にお伝えしたいのですが、生活保護をとりあげるときは丁寧な取材をしてほしいということと、当事者への配慮はもとより、安易に誤解や偏見を招かないような工夫をしてほしいということです。

これは、今年の1月にTBSの「ビビット」という番組がホームレス問題を特集したときにも同様のことを書いたのですが、配慮のない番組や記事によって、不安を感じたり、傷つく当事者がたくさんいます。

また、生活保護への誤解や偏見が拡がってしまうと、必要な人が支援を利用することへの心理的な妨げになる可能性もあります。

特に、今回の番組では、個室のブースのなかでの面談の様子が撮られていたり、張り込みや尾行などが取材陣とともにおこなわれており、プライバシーへの配慮について大きな懸念を感じました。

正直に言って、一般の人に対して(しかも重大犯罪を起こして逮捕状が出ているなどでもなく)、ここまでするのかと驚くとともに、悪意を感じました。

「ずるい奴ら(番組タイトルより)」にはここまでやっていい、という考えが透けて見えるようで、そのことは明確に批判したいと思います。

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わっています。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言しています。主著に『すぐそばにある貧困」』(2015年ポプラ社)。

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