袋小路に追い込まれた日銀が打てる手段とは
12日の安倍首相とバーナンキ前FRB議長の会談では、バーナンキ氏が「金融緩和の手段はいろいろ存在する」と指摘したそうである。しかし、ヘリコプターマネーといった筋悪な手段は別にして、まともな追加緩和手段はほとんど残ってはいないと思われる。
日銀前理事の門間一夫氏はブルームバーグのインタビューで、マイナス金利拡大も量の拡大も慎重な判断が必要で、もはやバズーカ砲第3弾の「余地はない」との見方を示した。量は次第に限界に近づいており、そう遠くない時期に長期国債の買い入れペースを落としていくことが「常識的な将来の見通し」だと語っていた。
門間前理事は調査統計局長をはじめ、金融政策担当理事、国際担当理事を歴任し、5月末に退任したばかりである。2013年4月の時点で「多少野心的な目標であっても、気合で一気呵成(かせい)に2%に持っていこうという戦略は正しかった」と現在の日銀が行っている異次元緩和について肯定している面はあるものの、「気合」との表現を使うあたり、やや懐疑的な見方もしていたと思われる。
いずれにしても保有残高が年80兆円増えるペースで行っている長期国債の買い入れについて「永遠には続けられないのは当たり前だ」と前理事が指摘していることは重要である。(国債買入の)限界に「だんだん近づいているという認識は日銀も持っている」と語った点については、黒田総裁のこれまでの発言とは相反する。しかし、日銀としての本音の部分でもあると思われる。ここにきての債券先物の板を見ても流動性という面からは、やや危険な兆候も出てきている。
門間氏は、国債買入のペースを多少落としてもバランスシートは拡大し続けるので、引き続き緩和方向に行くという大きなフレームワーク自体は変わらないことを「しっかり説明していけば、引き締めになるとか為替相場の円高に作用するとか、そういう誤解を招く可能性は排除できる」と語ったそうである(ブルームバーグ)。日銀もこのあたりの落としどころをすでに探っているのではなかろうか。
さらに門間氏は、明確な効果が出ていないのにどんどんマイナス金利を深掘りしていくことは「慎重に考えた方がよい」とも語っている。「明確な効果が出ていない」とはっきり言い切ってしまっているが、これについて日銀執行部は認めたくはなかろうが、これが現実であろう。
7月28、29日の金融政策決定会合における追加緩和の可能性について門間氏は明言は控えているが、英のEU離脱など世界経済のリスクを重視するなら、追加緩和をするという判断はあり得るともしている。しかし、その場合の手段について門間氏は明確にしていない。
市場参加者も7月の決定会合では政府の経済対策とも歩調を合わせての追加緩和を予想する向きは多い。しかし、実際に何をするのか、何ができるのかと問われるとトーンダウンせざるを得ない。黒田総裁ならばあらたなバズーカを用意できる、バーナンキ前FRB議長のアドバイスをもらってのヘリコプター・クロダが生まれるのではとの憶測もあるかもしれない。しかし、日銀はすでに「常識的な判断」からは袋小路に追い込まれつつあることも確かであり、追加緩和を決定するとすれば、かなり無理をしてのものとなることも意識しておく必要があろう。