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2019年の世界の海水温、観測史上最高に

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
2019年7月の海水温と気温の平年差 (出典元: N: NOAA)

太宰治著『グッド・バイ』に、「キヌ子にさんざんムダ使いされて、黙って海容(かいよう)の美徳を示しているなんて、とてもそんな事の出来る性格ではなかった。」という一節があります。このように寛容な心を表す言葉に「海」が使われています。

実際、水は空気よりも熱容量が大きく、熱を貯めることができます。このため海は陸に比べ、温まりにくく、冷めにくいのです。

2019年の海水温、観測史上最高に

2019年もまた、海水温が観測史上最も高かったとする報告が発表されました。

13日、科学誌(Advances in Atmospheric Sciences)に発表されたチェン氏らの論文によると、2019年の海水温は平年に比べ0.075℃高く、観測史上もっとも高かったとのことです。

これで2番目に高かった年は2018年、3番目は2017年、4番目は2015年、5番目が2016年と、ほぼ毎年記録が更新されたことになります。

論文によると、海水温が0.075℃上昇するためには、228ゼタジュール(10の21乗、もしくは10垓)の熱量が必要とのことです。執筆者のチェン氏がCNNのインタビューに答えた内容によると、広島に落下した原爆の熱量は63兆ジュールなので、過去25年間で海に蓄積された熱量は、その36億個分に相当し、毎秒4個の原爆を海に投下し続けたのと同じ熱量とのことです。

海水温上昇による変化

言わずもがな、海水温の上昇は海面上昇を引き起こしています。衛星による調査では、過去10年間の世界の平均海面水位は、1900年以降でもっとも高かったということが分かっています。

また、海水温が上昇することで、海の中に含まれる酸素の濃度が下がり、海の生態系にも大きな影響をもたらしています。ある報告では、1960年からの55年間で海水の酸素量が2%減少したほか、酸素量がゼロの「デッドゾーン」と呼ばれる世界の海域の面積が4倍も増加したそうです。

(↑アメリカのメキシコ湾沿岸のデッドゾーンも拡大している)

海の役割

地球全体で蓄積された熱エネルギーの90%超は、海に吸収されているともいわれています。つまり海は、地球温暖化の影響を和らげる働きを持っているのです。

しかしながら海水温にとどまらず、気温の変化も顕著で、コペルニクス気候変動サービスは、2019年の世界気温は観測史上2番目に高かったと発表しています。

【関連リンク】

論文「Record-Setting Ocean Warmth Continued in 2019」 (PDF)

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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