「地獄だ」「どうすれば」 その時、成田空港では何が起きていたのか
台風の影響で交通機関がまひし、1万人を超える人々が成田空港で足止めとなった。「地獄だ」「どうすればいいの」など悲痛な声が聞かれた現場に、筆者は偶然居合わせた。現場では何が起きていたのか。
「陸の孤島」と化した成田空港
9日午後4時半ごろ、筆者を乗せたシカゴ発のJAL便は、予定より遅れて成田空港に到着した。早く都内の宿で休みたい。そんなことを考えながらふとスマートフォンを見ると、知人からこんなメッセージが届いていた。
「成田空港が陸の孤島と化しているようです」
自動入国ゲートと税関を抜け、第2ターミナル到着ロビーに出る。そこには、大勢の人で混雑していた。スーツケースに座りスマホをいじっている人。床に寝転がっている人。インフォメーションの列に並んでいる人。表情は一様に疲れている。
鉄道の切符売り場付近も、人であふれかえっていた。列に並ぶ人の顔ぶれを見ると、外国人の姿が目立つ。観光目的で来日した人も多いことだろう。小さな子供を連れた母親の姿もちらほら見られ、胸が痛む。
そこで得られたのは、JRは終日運休、京成電鉄も運行を見合わせているという情報だった。鉄道をあきらめ、どうしようかと思案していたところ、準備が整い次第、一部のバスが運行を再開するとのアナウンスが聞こえてきた。急いでバス乗り場へ行くと、すでに長い長い列ができている。これではいつ乗れるか分からない。タクシー乗り場も同じような状況だった。そんな折、京成電鉄が成田空港からの運行を一部再開するとの情報が流れた。人々は乗り場に向かって動き出し、筆者もそれに呼応した。
首都圏の「災害に対するぜい弱性」
列に並んだまま2時間が過ぎた。数百メートルはあろうかという列に並んでいる間に、次々と国際線欠航のアナウンスがこだまする。乗組員が空港までたどりつけていないことなどが理由だという。飛行機の到着を知らせるアナウンスも次々と流れる。そして、人口密度が増していく。深刻度は増すばかりだ。
2時間で列が進んだのは5メートルほど。並びながらも、何か代替案はないかと、成田エリアで利用可能なレンタカーやホテル、路線バスなどを検索したが全滅だった。前に並んでいた20代とみられる女性2人組は、腕時計に目をやり「これだけ待ってほとんど前に進んでないね…。もう家に帰りたいよ」と絶望した様子だった。周囲の人たちも「地獄だ」「どうすればいいの」などと口にしている。私も、同じ気持ちだった。
水とクラッカーと配布するとのアナウンスが流れた。空港で夜を明かすことを覚悟した人たちが、空港の隅でごろりと横になっている。このまま朝を待つしかないのか。
ふと、ツイッターで「成田空港」と検索すると、空路で成田空港外に退避したという人物の話を見つけた。急いで調べてみると、時間的に乗れそうな便を発見。すぐさま決済した。
きわどいタイミングではあったが、飛行機にはなんとか間に合った。搭乗してシートベルトを締める。飛び立って数分後、「あっ」と思った。成田市、いや千葉県が広域にわたり真っ暗だ。遠くに見える東京のものであろう光があまりに明るく感じる。その対比が、首都圏の「災害に対するぜい弱性」を表しているようで、急に怖くなった。
災害対策を「仕組み」としてつくる
東京一極集中が叫ばれて久しい。これだけ人や情報が集まっている以上、完全なる是正は難しい局面に来ているようにも思える。しかしながら、東日本大震災がそうだったように、こうした環境下で大規模災害が発生すれば、都市機能は完全にまひする。それでも、時が過ぎれば人々の災害の記憶は薄れていく。
ではどうすべきか。最終的にはやはり災害で交通がまひした際の対策を「仕組み」としてつくっておくほかにない。今回、混雑する人と車を見て、ライドシェアリングやタクシーの乗り合いが簡単にできる仕組みが必要だと感じた。また、鉄道が動かなければ空港の輸送機能が一気に低下するため、広域的にバスを融通し合うこともあってよいかもしれない。
もちろん、これらの案は素人が考えたものであり、実現可能性は分からない。しかしながら、皆の記憶が薄れないうちに、取り組んでおくべき課題だと強く感じる。これからラグビーW杯や東京五輪も控えている。議論するなら、今だ。