地球近傍小惑星「カモオアレワ」月から生まれたと米大学が発表。中国の小惑星探査機がサンプル採取へ
2016年に発見された地球近傍小惑星「469219 Kamo`oalewa(カモオアレワ)」は、月面での隕石衝突で飛び出した破片が小惑星になったものと米アリゾナ大学が地球、環境、惑星科学の専門誌『Communications Earth&Environment』に発表した。確認されれば、月を母天体とする小惑星は世界で初めての発見となる。小惑星カモオアレワは、2024年に中国が打ち上げる予定の小惑星探査機「鄭和(ていわ)」の目標となっており、表面の物質を持ち帰る計画だ。
Lunar-like silicate material forms the Earth quasi-satellite (469219) 2016 HO3 Kamoʻoalewa
小惑星カモオアレワは、ハワイ大学などが進める小天体観測計画、「パンスターズ計画」により2016年4月に発見された小惑星。発見時には「2016 HO3」という番号がつけられていた。直径は45~57メートル程度とみられ、岩石質のS型またはL型と考えられている。振動しながら地球の周りを回っているような軌道を描いていることから、ハワイ語で“振動する破片”を意味する「カモオアレワ」と名付けられた。
小惑星カモオアレワが太陽系ではもっともありふれたタイプの岩石質の小惑星で、ごく小さいにもかかわらず注目されるのは、その特異な軌道にある。月のように地球を公転しているように見えるが、地球から1400万キロメートル以上(地球~月の距離の38倍以上)と地球の重力が影響する範囲よりも離れているため「準衛星」と呼ばれる天体のひとつだ。こうした準衛星の軌道を持つ小天体は、カモオアレワを含めこれまでに5個しか見つかっていない。
このカモオアレワの起源について、アリゾナ大学は、月を母天体とする小惑星との論文を発表した。小惑星の母天体候補としては、カモオアレワがL型小惑星であった場合には太陽系初期にあった惑星の元となる物質の名残りである、小惑星バルバラの可能性が指摘されている。一方で、アリゾナ大学の研究者は「地球近傍小惑星が準衛星の軌道に移動する可能性は非常に低い」と考えたという。準惑星の軌道はあまり安定せず、比較的安定しているカモオアレワであってもおよそ500年前に現在の軌道に到達し、今後300年でまた別の軌道に移動する可能性が高いという。
カモオアレワは小惑星の中では小さく暗いため、毎年4月ごろしか観測チャンスがない。2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で観測することができなかったものの、アリゾナ大学の研究者によれば、2021年の新たな観測でスペクトル(表面の反射光のパターン)が既知の地球小惑星とは一致しないことがわかった。一致したのは、アポロ計画で持ち帰られた月の石のもので、このことから月を母天体とする説を提唱するにいたった。
カモオアレワは、地球の重力に捉えられて衛星となるには遠すぎるが、小惑星の中では地球に近い。JAXAが小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」で探査した小惑星イトカワや小惑星リュウグウ、アリゾナ大学の「オサイリス・レックス」が探査した小惑星ベンヌに続いて、将来の探査の候補として考えられてきた。中でも中国が2024年に打ち上げを予定している小惑星探査機「鄭和」は、小惑星の表面にドリルを打ち込んで探査機を固定し、表面サンプルを採取する方法を実施することを検討している。200~1000グラムと大量のサンプルを採取することを目標としており、打ち上げから2年後には地球にサンプルを届けて新たな彗星探査に向かう計画だ。
小惑星カモオアレワは、月から生まれた小惑星か、それとも太陽系初期の惑星の名残りか。中国が実際に小惑星サンプルを持ち帰ることができれば、月の石と照らし合わせて確認される期待が高まる。中国も嫦娥5号による月サンプルを手にしているが、アリゾナ大学が一致するとしたのはアポロ計画で持ち帰ったものだ。中国の持つ小惑星サンプルとアメリカの持つ月の石を比較検討するという、宇宙探査の二大強国のコラボレーションが実現するかもしれない。