売れ行き不振は前世紀から…百貨店やスーパーの売上高の推移をさぐる(2024年公開版)
・百貨店やスーパーの売上額は1990~1991年がピーク。それ以降売上は減少。
・飲食料品は売上の減少幅は小さいが、住関品や衣料品は約5~10年のサイクルで大幅な減少を示している。
・消費税率の引き上げ時には大きな駆け込み需要による売上増と、その反動が生じた。
・2020年は新型コロナウイルス流行の影響で内食特需による売上増を得た飲食料品以外で大きな減少。2022年に入ると大きな反動が生じており、回復の動きあり。
低迷続く衣料品と住関品
かつては憧れの場所、特に子供にとっては一日中いても飽きない場所だった百貨店やスーパー(※)だが、今やその勢い、商品やサービスに対するきらびやかさは見られない。需要や流通の大きな変化で相対的立ち位置を後退させているからだ。しかしそれでも多彩な商品が一堂に会する、言葉通り「百貨」が集まるこれらの店舗には、不思議な魅力を感じさせる。その店舗の営業業績の実情について、経済産業省・商業動態統計調査の発表結果を用い、確認をしていく。
その年次動向だが、現時点では年ベースで2023年分までの値が公開されている。
箇条書きにグラフから読み取れる動向を記すと次の通りとなる。
・1990~1991年がピークで、あとは下降、ほぼ前年比マイナスを継続している(売上額は減少の一途をたどっている)。
・飲食料品は他分野と比べれば下げ幅が小さい(おおよそマイナス5%未満に収まっている)。
・住関品や衣料品は1992~1993年の低迷時期を皮切りに、約5~10年のサイクルで大幅な減少を示している。
・衣料品は特に下げ幅が大きい。住関品も同様の傾向を見せていたが、2009年をピークとする下落期では衣料品の下げ方が著しい。リーマンショックは高額商品が多い衣料品に大きな影響を与えたように見える。
・衣料品、食堂・喫茶の2008~2009年の下げ幅はこれまでのパターンを逸脱するほどのもの。
・2009年は全分野でマイナス、2010年もマイナスだが、下げ幅は縮小(売上高の前年比における絶対額がマイナスであることに違いはなし)。
・2011年は震災の影響にもかかわらず、年ベースでは総売上・衣料品・飲食料品で下げ幅を縮小している。
・ここ数年では飲食料品は堅調だったが失速、衣料品の下げ幅は大きなものに。住関品はプラス圏への動きも見られるようになり、飲食料品とともに売上総計を支える形に。
・2020年は新型コロナウイルス流行の影響で内食特需による売上増を得た飲食料品以外は大きく下げる。特に多くの店が休業に追い込まれた食堂・喫茶の下げ方が著しい。2021年にはその反動が生じているが、わずかなプラスにとどまっており、売上額そのものは2020年時点の値とさほど変わっていない実情が確認できる。2022年に入ると大きな反動が生じており、回復の動きが把握できる。特に食堂・喫茶の動きが大きい。
これらの動向からは、百貨店・スーパーの低迷は昨日今日に始まった話ではなく、1990年前半以降継続中の問題であることが分かる。特に住関品・衣料品は1990年代後半以降、2004~2005年の好景気をのぞけばおおよそ前年比マイナス3%から6%の範囲で低迷した状態がしばらく続き、両分野が深刻な状況にあることが見て取れる。ただしここ数年では住関品も復調の気配が見られるのが幸いか。
2007年から始まる金融危機、さらに2008年のリーマンショックによる景気後退が原因の売上高の減少ぶりは、少なくとも1988年以降において類を見ないほどのもの。2010年に入って下げ幅はようやく縮小の雰囲気が見え始めたが、2011年の震災で再び頭打ち、そして2012年以降はようやく復調の気配が感じられる。2020年からの新型コロナウイルスの流行がすべてを吹き飛ばした感はあるが。
また、注目したいのは「食堂・喫茶」。金額が小さく、他の分野よりも直接客足に影響されやすい分野だが、こちらも衣料品同様の大きな下げが生じている。理由の一つは顧客の消費性向の変化(外食離れ)があるが、それと同時に店舗そのものへの来客数が大幅に減少している可能性を示唆している。実際、来客数の変動が店舗に併設・内包されている外食店の売上にも大きな影響を及ぼすことは、外食チェーン店の月次営業報告でも時折言及されたほどである。2020年の下げ方は来客数の減少に加え、店舗そのものが休業するケースが多かったのも要因だが。
消費税率改定で生じる大きな動き
消費税率の改定など滅多なことではなく、そのために百貨店・スーパーの売上にも大きな影響が生じている。そこで2019年9月と10月の売上前年当月比を抽出したのが次のグラフ。
耐久消費財が含まれ、消費税率改定前の「駆け込み需要」の対象となりやすい「その他(住関品など)」は特需として29.4%の上昇幅を示したが、その後の反動が生じる10月では15.7%の下落で済んでいる。
他の項目も似たようなもので、飲食料品や食堂・喫茶を除けば税率改定前の特需による上昇分より、10月の反動分の方が変化の幅は小さい。税率改定による消費性向の減少は、直前の駆け込み需要を食い尽くすほどのものではなく、1か月単位では案外軽微なものとしてとどまったことになる。
ただし反動による需要減退は2019年10月の1か月間で収束したわけではなく、11月以降も続くことになる。経験則では半年ぐらいは続くのだが(前回消費税率の引き上げとなる2014年4月ではおおよそ半年だった)、今回の引き上げの時期には上記で触れたように冷夏・暖冬、大型台風による大被害、そしてさらには新型コロナウイルスの流行という影響要素が多数生じているため、消費税率引き上げ単独の影響を推し量ることは困難である。
今件データからは、ここ数年においてクローズアップされているチェーンストアの低迷振りは「1990年代以降露呈していた構造的な問題による売上低迷」に加え「昨今の景気後退による加速化」が加わった、二つの要素によるものであることが分かる。2007年以降の景気後退、さらには2008年のリーマンショックはチェーンストアの業績悪化の全原因では無く、あくまでも既存の現象の後押しをした、加速化させた要因に過ぎない。仮に2007年以降も好景気が続いていたとしても、現状のような状態は遠からず発生したものと見て間違いない。
人口の減少や可処分所得の漸減も、売上減少の理由として考えられる。しかしそれでは、GDPの増加期や好景気の時に、売上が伸びないことへの説明がつかない。むしろ今件の百貨店やスーパーにおいては「コンビニやディスカウントストアなどの台頭」「インターネット通販の普及」「家族構成の変化」「消費者の消費性向の変化」など、競合相手の勢力拡大をはじめ、刻々と変わりゆく周辺環境の変化に対応し切れなかった点に、売上低迷の起因があると考えたほうが道理は通るというものだ。
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※百貨店やスーパー
経済産業省・商業動態統計調査では百貨店とスーパーの合計値となる大型小売店の値が計上されているため、今回はその値を用いる。
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