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どうにも止まらないゴミと騒音の南北の応酬  銃弾が飛び交うのは時間の問題!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
前線に配備されている対北放送用拡声器を点検している韓国軍(韓国国防部配信)

 かっぱえびせんの決まり文句の「やめられない、とまらない」ではないが、韓国と北朝鮮による「ゴミと騒音の応酬」には終わりが見えない。

 韓国軍合同参謀本部は今日(21日)、「北朝鮮が韓国に向けてゴミなどをぶらさげた風船を飛ばしてきた」と発表した。北朝鮮の「ゴミ風船」を阻止するため心理戦の最も効果的手段である拡声器放送を韓国軍が3日連続で行われている最中に北朝鮮は18日に続き、風船を使ってゴミを散布したのである。

 韓国は「拡声器放送に懲りてゴミ風船はもうやらないだろうと思っていたら飛ばしてきた」と思っているだろうし、北朝鮮は北朝鮮で「拡声器放送を毎日はやることはないだろうと思っていたら毎日やり始めた」というのが正直な実感ではないだろうか。現状は、どちらも相手が先に止めるまでは続けざるを得ない状況にある。

 脱北団代「自由北韓運動連合」の「ビラ風船」への報復措置として5月から始まった北朝鮮の「ゴミ風船」に対して「止めなければ、耐えられないようなあらゆる措置を取る」(韓国統一部)と公言していた韓国軍は6月9日に北朝鮮が前日(8日)に汚物風船を800個飛ばしたとして拡声器放送を開始した。但し、放送時間は午後5時から7時までの僅か2時間で、それも「北朝鮮が風船ビラを散布すれば、いつでも放送を再開する」と釘を刺し、1回限りで終了していた。

 しかし、馬に念仏の北朝鮮は放送終了から2時間後の午後9時頃から10日の明け方にかけて4度目のゴミ風船の散布を行った。その際、金総書記の妹、金与正(キム・ヨジョン)党副部長が出てきて「韓国が国境越しにビラ散布行為と拡声器放送挑発を並行するなら、疑う余地もなく新たな我々の対応を目撃することになるであろう」と韓国を牽制し、「ソウルがこれ以上の対決危機を招く危険な行為を直ちに中止して、自粛することを厳重に警告する」との談話を発表していた。

 それ以後、南北双方の「風船合戦」も拡声器放送も鳴りを潜めていたが、6月20日に「自由北韓運動連合」が、22日に別の脱北団体が宣伝ビラとコメの入ったペットボトル200本を北朝鮮に向け放流すると、北朝鮮は6月24日、25日、26日と3日連続で「ゴミ風船」を韓国に向け飛ばした。約70個がソウルや京畿道北部などに落下し、その影響で仁川国際空港では26日午前1時46分から約3時間、運航見合わせや欠航が相次いだ。

 今月も別の脱北団体(「同胞統一連隊」)が7月7日に軍事境界線に近い江華島から北朝鮮に向け大型風船10個でビラ20万枚を散布したのが始まりである。

 北朝鮮は一週間後の7月14日と16日に金与正副部長が2度にわたって報復を示唆すると、実際に7月18日午後5時から19日午前4~5時にかけてゴミなどをぶらさげた風船約200個を飛ばした。このうち約40個が韓国側に落下した。

 延べ8回目となる北朝鮮の「ゴミ風船」に憤慨した韓国は7月18日午後6時頃から19日午前4~5時までの10時間、軍事境界線の西側に設置された固定式拡声器の一部を稼働させ、再度拡声器放送を行った。前回は約2時間の放送だったが、今回は10時間と5倍に増えていた。

 韓国軍は北朝鮮が「ゴミ風船」を飛ばすのを止めるまで放送を続けるとして、18日以降連日、西部及ぶ中部前線に配備されている固定拡声器を使って放送を行っている。放送時間も伸び、20日の放送時間は午前6時から午後10時まで16時間に伸びていた。

 午前中から放送を開始したのは軍事境界線の北朝鮮側エリアで地雷の埋め立て作業などを行っている北朝鮮の軍人らにも聞こえるようにするためであるとされている。

 対北心理戦放送局の「自由の声」のアナウンサーが「人民軍のみなさん、こんにちは!朝早くから夜遅くまで地雷畑で価値のない労力に大変のことでしょう。地獄のような奴隷生活から脱出してください!」と、脱北を呼び掛けるような内容が含まれている。また、「多くの外交官が脱出している」と、最近韓国で話題になっている駐キューバ―参事官の亡命事実を伝えていた。その他にも韓国の大衆歌謡やKポップの歌なども放送しているが、放送は開城市まで届く。

 韓国軍は度重なる警告にもかかわらず北朝鮮が今日も執拗にゴミ風船を飛ばしたことから前線に配備されている固定式拡声器24個、移動式拡声器14個を全部フル稼働させ、一日16時間放送することを決定したようだ。北朝鮮にとって「耐えられないような措置」と、韓国はみなしている。

 一方の北朝鮮も「韓国の幼稚で汚らわしい行為が続く場合、我々の対応方式の変化が余儀なくされるであろう」と、金与正副部長が7月16日の談話で「新たな対応」を示唆していた。「新たな対応」が何を指すかは不明だ。

 現実に拡声器や「ゴミ風船」などの対抗措置で相手の心理戦を止められないとなると、究極的には力の行使、即ち「ゴミ風船」や「拡声器放送」の拠点を叩くほかないのかもしれない。

 かつて、北朝鮮は2014年1月に脱北団体がビラ風船を飛ばした京畿度蓮川の地点に対空機関銃を10数発発射し、2015年8月には「拡声器を撤去しなければ、すべての拡声器を焦土化させるための正義の軍事行動を全面的に開始する」と威嚇し、7発の砲弾を韓国に向け打ち込んだ過去があるが、同じような手段が行使されるようなことになるかもしれない。但し、それは決して北朝鮮の「専売特許」ではなく、韓国側もオプションとして真剣に検討しているふしがある。

 韓国与党「国民の力」の有力な政治家で、国防委員会の委員でもある成一鐘(ソン・イルチョン)議員は「国民日報」とのインタビューで「我々は黄海道にあるゴミ風船の拠点13カ所をすでに把握している。我が軍はいつでも攻撃することができる」と、北朝鮮が止めなければ武力行使も辞さないと、北朝鮮を牽制していた。

 どちらが先に手を出すのか、それが問題である。そうなれば、戦火は避けられないだろう。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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