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過半導体って何だろうか?

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

 京都工繊大学教授の小林和淑さんから「過半導体」という言葉を広めてほしいと言われた。この半導体不足のご時世に「過ぎたる半導体」とは何だろうか、と思った。同氏に問い合わせてみると、コンセントに差す電気製品は全て半導体を使っているという意味だという。半導体がいっぱいあるということを表している。確かに、コンセントや電池を使う電化製品にはほぼ100%半導体が入っている。

図1 京都工繊大学教授の小林和淑氏
図1 京都工繊大学教授の小林和淑氏

 それだけではない。RF-IDのように電池も電源もないICチップさえある。電源なしで半導体ICは動く、と言うと誤解されやすいので、一応ざっと説明しておくと、RF-IDだって電池はないが電源回路はある。RF-IDのリーダー(読み取り機)、例えばJRのICカードである「スイカ」は、改札口の上の丸い模様の位置にカードを置くと読み取ることができる。丸い模様の位置からカードにRF(高周波)電波を発射し、カード側で高周波の電波を受け取り、その電波のエネルギー(交流)を整流し直流へ変換し直流電源とする。その直流電源で小さな主回路を動作させ、カード内に蓄積された金額情報と日時を満たしているかどうかをチェックし、格納されている金額以内などであれば、改札のバーが開く、という仕組みである。極わずかのエネルギーだけで動作できるため、電池もコンセントも要らない。「数百円の商品もRF-IDタグで管理できる時代に」で書いたユニクロの商品タグもまさにRF-IDである。

 実にいろいろな所に半導体ICチップが使われている。産業としても実に日本に適した産業なのに残念ながら総合電機の経営者は半導体を手放してしまった。しかも40nm以下は設計も製造も開発してはいけない、と上司から言われたエンジニアも少なくない。半導体産業の重要性を認識も理解も経営者ができなかったために今日の悲劇を招いた。悲劇とは、世界の半導体産業が成長し続けているのにもかかわらず、日本だけが成長していない、という経済のGDPと全く同じ動きを半導体産業がしていることである。

 しかし、今からでも遅くはない。半導体産業はこの先20年も30年も成長し続ける産業だからこそ、政府が何とかしようという策は評価できる。半導体が盛んになり雇用が増えれば経済的にも豊かになれるからだ。成長し続ける理由は三つ:(1)ムーアの法則は2次元から3次元へと形を変えて続く、(2)新技術が今も出現し続けているため、数年後には量産が始まる、(3)人間の知恵であるソフトウエアをチップに埋め込むことができる。この三つに限界はまだ見えていない。

 世界が成長し続けているのに日本だけが成長していない。日本しか見ていなければ、半導体は没落産業と考えるのが普通だと思ってしまう。一方、成長している世界から見ると日本は時計が止まっているように見える。例えば韓国のテレビ局の記者から、「新型コロナではっきりしたことですが、なぜ日本の官庁や企業はこんなにITが遅れているのですか?」と聞かれた。日本も世界と一緒に成長していかなければ、給料が増えるどころか減りながら物価が上がるという超円安の状況になりかねない。インフレでお金の価値が下がりながら給料は増えないのである。

 すでにその兆候は見られる。シリコンバレーの一角であるサンフランシスコベイエリアでは、年収1200万円が低所得者層と言われている。決して冗談ではない。日本が成長して世界と競争できる社会に変えていかなければ本当に没落していく。

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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